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はじめてのお留守番 第30話

 莉玖を下ろすと、莉玖は部屋の中をハイハイで移動し、いつも遊んでいるおもちゃを手にして遊び始めた。  遊ぶ元気が出て来たのは良い兆候だな。 「――感謝もなにも……オレはあいつから莉玖を預かってるんだし、逆にたった一週間留守にしたくらいで風邪ひかせるなって言われても仕方ねぇし……」 『何言ってるのよ、子どもは身体が弱いんだから風邪を貰いやすいのは仕方ないでしょう?ずっと家の中に閉じ込めているわけにもいかないし』 「そうなんだけどよ……でも、そういうのはわかんねぇ親もいるしな。大丈夫だ、オレ保育園でモンペの相手してたし、あいつらに比べりゃ由羅はまだマシだよ。オレや杏里さんが説明したらちゃんと話は聞いてくれるし。さっきだってちょっと顔怖かったけど、あれは……たぶん莉玖を心配してたからだと……」 『綾乃くん……ダメよ!兄にはもっとビシーっと言ってやんなきゃ!姉さんも言ってたでしょ?兄は綾乃くんに甘えすぎよ!』 「あー!おっ!」  莉玖が莉奈の言葉に反応して、同じように腕を組んで怒った顔で頬を膨らませた。 「あれ?莉玖、お前やっぱりママのこと視えてんのか?」 『え?視えてるの!?』 「だって、これ今お前の真似したんだろ?」 『……莉玖、……ママが視えるの?』 「んっまっま」 『そうそう、ママよ!え、嘘ぉ……視えるんだぁ~……しかも声も聞こえてるってこと!?どうしよう綾乃くん、嬉しいぃいい~』    莉奈が口元を手で押さえながら泣き出した。 「良かったな」 『うん!でもどうして急に……?』 「う~ん、赤ちゃんの頃には視える子は結構いるらしいぞ?ほら、何にもない部屋の隅とかを見て赤ちゃんが笑ったり泣き出したりすることがあるだろ?そういう時は霊のせいだって言うやつもいるな。実際オレが保育園にいた時も……ちょこちょこ霊が子どもにちょっかい出して来てたし」 『そうなんだ!?』  たいていは成長するにつれてだんだんと視えなくなり、視えていたことも忘れてしまう。  莉玖はどちらなのかわからない。  せめて莉奈のことが視えていた記憶は残っていて欲しいと思うが……視えるせいで苦労したオレからすれば、その能力自体は早く消えてしまえばいいとも思う。  莉奈だけが視えてるならいいけど、他の面倒な(やつ)まで視えちゃってたら……それはそのうちに莉玖に悪影響を及ぼすかもだし……  今のところは由羅のおかげで守られてるけど、その守りもいつまで続くかわかんねぇしな。  由羅がいないと、この家の守りは少し甘くなっていると思う。  さすがに海の向こうに行ってしまうと効力が届かないのだろう。  由羅が出張に行って四日目くらいから、少しひずみのようなものが出来ているのが気になっていたのだ。  オレの御守りとオレの力や莉奈の力だけでは、たかがしれている。  こんなんじゃ、由羅が一ヶ月も出張になったら完全に…… 『どうかしたの?』  上を見上げて険しい顔をしていたオレを、莉奈が訝しげに見る。 「気づいてんだろ?由羅がいなくなった途端にこの家の守りが甘くなってること」 『あぁ……そうね、私もこんなにすぐに効力が切れるとは思わなかったけど……でも考えてみたら兄の守護霊の力なんだから、兄が海外に行っちゃったらこの家の守りはなくなるわよねぇ……』  莉奈が少しのんきに答える。 「お前も一応守護霊だろ?何とかできねぇのか?」 『簡単に言ってくれるけど、私はまだ霊としては新米だし、莉玖の守護霊っていうのもみたいなものだから、力はほとんどないわよ!』 「いや、そんな威張って言われても……」 『だから、最初に言ったでしょ?兄の守護霊の力と、あなたの力があれば莉玖は大丈夫だって』 「そういや言ってたな。最初から他人任せかよ」  呆れてジト目で莉奈を見るが、莉奈の方は気にもせずに莉玖を見て笑う。 『まぁ、兄が帰ってくればすぐにまた守りは強化されるはずよ。変なのが入って来たとしても、この子に危害を加える前に綾乃くんがやっつけてくれるし!』 「そりゃまぁ……でも先が思いやられんな……一週間の出張でコレだもんなぁ……」 『あ、莉玖の風邪が、守りが弱くなったせいだと思ってるなら、それは違うわよ?』 「そんなことは思ってねぇよ。さすがに」  まぁ……ちょっとは関係してると思うけどな……  元々莉玖と莉奈は、莉玖の実父の許嫁から狙われていたわけだし……人の悪意は呪いのようなものだ。  許嫁は莉奈たちを殺したい程憎いと思っていたくらいなのだから(というか、実際に殺した可能性もあるわけだし)それだけの強い悪意なら、対象の生死に関わらず、思念として残っている可能性もある。  特に、莉玖の実父の気持ちが許嫁に向かなければ、憎悪は莉奈と莉玖に向けられたままだろうし…… 「次の出張までに、オレが持ってるのと同じ御守りを莉玖用に貰ってこようかな」 『あぁ、綾乃くんが持ってるやつ?それ確かに強いわよね。雑魚だったら近づけなくなってるもの』  莉奈は雑魚ではないらしい。  まぁ、そうじゃなきゃ守護霊にはなれねぇか。 ***

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