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はじめてのお留守番 第28話

「まぁ、ただの風邪だね。赤ちゃんはよく急に熱を出したりするからねぇ」  当番医がギャン泣き状態の莉玖の頭を撫でながらニコッと笑った。 「ただの風邪!?RSとかインフルとかじゃねぇのか!?」  オレにしがみついてくる莉玖をしっかりと抱きしめながら、医師に噛みつく。 「おや、お父さん若そうなのによく知ってるねぇ。大丈夫、今のところはよくある風邪だよ。ただ、熱や下痢が続くようなら詳しく検査した方がいいかな」 「今のところはって何だよ!?今検査しろよっ!」 「綾乃ちゃん!先生が大丈夫って言ってるんだから落ち着いて」  医師に掴みかかりそうなオレを杏里(あんり)が慌てて止めた。   「でも、杏里さん……」 「先生の言う通りよ。まだそんなに症状は出てないし、熱だけならすぐに下がることもあるからね」 「そうだよ、さすが、奥さんの方は落ち着いてるね」 「やだわ先生、奥さんだなんて~……」  医師に奥さんと間違われて、なぜか杏里はちょっと嬉しそうだ。  いや、オレお父さんじゃねぇし、杏里さんは奥さんじゃねぇからな!?  莉玖のことが心配だったが、二人がのんきに話しているのを見て、ちょっと冷静さを取り戻した。 「すみません……」 「いやいや、心配なのはわかりますよ。それに、小さいうちは何があるかわからないから、心配性なくらいがちょうどいいんだよ。早めに異常に気付いて対処してあげることが大切だからね」 「そうですよね~!だからほら、綾乃ちゃん、そんなにしょげなくていいのよ!……」  オレは杏里がまた医師と何やら愉しそうに話しているのをどこか遠くに聞きながら、腕の中の莉玖の背中を優しく撫でた。  莉玖は病院についてから、軽く二回嘔吐した。  診察を待つ間、病院の雰囲気に怯えて激しく泣いていたので、そのせいだろうと言われたけど……  着替えを持って来ている、と言うと、対応してくれていた年配の看護師さんが着替えさせてくれた。  その後は少し熱も下がってきている。    そうだな、確かに……今の状態なら、そんなに心配することないかな。  看護師から、家で様子を見る時に気を付ける点や、食事についていろいろと教えてもらった。  一生懸命メモを取るオレの横で、莉奈も真剣な顔で聞いていた。 「もしわからないことや、莉玖くんの様子が変だなって思うことがあったら、いつでも電話して来て下さいね」 「ありがとうございますっ!」  親切に教えてくれた看護師と医師に深々とお礼をすると、病院を後にした。 *** 「ねぇ、そういえば響一(きょういち)には連絡したの?」  家に帰ってきて、莉玖を寝かしつけていると杏里がふとオレを見た。 「え?あ、由羅(ゆら)のこと?……やっべぇ!連絡してねぇっ!!えっと、今向こう何時だ?」  響一と言われて一瞬誰のことかわからなかった。  そういや、あいつの下の名前って響一だったっけ。  普段、由羅としか呼ばねぇから…… 「あ~もう、綾乃ちゃんったら、緊急時はそんな時間とか気にしなくていいのよ!」 「そうか……緊急時は杏里さんに相談するように言われてたから……オレそのことしか頭になくて……でもやっぱり由羅が父親なんだからあいつに一番に連絡しておくべきだったよな……」  オレがしまったという顔で項垂れていると、杏里が背中をバシッと叩いてきた。  結構痛い。  杏里は、由羅よりも年上とは思えないくらいまだまだ若くて美人だ。  だが、さすがに四人育てているだけあって、いろいろとたくましい。  双子を産んでからは、さらに腕の力もついたのだとか。  由羅曰く、杏里がたくましいのは昔からだそうだが…… 「響一よりも私に先に連絡をしてきたのは間違ってないわよ?連絡したところで海の向こうにいる響一にはどうにもできないんだから、まずは私を呼んで正解。まぁ、莉玖が寝たら電話してやりなさいな」 「うん、そうだな、ちゃんと電話しておくよ!」 「もし響一が綾乃ちゃんに対して何か怒ってきたら、そんなに心配なら海外出張なんかしてんじゃないわよこのバカ!って私が言ってたって言いなさい。いくら仕事でも、まだ幼い莉玖を置いて長期出張なんてふざけてるわ。綾乃ちゃんに甘えすぎよ!結局子育てを甘く見てるのよね、あの子は……」  杏里が腕を組みながら整った顔を軽くしかめた。  以前杏里にちらっと聞いたことがある。  莉奈と莉玖が見つかった当初、莉玖は杏里が引き取るつもりだったらしい。  だが、杏里はまだ双子が幼くて手がかかる。それに……莉玖の事情が事情なので、もし杏里が引き取って向こうにバレた場合、杏里自身の子どもたちにも何か危害が加えられる可能性があると考えた由羅が、杏里の反対を押し切って自分が引き取ると言ったのだとか。  姉家族を心配してくれている由羅の気持ちもわかるけれど、姉としてはやはり、あの由羅が子育てなどできるはずがないと心配だったらしい。 「わかった。もし何か言われたら杏里さんがそう言ってたって言っておく」  オレが冗談めかして言うと、杏里がにこっと笑った。 「それじゃ、私はひとまず帰るわね」 「あ、うん。杏里さん、夜中に来てもらってごめん」 「気にしなくていいわよ。子どもは風邪ひきやすいからね、こういうことはよくあるの。うちの子もよく熱出したり鼻水垂らしたりしてるし。また何かあれば電話してきなさいね。遠慮なんてしなくていいからね」 「うん、ありがとう。助かりました!」  杏里は、また夕方来るわ、と言って帰って行った。   ***

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