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ひとつ屋根の下 第20話
「綾乃は表情が豊かだな」
「オレ?そうかなぁ……まぁお前よりは表情がある方だとは思うけど」
オレは自分の顔を撫でながら、小首を傾げた。
っていうか、お前に比べれば大抵のやつが表情豊かってことになると思うけど?
「コロコロ表情が変わるから、面白い」
「おも……!?そ~か、だからしょっちゅうからかってくんのかっ!!」
「……そうだな。拗ねた顔も可愛いからな」
「かわっ!?もごっ……」
思わず大きな声を出しかけたオレの口を、由羅が手で塞いだ。
「シィー!声が大きいのは元気が良くていいが、今はちょっと抑えろ」
「ご、ごめん……ん?っつーか、お前が変な事言うからだろうがっ!」
声を抑えながら由羅の頭をペチンと叩いた。
何が拗ねた顔も可愛いだよこの野郎っ!!
バカにすんのもいい加減にしろっつーの!
「別に変な事なんて言ってないだろう?可愛いものを可愛いと言って何が悪い」
由羅が、何が悪いのかわからない、という顔でオレを見て来る。
「おまっ……あ~、そうか、お前みたいなのを天然タラシっていうんだな!?」
「なんだそれは?」
「さぞかしお前はモテるんだろうなってことだよっ」
「まぁ、否定はしない」
サラッと言い放つ由羅にイラッとするが、グッと堪 える。
だってここで怒るとオレが僻 んでるみたいになるだろう?
くっ……やしくなんかねぇしっ!!
「そういう綾乃こそ、女の子にモテそうだな」
由ぅ~~羅ぁ~~~!?
「ああ‟?それは嫌味かこらっ!どうせオレは年齢=彼女いない歴だよ!文句あっか!?」
カッとなったオレは、思わず由羅の腹の上に跨って胸倉を掴んでいた。
「ぉっと……ん?年齢=彼女いない歴って……じゃあファーストキスは誰としたんだ?」
由羅は、そんなオレの行動に怒るでも驚くでもなく、平然とした顔でツッコんできた。
「はぁ?……あっ!」
由羅に言われて、ファーストキスを由羅に奪われたことを思い出した。
くっそ、せっかく忘れてたのにぃいいいい!!!
「あ~、えっとその……」
「誰とした?」
「えっ?ちょっ、なにっ!?」
オレが動揺している間に、気がついたら位置が逆転して由羅に見下ろされていた。
あれ?何だこの状況?オレ負けてんじゃん!?
「綾乃、誰とキスしたんだ?」
「な、なんで……んなことお前に言わなきゃいけねぇんだよっ!」
「いや、普通気になるだろう?」
いや、気にならねぇだろぉおお!?
「綾乃?」
視線を逸らして口唇を噛みしめていると、由羅が口唇に触れてきた。
「誰とした?」
あ~~もぅ!ほんっとこいつしつこい!!!
そうだな、最初からこいつ言い出したら聞かねぇんだったわっ!!
「ぅ……~~~っガ、ガキの頃に、近所のチビとしたんだよっ!後は、保育園の子どもたちとか……」
オレが不貞腐れながらもじょもじょと呟くと、由羅がキョトンとした顔をした。
「子ども……?」
「……んだよ!!笑いたきゃ笑えよっ!」
「ふっ……くくっ……」
由羅が横を向いて軽く吹き出すと、声を押し殺して肩を震わせながら笑った。
「おま……っ!!何笑ってんだよこらぁ!」
「綾乃が笑いたきゃ笑えって言ったんだろう?」
そうだけど、本当に笑われると何かムカつく!!
さすがに雇い主の顔を殴るわけにはいかないので、由羅の腕をペチペチと叩いた。
「くそっ!もういい!退けよ、オレ部屋に戻る!」
「すまない、笑うつもりはなかったんだが……というか、こんなに笑ったのは初めてだ」
「あぁ、そうかよっ!良かったな!っつーか、お前わりと笑ってるだろ!?」
何が初めてだだよ!?
しょっちゅうオレのことバカにして笑ってるじゃねぇかよっ!!
「あぁ……そうだな。綾乃といるといっぱい笑えるからいいな」
「ふぇ?」
由羅が今まで見たことないような優しい顔で笑った。
その顔に思わずドキッとしてしまう。
いや、ドキッじゃねぇよ!!
何でこいつにときめいてんだよ!?
オレの心臓しっかりして!?
***
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