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はじめてのお留守番 第33話

「え?響一(きょういち)から連絡来なかったの?」  結局、昨夜は由羅からの連絡はなかった。  莉玖の様子を見に来てくれた杏里にそのことを話すと、呆れ口調でため息を吐いた。 「いや、忙しかったのかもしれねぇし……」 「忙しくても、様子を聞くくらいたった数分ですむんだから、かけてくることは出来るでしょう!?莉玖が熱を出したって聞いたら、普通は……あぁもう!我が弟ながら本当にダメねぇ……これだから仕事人間は……」 「あの……すみません……」  杏里の勢いに押されて思わず謝ってしまった。  何でオレが謝ってんだ?   「あぁ、綾乃ちゃんは何も悪くないのよ。ごめんなさいね、綾乃ちゃんに言っても仕方ないのに……」  杏里が自分の額に白くて細長い指を当てると、軽く息を吐いた。 「……綾乃ちゃんはあの子の過去のこととか家のこととか聞いてる?」 「え?過去のことって……いや、そういうプライべ―トなことはあんまり……莉奈さんが再婚相手の連れ子で血が繋がってないっていうくらいかな」 「そう……。私たちの父親はね、祖父とは折り合いが悪くて……祖父は響一を父親の代わりに後継者にしようとして子どもの頃から随分厳しく接してたのよ――……」  杏里がオレに由羅の過去を話してくれるのは初めてだ。  普段は杏里とはリビングで話すのだが、今日は珍しく杏里が「地下に行きましょう」と言ってきたので、莉玖を連れて下りてきている。  杏里も、地下室の設備は知っているはずだ。  もしかしたら、最初からオレに由羅のことを話すつもりだったのかもしれない。 ***  祖父が厳しかったというのは由羅からも少し聞いたことはあったが、由羅は祖父に背く父親と、父親への当てつけのように由羅を後継者にしようとする祖父の間で板挟みになっていたらしい。  父親は、祖父のお気に入りの由羅を疎ましく思い、また自分のライバルでもあるのでまだ幼い由羅に対して冷たくあしらった。  祖父は祖父で、由羅が父親のように自分に反抗しないよう徹底的にマインドコントロールしようとした。  それは由羅の実母や後妻として入った莉奈の母親、それから祖母によって何とか阻止されたらしいが、由羅が感情をあまり出せないというのは恐らく父親と祖父のせいだ。  因みに、由羅が盗聴器を仕掛けられるのに慣れていると言っていたのは、この父親のせいらしい。  父親は祖父や由羅の弱味を握ろうと必死だったようだ。  由羅の家のことなんざどうでもいいけど、祖父も父親もいい年してガキのケンカかよ!!  自分らのケンカに子どもを巻き込むなっつーの!   「響一自身は何も悪くないし、本来優しい子なのよ?でもそういう幼少期を過ごしたせいで、情緒面がいろいろと欠けてるのよね……だから、あの子が莉玖を引き取るって言い出した時はビックリしたのよ……本当にあの子が赤ちゃんの世話なんて出来るのかしらって……」  杏里が複雑な表情で軽くため息を吐いた。  なんだかんだで、杏里にとっては可愛い弟なのだ。 「大丈夫だよ杏里さん。あいつはあいつなりに頑張ってるよ。昨日連絡した時だって、本当に莉玖を心配してる顔してたんだ。夜電話できなかったのは……たぶん何か理由があるんだよ」 「綾乃ちゃん……あなたが来てくれて本当に良かったわ。響一のことをそんな風にわかってくれる人なんて他にいないわよ」 「あ、あはは……そんなことはないと思うけど……」  杏里が若干涙ぐんでオレの手を握ってきたので、苦笑いで答えた。  杏里は少し喜怒哀楽が激しいのだ。  コロコロ感情が変わるので、怒っていたと思うとすぐに笑っている。  本当にあの由羅と血が繋がっているのかと疑いたくなるくらい感情表情が豊かな人だ。 「そうだ、これからうちに来なさい!」 「え?」 「そうよ、私ったら、何で考えつかなかったのかしら……響一が出張の間、莉玖と一緒にうちに来ればいいのよ!」 「いや、でもそれは……」 「部屋なら空いてるから大丈夫よ!うちにいれば、もし莉玖に何かあってもすぐに私も対処してあげられるし、車だってあるし……そうよ、それがいいわ!ね!?」  杏里が一息に喋ると、有無を言わせない顔でオレを見た。  確かに、由羅がいない間、頼れるのは杏里だけだ。  今回みたいに夜中に何かあった場合、杏里を叩き起こしてここまで来てもらうより、一緒にいた方が対処しやすい。  でも……由羅が莉玖を引き取った理由が杏里やその家族を莉玖の事情に巻き込まないためなのだとしたら、一緒の家でいるのはあまり得策とは言えないのではないだろうか……  いや、これだけ杏里と行き来してたら同じことか?  何にせよオレの一存では決められないと杏里に言うと、杏里も少し考え込んだ。 「そうね……莉玖のことを考えると……まだ油断は出来ないのよね」 「向こうがもう莉玖(りく)……じゃなくて、莉季(りき)は死んだって信じてくれてたらいいんだけどさ、もしまだ探してたら……莉奈さんの遺体を引き取りに来た由羅の存在は知られてしまうだろうし、いろいろ調べられるとバレる可能性はあるよな?だから……」 「まぁ、今のところはバレてないんだから、とりあえず今回響一が帰って来るまではうちに来なさい。今回は一週間くらいって言ってたんだから、後数日で帰って来るでしょ」  う~ん、杏里さんも言い出したら聞かねぇんだよなぁ…… 『姉さんも割と強引なのよね~……でもまぁ、姉の言う通りかもよ?後2~3日なんだから、それくらいなら大丈夫よ。兄が帰ってきたら、また改めて次の出張の時にどうするか決めればいいじゃない』  莉奈ものんきに杏里に賛成する。  あ~もう、オレはどうなっても知らねぇからな!? 「わかった、それじゃとりあえず2~3日分のお泊りセット用意してくるから、よろしくお願いします」 「いいわよ~。莉玖~、杏里伯母ちゃんといっぱい遊びましょうね」  杏里が満足したように笑うと、莉玖を抱き上げて、くるくると回った。 ***

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