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ひとつ屋根の下 第19話

「私は……子どもが苦手なんだ」 「お、おぅ。だろうな」  それは見ればわかる。  莉玖に話しかけるのもぎこちないし、接し方もぎこちない。  何をいまさら…と思ったが、由羅が真面目な顔で話しているので、ひとまず大人しく聞くことにした。 「妹とは九歳離れているんだが、妹の面倒は姉がみてくれて、私はほとんどみることがなかった……」 「まぁ、妹弟がいれば子どもが得意かって言ったら、そういうもんでもないだろ」 「以前、綾乃に、もっと笑えと言われただろう?」 「え?あぁ、言ったな」  あまりにも常に仏頂面だったから、もうちょっと笑えと言ったのだ。 「私は幼い頃から表情が乏しかったらしいが、祖父から、上に立つ者は周りに感情を読まれないようにしろ、と教え込まれたので、余計に感情を表に出すのが苦手になってしまった。だが、まだ妹が幼い頃に、「顔が怖い」と泣かれたことがあってな……それが子ども心にショックで、私なりに鏡の前で笑う練習をしたこともあったんだ。まぁ、笑ったら笑ったで、その顔も怖いと言われてしまったので、それ以来、練習なんてしても無駄だと思ってしていなかったが……」  え、由羅が鏡の前で練習?  待って、じゃあ、オレが笑えって言った後も、もしかして……鏡の前で練習してたとか? 「これでも、綾乃に言われてから、また表情を作る練習をしているんだ……」  マジで練習してたあああああっっ……!!  何こいつ、見かけによらず可愛いとこあんじゃねーかっ!!  顔がにやけるけど、今笑っちゃダメだよな……耐えろオレ!!    オレはにやけ顔を見られないように、枕に顔を押し付けた。 「なぁ、綾乃。やはり私は莉玖にも怖がられているのだろうか……」 「え……?」 「妹は、私の顔が怖いと泣いて以来、何歳になっても私のことを怖がって……結局まともに話すことはなかった。だから、莉玖も……」  あぁ……莉玖が自分に懐かないのが顔のせいだと思ってんのか。 「……ば~か。そんなことねぇよ。莉玖はお前のこと怖がってなんかねぇし、それにお前は表情の変化がちょっとわかりにくいだけで、表情が乏しいわけじゃねぇよ?」  まぁ、自分の表情なんて、余程意識して作った顔じゃなきゃ普通はわかんねぇよな。  オレも自分が子どもたちにどんな顔してたかなんてわかんねぇし…… 「――私がそんな顔を?」  オレが見た由羅の表情をひとつひとつ上げていくと、由羅が訝しげにオレを見てきた。  なるほど、あの表情は完全に無自覚なんだな。 「うん、だから、そんなに気にすることないと思うぞ。素の顔が怖いのは仕方ねぇし、オレも保育園で目つきが怖いって言われたこともあるし?だけどさ、子どもは顔だけで判断したりしねぇよ。だいたい、莉玖がお前よりオレに懐くのは、オレといる時間のほうが長いからで、全然お前に懐いてないわけじゃねぇだろ?」 「綾乃は別に怖くないぞ?ちょっと釣り目だが、笑うと可愛いし、莉玖に対しても優しいし……」 「そ、そうか?ん~……オレあんまり子どもには意識して顔作ったことねぇんだよな……ほら、笑わなきゃって思うと逆に力が入りすぎて笑えねぇだろ?」  って、そうだよな……意識すると余計に笑えないんだ……それなのにオレ由羅に…… 「……だから、お前も無理に笑わなくていいよ。お前が莉玖のことを大切に想ってるのはわかるし、それは仕草や声に出てるから、ちゃんと莉玖にも届いてるぞ。前にオレが言った言葉は忘れろ。無茶振りして悪かったな。お前は今のままでいいよ」 「そうか……ありがとう」 「え?お、おう」  由羅に礼を言われるとは思わなかったので、ちょっと照れた。  そんなオレを見て、由羅が少し口元を綻ばせた。 ***

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