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はじめてのお留守番 第27話

 それからは毎晩、莉玖が寝る前にパソコンで由羅とやり取りをするのが日課になった。  画面越しに見える由羅に莉玖が大興奮で、画面をバンバン叩こうとするのを止めるのが大変だった。  由羅が帰ってこないのは何だか変な感じだったが、毎晩顔を見て話しが出来るので、あまり離れている気がしない。  莉玖も同じ気持ちだったのか、由羅がいなくてもぐずることもなく、ずっとご機嫌で過ごしていた。  たった一週間だ。  この調子で、由羅の帰宅までいつも通りの毎日を過ごしていれば大丈夫。  そう、思っていたのに…… ***  異変があったのは、5日目の夜だった。  ベビーアラームが鳴る前に、莉玖の泣き声と莉奈に起こされた。 『ねぇ、何か莉玖の様子が変よ!?熱があるのかしら、苦しそう!』 「んぁ?莉玖~どうした?」  ちょっと寝ぼけ(まなこ)で莉玖に触れると、明らかに熱い。  それに、泣き声もいつもと違う。  急いで検温すると、やはり高熱が出ていた。  寝る前は平熱だったのに……!?  どうしよう……何でだ?風邪か?それとも、何か別の病気!?  オレ何か変な物食わせたとか!?いやいや、変わったものは使ってねぇし、由羅がいない間の料理は、今まで食べてアレルギーが出てねぇ物しか作ってねぇ……  それに、アレルギーみたいな症状は出てねぇし……  あ、う〇ちは!?  一瞬頭の中がパニックになりかけたが、保育士時代の知識を絞り出して必死に冷静を保ちながら莉玖の様子を観察する。  今のところ熱以外には身体の異常は見られない。 「え~と……そうだ、とりあえず杏里(あんり)さんに連絡してみる!」 『そうね!姉さんなら、わかるかも!』  時計を見ると、夜中の2時だった。  深夜にも関わらず、杏里はすぐに出てくれた。 「あ、杏里さん、綾乃です!すみませんこんな夜中に!」 「綾乃ちゃん?どうしたの?」 「あの、莉玖が熱が高くて……寝る前は平熱だったんすけど、今は――」  莉玖の症状を簡潔に説明する。 「ん~……熱以外の症状はないのね?」 「それは今のところ大丈夫です。嘔吐も下痢もしてないですね。ちょっとぐずってるけど、今は少し落ち着いて……っていうか、声が元気ない感じで……」  両脇と首にタオルで包んだ保冷剤を当ててやったせいか、さっきよりは少し落ち着いていた。 「それなら、子どもによくある発熱かもしれないわね、とにかく今からそっちに行くから、一応病院に行く用意しておいて」 「はい、すみません!お願いします!」  電話を切ると、熱でぐずる莉玖のおむつを替えて、あったかい服を着せて、お出かけセット一式と病院セットを鞄に入れた。  普通なら、これくらいの症状なら、しばらく家で様子を見るんだろうけど……莉玖は俺の子どもじゃねぇから……  由羅から預かっている大切な命だから、少しでも異常があれば、病院に連れて行く。  だって、由羅は今はすぐに帰ってこれないんだから……何かあってからじゃ遅い! 「他には何か持って行くものあるかな?」 『え~と、え~と、後は……あ、ミルクは?いらないかしら?』 「う~ん、晩飯はちゃんと食ったし、今のところはミルクは いらないかな……でも、経口補水液用意してくる。水分補給は必要だからな。莉玖みててくれ」  もしもの時のためにと思って、経口補水液を常備しておいてよかった。 『わ、わかった!莉玖~大丈夫よ~!ママがいるからね!』  オレが莉玖のお気に入りのマグに経口補水液を入れていると、莉奈が莉玖を覗き込んでオロオロしていた。  莉奈は、真っ赤な顔で泣いている莉玖に触れようと手を伸ばしては、通り抜ける自分の手を悔しそうに見つめていた。  そうだよな……莉奈にとって莉玖は初めての子なんだから、莉奈だって不安なはずだ。  それに……苦しんでる莉玖を抱きしめてやりたくても莉奈はもう自分で抱きしめることができねぇんだから、オレがしっかりしなくちゃっ!!  赤ちゃんの頃は、幽霊が視えやすいらしい。  莉玖もたまに莉奈の問いかけに合わせて笑ったり、じっと莉奈のいる方を見たりしているので視えているのかもしれないが、まだ喋れないので本当のところはわからない。  でも、今だけでも視えていてほしいと願う。  莉玖、お前の母ちゃんはちゃんと傍にいて見守ってくれてっからな! ***

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