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ひとつ屋根の下 第21話

「ところで、さっき莉玖に言っていたおもちゃって何のことだ?」 「え?あ~、えっと……保育園では制作っていうのがあって――……」  さっきの勢いで部屋を出ていけば良かったのに、由羅の笑顔に動揺していたオレは、問われるまま返事をしてしまっていた。  いつの間にか由羅はまた隣に寝転んでいて、何事もなかったかのように話を続けていく。 「それで、明日何か莉玖に作ってくれるのか?」 「そのつもり。まぁ、莉玖の機嫌と体調によるけどな。とりあえず今日買い物行った時に必要な材料は買ってあるし……」 「そういう材料費はうちにつけておけよ?」 「え?」 「綾乃のことだから、自分の財布から払ってそうだと思ってな」 「だって、そんなに高いもんじゃねぇし、莉玖一人分だから余った材料はまた別のもの作る時に置いておけるし……」 「ダメだ。保育園でも材料費は園が出すだろう?」 「え?いや、予算が~……ってブツブツ言われるからほとんど自腹だったけど?」 「はあ!?なんだそれは!?」 「え、ご、ごめんなさい!?」  なんだよ、オレなにか変なこと言ったか!?  っつーか、何でそんな怒ってんだ!?  急に由羅が怒ったので、思わず頭を抱え込んで謝ってしまった。  声を潜めて話しているので怒鳴られたわけではないが、なぜかやけに迫力があるのだ。  一瞬叩かれるかと思った……  何なんだよ一体……  べ、別に、怖いわけじゃねぇぞ!?  ちょっと、驚いただけだし!?  ほら、由羅って、顔が……うん、そうだな。顔のせいだな。 「いや、綾乃が謝ることじゃないが……すまない、驚かせたな」  由羅が、軽く息を吐いて、オレの頭をポンポンと撫でた。 「とにかく、今の雇い主は私なんだから、材料費は全てこちらで持つ。別に領収書を貰ってこいとは言わない。食材と同じでレシートを見せてくれればいいから」 「わ、わかった……」  じゃあ、買う時には一応聞いた方がいいな。  次から先に制作案立てて、由羅に見せるか? 「そんなに難しいことか?」 「え、な、何が?」  オレが考え込んでいたせいか、由羅がオレの眉間を撫でながら聞いてきた。  由羅はよくオレの頭や顔を撫でて来る。  こいつのクセなのかな?  莉玖にする時はぎこちないくせに、オレにしてくる時は慣れてるように感じる。  まぁ、モテるらしいから、彼女にやってる感覚で……って、オレは彼女じゃねぇし、そもそも男だっ!!  ってことは、こいつ誰にでもこういうことすんのか!?  誰にでも…… 「私はそんなに眉間に皺を寄せるような難しいことを言ったか?」  え?あぁ、眉間の皺ね!?それが気になったわけね!  だからって触るか!?  何か、顔面からは近寄るなオーラを出してるクセに、こいつ自身はグイグイ来るよなぁ…… 「あぁ、いや……そうじゃなくて、お前に払って貰うなら、保育園でしてたみたいに保育案っていうか、こういうのを作るっていうのを先に見せた方がいいのかなぁって思って」 「別にそこまでしなくてもいい。それに、先に見ちゃうと楽しみがなくなるじゃないか。出来上がったのを見せてくれればいいよ」 「そ、そうか?わかった」 ***  その後も、由羅にうまいこと誘導されながら今日一日の莉玖の様子をダラダラと話しているうちに、いつの間にかオレはうとうとしていた。 「綾乃、眠たいのか?」 「ん~……かえる……」 「……帰らなくていい。もう寝ろ」  由羅は、半分寝ながら起き上がろうとしたオレをベッドに押し付けると、また頭を優しく撫でてきた。 「ん……て……」 「すまない、嫌だったか?」  由羅が手を引っ込めようとしたので、オレはその手を掴んで自分から頭を擦り付けていった。 「ちが……ゆらの……て、きもちいぃ……もっとなでて」 「っ!?……そうか」  由羅がふっと笑った気がしたが、確かめることはできず、オレは由羅に撫でられながら心地良い眠りに落ちていった―― ***  ――ガキの頃はよく、同じ夜職の母親を持つ近所のチビ共を集めて一緒に寝ていた。  暗い夜に一人で寝るのは不安で淋しいと言って泣く奴らがいっぱいいたからだ。  みんな母親の柔らかい胸に抱かれながら眠りたい気持ちを堪えて、小さい身体を寄せ合って眠った。  あの頃……チビ共のためだと言いながらも、一人寝が淋しかったのはきっとオレも同じなんだ……   ***

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