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はじめてのお留守番 第29話

 杏里(あんり)が帰ってしばらくすると、莉玖(りく)の熱も少し落ち着いた。  だが、普段は寝つきがいい莉玖が、やはり体調が悪いせいかぐずってなかなか眠ろうとしなかった。  ようやく眠れた時にはもう昼に近かった。 「由羅(ゆら)に連絡しなきゃな」 『そうね』  莉玖は莉奈(りな)に任せて、ひとまず由羅に莉玖が熱を出したことをチャットで説明しておく。 「今は仕事中だろうから、まぁ、連絡入れておいたら後から時間ができたらかけてく……って、もうかけてきた!?」  時間がかかると思ったのに、意外にもすぐにビデオ通話がかかってきたので、ちょっとアタフタしてしまう。  待て待て、落ち着けオレ。  保育園でも、こういう時は保護者を不安にさせないように落ち着いて話すように言われてただろ!?  ちょっと深呼吸をしてからビデオ通話をオンにした。 「綾乃!?莉玖が熱ってどういうことだ?」  由羅が珍しくちょっと焦った顔をしていた。  眉間の皺がいつもより多い。  由羅の勢いに隣で莉奈が一瞬ビクついて、姿を消した。  あ、ずりぃ!莉奈のやつ、逃げたな!? 「あ、えっと、昨日の昼間は全然大丈夫だったんだけど、夜中に急に泣き出して、触ったら熱かったから熱を測ったら……」 「それじゃ病院は行ったのか」 「あぁ、すぐに杏里さんが連れて行ってくれた。病院で二回嘔吐したけど、その後は熱も下がってきて、朝方帰ってきて今は寝てる」 「そうか……」  由羅がほっとした顔をする。 「あの、病院の先生にも杏里さんにも言われたし、オレも保育園で赤ちゃん組担当してた時によく聞いたけど、赤ちゃんが急に熱を出すことはよくあるんだよ。もちろん軽い風邪じゃなくて肺炎とかいろいろあるから軽視はできねぇんだけど……とにかく今のところは落ち着いてる」 「……大丈夫か?」 「また何かあったらすぐに病院に連れて行くし、杏里さんも家のことを済ませたら来てくれるって言ってっから、心配しなくて大丈夫だ!」 「そうじゃなくて……あ、ちょっと待て」  話している最中に、由羅がパソコンから顔をあげた。  誰かと話しているらしいが、ミュートになったので何を言っているのはわからない。  やっぱりまだ仕事中……っていうか、そこ会社だよな。  向こうはまだ夕方くらいか? 「――すまない、綾乃。仕事が……」 「いや、っていうか、まだ仕事中だろ?とりあえずこっちは大丈夫だから。また何かあったら連絡するし、心配すんな。それじゃまた後でな」 「(あや)――」  由羅が何か言いかけていたが、向こうも忙しそうだし、こっちも莉玖が起きた気配がしたので言うだけ言って通話を切った。 ***  ベビーベッドを見ると、莉玖が目を開けていた。 「莉玖~おはよ。どうした?気分はどうだ?ちょっと熱測ろうな」 『熱下がってるみたいね』 「熱は下がったけど、ちょっとまだ目が元気ねぇな」  莉玖がちょっとぐずったので抱き上げてあやす。 「お茶飲めそうか?熱出ていっぱい汗かいたから水分補給しておかねぇとな」  マグを渡すと結構な勢いでぐびぐび飲んだのでちょっと安心する。 「こら、ゆっくり飲め。焦って飲んだらまた吐いちゃうぞ?」 「あ~の」 「ん?どした?」 「パッパ」 「え?」  莉玖がオレの背後を指差した。  通話は切ったので画面は黒いままだが、ここ数日はパソコンで由羅とやり取りしているので、パソコン=パパと話すもの、と覚えているのかもしれない。    いや、むしろ、パソコンをパパと思ってたりして……なんてな? 「あぁ、さっきまでパパと話してたんだ。夜には莉玖もパパと話せるかもしれないな。莉玖の元気な姿見せてやらねぇと、パパ心配で眠れねぇかもしんねぇぞ。早く元気になろうな!」  莉玖に笑いかけて、おむつと服を替えてやる。  良かった、下痢はしてねぇな。  このまま体調が戻ってくれたらいいんだけど…… 『あの兄が誰かを心配で眠れないなんてことはないと思うけどなぁ……さっきだってあんな怖い顔して。綾乃くんに感謝の言葉もなかったし!だいたい……』  隣で莉奈がちょっと頬を膨らませる。  どうやら莉奈の話が長くなりそうだったので、莉玖を連れて地下室に移動した。 ***

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