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はじめてのお留守番 第24話

「えっ!もごっ……な、何だって?」  寝落ち事件からしばらく経ったある日。  由羅の隣に寝転んだオレは、思わず大きな声を出しそうになって自分の口を押さえた。  莉玖が眠っているのを確認すると、由羅に顔を近づけ声を潜めて聞き返す。  由羅のベッドで寝落ちして以来、由羅の部屋で莉玖を寝かしつけた後、そのまま一日の報告や買いたい物の相談をすることが日常になっている。  一応連絡帳は書いているのだが、直接言ってくれた方が助かると言われたからだ。  でもさすがに、あれ以来由羅のベッドで寝落ちしたことはない。 「出張が入った。明後日から海外に一週間ほど」  肘枕をした由羅が、もう一度繰り返した。 「え、海外!?」 「あぁ。莉玖のことがあるから、しばらく出張はキャンセルしていたんだが、莉玖も綾乃によく懐いているし、綾乃もここでの生活がだいぶ慣れてきたみたいだし……そろそろ大丈夫かと思ってな」 「そりゃまぁ、懐いてはいるけど……でも、一週間って長くないか!?」  確かに、莉玖はオレに懐いている。  でも一週間もオレだけで莉玖をみるのは…… 「いや、これでも短い方だ。以前は一ヶ月単位で出張していたからな。だいぶ無理を言って一週間にしたんだが……無理か?」 「うえっ!?いっかげ……マジかよ……」  一週間でも短い方……オレは出張とかってよくわかんねぇけど、そんな長期的に行くもんなのか?  母親の再婚相手も海外行ってるけど、あれは海外赴任であって出張じゃないしな~……  いや、でも海外なんだから、往復だけでも時間かかるだろうし、そういうもんなのかもしれねぇな…… 「え……と、でもお前がいない時に何かあったらどうしたらいいんだ?」 「何かとは?」 「ほら、え~と、例えば、莉玖がケガをしたり、風邪を引いたり……オレはもちろん、我が子のように莉玖を大事に想ってるけど、本当の親じゃないんだ。何かあった時に、その、本当に例えばだけど!入院とか、手術とか……そういう時には親の承諾がいるんだぞ!?」  オレにできるのは、なるべくケガや病気をさせないように気を付けることと、病院に連れて行くことだけだ…… 「ケガは綾乃に任せておけば、ほぼ心配はないと思うが……そうだな、風邪か……」  だから、お前のそのオレに対する謎の信用、というか、信頼感は一体どこから来てんだ……  由羅は、オレを雇いたいと言って来た時から、やけにオレのことを信用しているような発言をしていた。  その数日前にはオレを犯罪者呼ばわりしたくせにな!? 「う~ん……まぁ、莉玖は今のところ保育園に行ってないから、他の子からもらうってことは少ないと思うけど……子どもに多い感染症とか……時期的にも流行性のものもあるし……」 「わかった……ちょっと調整してみる……」  由羅が眉間に皺を寄せ軽く息を吐いた。  こめかみを軽く掻くと、起き上がって携帯を手にした。    調整してみるって、今から!?  いやいや、だって、出張は明後日だろ!?  そんな直前にどうにかできるのか? 「あ、待っ……!」  オレはベッドから出ようとしていた由羅の服を掴んで、引きとめた。 「いやあの……行くなって言ってるわけじゃなくて!……オレは……あの……そういう緊急時の連絡先とか対応を決めてくれれば……」 「そうか?……う~ん、そうだな……じゃあ、もし私の出張中に何かあった時は、姉に相談してみてくれるか?姉にも伝えておく」 「あ、杏里(あんり)さんか。そうだな!うん。わかった!」  杏里さんは由羅の姉で、子どもが四人いる。  由羅家で働くようになってから、育児の先輩として莉玖のことでいろいろと相談にのって貰っている。  それに、料理もたまに教えて貰っている。  オレの中では由羅よりも頼りになる人だ。  冷静に考えれば、杏里さんに相談すればいいとわかるようなものなのに……オレなにテンパってんだよ……だせぇ…… 「悪ぃ、出張があるとか聞いてなかったから、ちょっとテンパった……」 「いや、先に伝えていなかった私も悪い。すまなかったな、驚かせて」  気まずくなって俯いていると、由羅が頭をポンポンと撫でてきた。  もう何か、由羅のペット扱いには慣れたし、それにオレも、由羅に撫でられんのは……そんなに嫌じゃねぇから最近はツッコまずにスルーしている。  それより……今までは、由羅がいるのが当たり前だったから、何かあれば由羅に連絡すればいいって安易に構えてたけど、今後慣れてきたらもっと出張が多くなるってことだろうし、今のままじゃダメだな! 「やっぱり、こういう時のマニュアルもちゃんと作っておくべきだよな!うん!」 「ん?あぁ、そうだな。そういうのは綾乃に任せる。必要なことをまとめておいてくれ」 「わかったっ!!じゃあ、オレ部屋に帰る!あ、お前、出張の用意とかって……どうすんだ?」 「あぁ、それは自分でするから大丈夫だ」 「そうか、まぁ、忘れ物がないようにしろよ?」 「わかってるよ。おやすみ」 「おやすみ!」  オレは部屋に戻ると早速、緊急時の対応マニュアルを作成した。 ***

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