31 / 358
はじめてのお留守番 第31話
「うん、もう大丈夫みたいね。でも夜中にまた急変することもあるから油断はできないけど。でも食欲があるから大丈夫かな」
杏里は、晩御飯をペロリと平らげた莉玖の頭を撫でながら笑った。
あれから莉玖は順調に回復して、今もご機嫌で晩御飯を食べたところだ。
「杏里さん、すみません買い物まで……」
「いいのよ。今は莉玖を連れて買い物に行くのは無理でしょ?綾乃ちゃんの分もあるから、うちの子たちと一緒に食べて」
「はい!」
杏里は、我が子を保育園に迎えに行った帰り、買い物をして様子を見に来てくれた。
杏里の子どもたちに莉玖と遊んで貰っている間に、オレは杏里から料理を教えて貰った。
「あやのちゃんもたべよー!おいしいよ~!」
「おう、うまいか!いいなぁお前らは料理のうまい母ちゃんがいて」
杏里の子どもは五歳、四歳、二歳で、上の二人が男の子、その下が双子の女の子だ。
上から、一路(いちろ)、朱羽(しゅう)、歌音(かのん)、詩音(しおん)という。
杏里がオレを「綾乃ちゃん」と呼ぶので、子どもたちも「あやのちゃん」と呼んでくる。
名前でからかわれることが多かったので、あまり「ちゃん」付けで呼ばれるのは好きじゃないのだけれども……まぁ……杏里さんの子どもたちは可愛いから許す!
「あやのちゃんのママは?」
「オレの母ちゃんは、料理が苦手でな~……卵焼きもできなくていつもスクランブルエッグになってたな」
「え~?」
子どもたちが口々に声をあげて笑った。
「でも、たまに作ってくれるそれが嬉しかったんだよな~……」
料理は苦手だと言いながら、学校の行事や弁当の日には一生懸命作ってくれていた。
不格好でも、明け方帰って来て疲れているのに、母親として出来る限り頑張ってくれていた証拠だし、味も……まぁ……見た目よりは食べられるものだった。
「そっかぁ……よかったね!」
「あぁ、まぁ、母ちゃんが料理苦手だったからオレが頑張んなきゃって思って料理するようになったんだけどな――」
杏里の子どもはみんな素直で可愛らしい。
やんちゃで元気いっぱいの兄二人は、歳が近いせいかしょっちゅうケンカをしているらしいが、妹や莉玖の面倒はよく見てくれる。
特に一路 は長男だからかしっかりしている。
何となく……一路を見ていると、昔の自分を見ているような気になってくる。
「杏里さん、ごちそうさまでした!代わりますよ」
杏里はオレが子どもたちと食べている間、莉玖の相手をしてくれていた。
「あぁ、私はいいのよ。どうせ帰って夫に作るから、その時に一緒に食べるの。仕事で疲れて帰って来て一人で食べるのは侘 しいでしょ?だからたまには相手してあげないとね」
杏里の夫は大手企業の社長らしい。
あまり詳しく聞いたことはないけれど、由羅の実家はそれなりに由緒ある家柄で、いわゆる金持ちだということを今までの会話から匂わせていた。ということは姉の杏里も生まれた時からお嬢様だ。
お嬢様なら、それこそお手伝いさんとかいて、自分では料理とかしないものなんじゃないかと思うが、金持ちもピンキリなのだろう。
だが、運転手はいるらしい。
夜中に迎えにきてくれた時、車を運転していたのは杏里ではなかった。
うん、深く考えるのはやめよ。
どう頑張ってもオレみたいな一般ピーポーの中でも底辺にいる人間なんかに、お金持ちの事情なんてわかるわけがない。
ただ、今までお金持ちと言えば威張り散らして嫌な奴らと言うイメージだったが、由羅や杏里たちに出会って、金持ちの中にもいい奴はいるんだなと考えを改めた。
***
ともだちにシェアしよう!