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はじめてのお留守番 第34話
「あやのちゃん、こっちきて~!一緒にサッカーしよ~」
「ダメよ!あやのちゃんはおままごと!」
「あ~もう、そんなことでケンカすんな!残念ながら、あやのちゃんは一人なんです!どっちもするけど、順番な、順番!」
杏里の家では、まぁ、当たり前だけど莉玖だけじゃなくて杏里の子どもたちの相手もすることになった。
「ごめんなさいね、綾乃ちゃん。うちの子たちの面倒までみてもらっちゃって」
「あぁ、全然大丈夫ですよ。むしろ莉玖をみてもらっちゃってすみません」
杏里の子どもの方が年齢的にアクティブなので、外が明るいうちはオレが庭に出て杏里の子どもの相手をして、莉玖は家の中で杏里がみてくれていた。
莉玖も外に出たがったが、まだ少し鼻水が出ていたので、外で遊ぶ代わりに杏里が庭の一角にある温室に連れて行ってくれた。
杏里の家に来たのは初めてだったのだが、由羅の家に負けず劣らずデカくて広い……
特に杏里の家は庭が広くて、庭の一角 にはテニスコートのような芝生の広場があったので、そこで杏里の子どもたちとサッカーをして遊んだ。
何なんだよもう……金持ちの感覚わかんねぇ……
無駄に広すぎだろ!
でもいちいちツッコむのも疲れるから、全部スルー!!
もう、オレは何が出て来ても驚かねぇ自信があるぞ……
***
杏里の家に来て三日目。
莉玖が熱を出したと連絡をして以来、由羅からの連絡はない。
夜の定期連絡も入って来ないのはさすがに……不安になる……
杏里や莉奈は、由羅が仕事人間だから、どうせ莉玖のことなど忘れているのだと気にもしていないが、出張してから莉玖が熱を出すまでは毎晩連絡があったのにそれがなくなったのはおかしい……
本当に仕事が忙しいだけならいいけど、由羅まで向こうで倒れてんじゃねぇだろうなぁ……
「もうすぐお昼ね」
「あ、じゃあオレ昼飯作ってきます!」
「あら、そう?じゃあ、莉玖は私と遊びましょうね~」
「お願いします」
杏里に莉玖を頼んで、台所に立つ。
杏里曰く、杏里の嫁ぎ先である、この真鍋 家にも長年勤めているお手伝いさんが何人かいるが、子どもの頃自分たちがあまり親の愛情を受けられなかったので、自分の子にはちゃんと母親の手料理を食べさせてやりたいと思い、料理は自分で作るようにしているのだとか。
じゃあ、お手伝いさんは一体何をしているのかと言うと、この広大な敷地の管理を全て杏里がするのは無理なので、敷地内の管理や家の中の清掃、家事や育児の手伝いをしてもらっているのだとか。
っつーか、由羅の家だって広いのに、お手伝いさんは誰もいないんだよな~……
あんまり他人を信用してないから、他人が家に入るのは嫌がるし……一体どうやって維持してんだろ?
オレだって、今は莉玖に手がかかるから家の掃除はごく簡単にしかしてねぇし……
「あいつ……何してんだろ……」
莉玖が落ち着いてきたこともあってか、杏里の家に来てからは由羅のことばかり考えている気がする。
いやいや、別にあいつのことが心配とかじゃねぇよ?
ほら、あいつはオレの雇い主だから、あいつに何かあったらオレの給料が……
っつーか……オレあいつに呆れられたってことか?
もしかして、杏里さんには連絡してんのかな……だから杏里さんたちはあいつから連絡がないっつっても気にしてねぇのかも……
由羅が帰ってきたらオレ……クビかもしれねぇな……
「ん?」
考え事をしながら野菜を切っていると、リビングの方が何やら騒がしくなった。
今の時間、まだ杏里の子どもたちは帰ってきていないし、杏里は確かにおしゃべりだが、莉玖の相手をするだけでこんなに賑やかにはならない。
誰か来たのか?
「あ……っ」
もしかして、莉玖の居場所が奴らにバレたとか!?
様子を見るために、慌てて火を消して台所から出た。
リビングは台所とは廊下を隔てた向かい側にある。
こっそりと覗くと、なにやら背の高い男が莉玖を抱っこしていて、杏里と言い争っている。
え、もしかして、莉玖捕まったのか!?
オレはリビングの扉をいきおいよく開けた。
「連れて行くなら一言連絡をください!家に帰って誰もいないと心配するでしょう!?」
「そういうあなたこそ、何も連絡してこないってどういうことよ!莉玖の父親なんだからしっかりしなさいよ!」
「だから、それは……綾乃?」
杏里と言い合いをしていた男が、オレが扉を開けた音に反応して振り向いた。
「由……羅……?」
***
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