25 / 358
はじめてのお留守番 第25話
「じゃあ、行ってきます。莉玖、いい子でいるんだぞ?」
「パッパー!」
「行ってらっしゃい」
出張の朝、由羅はいつもと同じように家を出た。
いつもと違うのはスーツケースを持っていることだけだ。
それなのに……扉が閉まった途端に心細く感じるのは何なんだ……
いやいや、たった一週間だろっ!
「おっし!莉玖~!今日から一週間は綾乃と二人っきりだぞ。よろしくな!」
「あい!」
「うん、パパが帰って来るまで二人で一緒に頑張ろうな!」
『あら、私もいるわよ~?……って、綾乃くん、何だか淋しそうね?』
莉奈がちょっとからかうように笑った。
はあ!?淋しくなんかねぇよ!!
別に由羅なんていなくても……たいして変わらねぇし!
……うん、何も変わらねぇ!大丈夫、いつも通りだ!
オレはいつも通り、家事を済ませて、莉玖と制作やリズムあそびをして過ごした。
「――あ、もうこんな時間か。そろそろお散歩行くか~!今日はいい天気だから、お散歩日和だな!でも、お外寒いからあったかくして行こうな!」
「あい!」
「いいお返事だ!」
天気予報を見ると、天気がいいのは今日だけで、明日からしばらくは天気が崩れそうだ。
天気が悪いと莉玖を連れては買い物に出られねぇから、今日多めに食材を買っておかなきゃな……
***
「お、今日はお魚安いぞ~莉玖!やったな!え~と、どれにしようかな~……莉玖にはこっちで、由羅とオレは……」
いつものクセで、由羅を頭数に入れて計算していることに気付いて手が止まる。
いやいや、あいついねぇからっ!!
あ、そうか。由羅がいないってことは、莉玖の分だけ作ってオレは適当に値引き品を買えばいいか……
『あら、買わないの?安いんでしょ?』
カゴに入れた切り身を元に戻したのを見て、莉奈が話しかけてきた。
「今日はパパいないのに、パパの分まで買うとこだったぜ、ダメだなオレ」
莉玖に話しかけたフリをして莉奈に答える。
苦笑いをしたオレに、莉玖が無邪気に手を伸ばして笑った。
『あぁ、そういうこと……別にいいじゃない。どうせ2~3日は買い物に来れそうにないんだから、余分に買っておけば?』
そうだけど……
まぁ、それもそうだな、買っておくか。
莉玖の分にすればいいよな。
オレは由羅に一か月分の食費として五千円払っている。
保育園に行っていた時は毎月五千円給食費として払っていたと話したら、じゃあ、うちでも食費は五千円貰う、と言われたのだ。
そして、ちゃんと食費を払っているのだから、由羅たちに作るのと同じものを作って食べるようにと言われた。
だが、しばらくして気づいた……
給食費の五千円は昼の一食分だ。
一日三食分で計算したら五千円じゃ全然足りないってことじゃねぇか!?
そりゃあ、買うのはオレなんだから、オレが考えて買えばいいだけの話なんだけどよ?
自分で買う分には値引き品を狙うけど、莉玖や由羅に食わせるものは値引き品じゃないものでなるべく安いのを選んでたから、同じものを食えと言われたら困るんだよ。
オレの分まで買っちゃうと食費が……
『あのねぇ、綾乃くんは頑張って食費削ってくれてるけど、そんなに削らなくてもいいのよ?心配しなくても、兄は結構お金持ってるから、あなたの給料だってしっかり払ってくれるわよ』
そんな心配はしてねぇよっ!
由羅が金持ちなのは家を見ればわかるし、金銭感覚がオレとは全然違うのもわかってる。
ただ、だからって必要以上に金を使いまくるのはなんか……嫌なんだよ。
金は使わなきゃいけない時にどーんと使えばいい。
「あ、そうだ。莉玖の好きなうどんも買っておくか。寒いからあったかいやつ作ってやるからな~!後は……卵と~――」
二人分とは言え、2~3日分を買いだめしたのでまぁまぁの量になった。
このリュックで来て正解だな。
オレは登山用の50リットルサイズの大きなリュックに食材を詰め込んで背負うと、またベビーカーを押しながら家に帰った。
『そのリュック……すごいわね。最初はちょっと笑っちゃったけど、結構便利よね~!』
莉奈は、初めてこのリュックを見た時、背の低いオレが背負うと、ランドセルに背負われているような新一年生感があると言って大爆笑していた。
このリュックは、学生時代にバイト先の人に貰ったものだ。
急にアパートを出なきゃいけなくなった日にも、ありったけの荷物をこのリュックに詰めて由羅の家に行った。
由羅の家に住まわせてもらうことになってからは、このリュックは専らこうやって買い物の時に重宝している。
***
ともだちにシェアしよう!