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はじめてのお留守番 第32話
っかしーなぁ……昼間のあの様子なら、夜になったら急いで連絡してくると思ったんだけどなぁ~……
オレは、思わずパソコンの前で唸った。
『ほらね?だから、兄はそんなに莉玖のことを心配なんかしてないのよ。どうせ、急変すればまた連絡がくるだろうし、連絡が入らないってことは治ったってことだろう。くらいにしか思ってないわよ』
昼前に由羅に報告をしてから、由羅がいつ連絡をしてきてもいいようにオレはずっとパソコンの画面を開いていた。
それなのに、いつもの時間になっても連絡がこない……
『さ、莉玖~そろそろねんねしなきゃね。昼間いっぱい寝たけど、またお熱出たら大変だから、ちゃんとねんねしなきゃね!』
莉奈は、莉玖に自分が視えているとわかってからいつも以上に莉玖に話しかけている。
触れられないのは変わらないが、声や姿が視えているとわかっただけでも嬉しいようだ。
「よし、莉玖ねんねすっか!パパに元気になった姿見せてやりたかったんだけどな~」
「パッパ?」
「うん、元気になったよ~ってな」
「お~?」
「そうそう。それじゃ莉玖はねんねだ。今夜は熱出さずにねんねできたらいいな」
莉玖と額を合わせてぐりぐりすると、莉玖がキャッキャと笑ってオレの顔を手で触ってきた。
『あ~ずる~い!私もそれしたい~!』
莉奈が隣で文句を言っているが、オレに言われてもどうしようもない。
『そうだ!綾乃くんちょっと身体貸してよ!』
「かっ!……らだ貸すってお前それ乗っ取るってことじゃねぇか!」
思わず大きな声を出しかけて、急いで声を潜める。
『ちょっと借りるだけよぉ~!すぐに返すわよ』
「隣の家に醤油借りに来たみたいな言い方すんなっ!」
『なんで隣の家に醤油借りるのよ?』
金持ちにはこの感覚わかんねぇか……
「いや、ちょっと落ち着けよ莉奈、あのな?もしお前がオレの身体を乗っ取って莉玖に触ったとしてもな?見た目までは変わんねぇんだぞ?ってことは、莉玖にしてみればオレに触られてるのと同じ……」
『それでも、私は触れられるじゃないの!』
莉奈が泣きそうな顔で叫んだ。
莉奈の声で頭がガンガンする。
「なぁ、お前の気持ちはわからんでもねぇけどよ、でも他人の身体を乗っ取ったりしたら、守護霊になれねぇんじゃねぇのか?」
守護霊になる条件なんて知らねぇけど……でも他人の身体を乗っ取るのは良くも悪くもある程度力がなけりゃできないと思う。
守護霊はそれなりに力が必要だと思うけど、じゃあ守護霊がみんな身体を乗っ取るようなら、人間はみんな二重人格ってことになっちまう。
それとも、オレらが気づいてねぇだけで、結構乗っ取られてんのか?
『そうなのかしら……』
「とにかく、今だってまだ自称なんだろ?これから先ずっと莉玖の守護霊として傍にいたいなら、余計なことは考えねぇ方がいいんじゃねぇか?変なこと考えると悪霊になっちまうぞ?」
『……わかったわ』
莉奈がしょんぼりと項垂れた。
あ゛~~っ……もうっ!なんかオレがいじめてるみてぇじゃねぇかよぉ~……
でも、いくら莉奈でもさすがにこれは……気楽に承諾するわけにはいかねぇんだよな~……
***
『ねぇ、寝ないの?』
「ん?」
莉玖の隣で連絡帳を書いたり、制作の準備をしているオレに莉奈が声をかけてきた。
時計を見ると、0時を回っている。
「あぁ、もうこんな時間か」
莉玖の様子を確かめて、検温をする。
『さっきからそれずっとしてるわね。何してるの?』
「保育園の午睡チェックっていうのがあってな、0歳児なら5分置き、1~2歳児なら10分置きくらいに、異変がないか確認するんだよ」
『ええ!?それほとんど付きっきりじゃないの』
「まぁ、そういうことだな」
『そっかぁ、じゃあ、うちの子も保育園に預けてたら、保育士さんたちはそうやってみてくれてたのかなぁ……』
莉奈が莉玖の顔を覗き込んで微笑んだ。
『……でもそんなこと今までしてた?』
「莉玖が昼寝してる時はやってたぞ?夜は由羅とお前に任せてたけどな」
『私、この子には毎晩、ミルクだオムツだ……ってしょっちゅう起こされてたけど、それでもさすがに5分置きになんて確認したことないわよ……?』
「そりゃお前も寝なきゃ体力が持たねぇからな。オレだって今は莉玖の体調が気になるからやってるだけで、普段は夜までできねぇよ。でも、夜ももっとこまめに様子見てやってたら昨日だって……」
『こらっ!だからって夜ずっと起きてるつもり?自分が今言ったんでしょ?寝なきゃ体力持たないって!何かあった時のためにベビーアラームと私がいるんだから、あなたはもう寝なさい!』
莉奈に怒られたが、昨夜あんなことがあったので、とてもじゃないが今夜は眠る気にはなれなかった。
「後2日か3日すれば由羅が帰って来る。数日徹夜するくらい別に何ともねぇよ。あいつが帰ってきたら爆睡してやるから大丈夫だ」
『もぅ!ホント頑固ねぇ……』
「心配してくれてあんがとな」
『そ、そりゃぁね!綾乃くんがいないとこの子が困るからね!』
「はいはい」
それにしても……由羅はいったい何してんだろ……
***
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