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ひとつ屋根の下 第15話
「あ!そうだ、朝飯!!」
オレはハッと顔を上げると、慌てて立ち上がった。
こんなことしてる場合じゃねぇよ!莉玖が待ってる!
「あぁ、綾乃、朝飯は……」
「あ~もう邪魔っ!」
「……ぅっ!」
由羅が何か言おうとしていたが、気付かないフリでわざと由羅の腹に肘鉄 を入れて押しのけ、急いで中に入った。
「莉玖~!遅くなってごめんなぁ~!おはよぉおおお!!」
オレはリビングのベビーサークルに入っている莉玖の元へと走った。
『おはよう、綾乃くん。昨夜は大変だったのね。それにしても、兄さんがあんなおちゃめなことするなんて意外だわ。ね、兄とのキスはどうだった?』
莉奈がベビーサークルに肘をついて頬杖をつく真似をしながら話しかけてきたが、今は由羅がいるので無視だ。
何がおちゃめだ!!っつーか、お前見てたのかよ!!
「あぁ~の!お~!」
「うんうん、あやの!綾乃だぞ。おはよ~!」
「おた~!」
「莉玖ぅ~!それだと、おっは~!になってるぞ~。まぁ可愛いからいいか!」
ご機嫌で手を伸ばして来る莉玖をぎゅ~っと抱きしめる。
あ~……癒しぃ~~~……
微かにミルクの甘い匂いとベビーパウダーの匂いがする莉玖から、癒しオーラをたっぷり吸いこんで顔をあげた。
「よし、莉玖、すぐに飯作るからな!ちょっと待ってろ!」
「綾乃、簡単なものでいいぞ」
後から入って来た由羅が、何事もなかったかのように話しかけて来た。
「え?あ、いや、まぁ、ぅん、適当に……作る……」
このやろ……お前の分なんてねぇよ!!と言ってやりたかったが、口から出たのは、もごもごと歯切れの悪い言葉だった。
せっかく気分を切り替えようと思ったのに、なかったことにしようと思ったのに……
なぜか、由羅が何もなかったような顔をしているのは……ムカつく……!
何となく顔を背け、不貞腐れながら手早く朝飯を作った。
***
『ねぇねぇ、それで、兄とのキスはどうだったのよ?』
「あ~も~!うっせぇなぁ!どうもこうもねぇよ!!気持ち悪いに決まってんだろっ!」
由羅が仕事に出た途端、莉奈がまた話しかけてきたので、とりあえず莉玖をつれて地下室に来た。
莉玖をおもちゃで遊ばせながら、莉奈に答える。
「っつーか、お前の兄貴って、お、おと……男が好きなのか!?」
『え?う~ん、どうかしら。兄は見た通りの仏頂面だけど、作りは良いし、成績優秀で生徒会長とかもしていたから結構女の子にはモテてたし……何人と付き合ったかは知らないけど、彼女はいたと思うわよ?でも、男の人が好きかどうかは知らないわ』
「いや、彼女がいたってことは、女が好きなんだろ!?じゃあ、何でオレにキ、キスなんか……」
『だから、珍しいな~って。たぶん、綾乃くんをからかったんだろうけど、私は兄が誰かをからかったり冗談を言ったりしてるところなんて、初めて見たわよ?』
「からかっ……!?」
からかわれてたのかよオレ……
『あれ?え、綾乃くん?……あらやだ……ねぇ、もしかして、本当に初めて……だったとか?』
がっくりと落ち込むオレを見て、莉奈がからかい口調を改めた。
「は……初めてじゃねぇしっ!」
そうだ、オレは初めてじゃない!
キスなんて……保育園で子どもたちにいっぱいされたし!
ガキの頃に近所のチビらからもされたことあるし!
今朝のキスがファーストキスってわけじゃないっ!
『え~と……子どもの頃のとか、保育園の子どもにされたのは……カウントに入らないんじゃないの?』
「うるせぇえええ!オレは認めねぇええええ!オレの……オレのファーストキスが由羅なんかに奪われたなんてっ!ずぇええええったい認めねぇえええっっ!!」
防音なのをいいことに、涙混じりに思いっきり叫んだオレを、触れない手で莉奈がよしよしと撫でてくる。
オレがいきなり叫んだにも関わらず、驚きもせずになぜか莉玖まで一緒によしよししてくれた。
「莉玖ぅうううう~~~~!!お前は優しいなぁ~!!」
莉玖を抱きしめて頬をスリスリすると、莉玖はキャハハッと喜び、もっとしてくれとねだって来た。
『ほら、あの~……兄はからかってただけだし、男友達とふざけてしちゃった!みたいなもので、さっきのもノーカンだよ!ノーカン!!ね?だから、泣かないで?』
莉奈が必死に慰めてくれるが、いまは何を言われてもなんだか虚しい……
「ぅぅ~~……」
くそぉ!マジで何なんだよあいつは!
家はなくなるし、大事なファーストキスは奪われるし、散々だっ!
***
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