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はじめてのお留守番 第35話

「綾乃!」  由羅が抱っこしていた莉玖を杏里に預けて、結構な形相でこちらに向かってきた。  ヤバい、怒って……る?  まず謝らなければと思うのに、ロサンゼルスにいるはずの由羅がここにいることが信じられなくて頭が混乱しているオレは、近づいてくる由羅をただ茫然と見つめていた。 「あ、ちょっと響一!?綾乃ちゃんは悪くな……え?」  え?  勢い的に杏里は由羅がオレを殴るとでも思ったらしい。  いや、オレも殴られると思っていた。  だって、初めて会った時に、オレを誘拐犯扱いした時の顔。  あの時と同じくらい、由羅はすごい形相をしていたからだ。  ――……で、どうしてオレは由羅に抱きしめられてんのかな?  あ、このまま締め技に持って行く感じ?背骨をボキボキっと……みたいな……  まさかのそっち系? 「ちょ、え、由羅……さん?」  背骨はさすがにヤバいと思って、必死に由羅から離れようともがく。   「あの、せめて話を……」  先に謝るくらいさせてくれよっ!!  言い訳をするつもりはねぇけど、いきなり背骨ボキボキは嫌だあああああっ!! 「綾乃、どうした?大丈夫か?」 「は?だいじょばねぇよ!!オレだって背骨やられたらさすがに死ぬわっ!!」 「背骨って何の話だ?」 「え?だから、お前が……へ?」  思ったより穏やかな由羅の声に、もがくのをやめて顔をあげた。  見下ろしてくる由羅は、特に怒っている様子はない。  眉間に皺はあるけど、どっちかと言うと、困惑……  いや、困惑してんのはこっちだって!! 「え、何……?今これどういう状況?」 「綾乃、ちゃんと寝てないのか?クマが出来てるぞ」  困惑するオレをよそに、由羅がマイペースに話を進める。 「あ、いやこれは……って、そういうお前こそクマ酷いぞ!?何だその顔はっ!!」  よく見ると由羅も目の下にクマが……というか、顔全体に疲労の色が濃く出ていた。 「あぁ、早く帰るために仕事を前倒しにして片づけて来たからな。でも飛行機の中でちょっと寝たから……」 「いやいやいや、そうだよ、それだよ!!お前何でここにいんだよっ!?お前はアメリカにいるはずだろ!?」 「莉玖が熱を出したって連絡をしてきたのは綾乃だろう?」 「そうだけど、だからってすぐに帰って来いだなんて言ってねぇだろっ!?熱は下がって落ち着いてるから心配すんなって言ったよなぁ!?」 「言っていたな」 「じゃあ、何でそんな顔になるくらい無理して……」  そりゃ、莉玖のことをそれくらい心配してたってことなんだから、いいんだけど……でもお前が無理して倒れたら意味ねぇだろっ!?   「綾乃が……」 「ああ゛!?」 「綾乃が泣きそうだったからな」 「……はい?……え、オレが?いや、泣いてねぇけど?」  急に何言ってんの? 「泣いたとは言ってない。泣きそうだったって言ったんだ」 「あ~……って、いや同じことだろ!!何でオレが泣かなきゃいけないんだよっ!」 「莉玖のことを報告するとき、いつもと様子が違った」 「それはお前が心配しないように……」 「無理して明るく話してたんだろう?私は自分は感情表現が苦手だが、他人の感情を見抜くのは得意なんだ。だからお前が不安そうな顔をしていたのもわかる」    由羅がオレの頬を両手で包み込んだ。  他人の感情を見抜くっつーか顔色を読むってことだろ?お前超鈍感だし!感情は絶対見抜いてねぇぞ!?  まぁでもそれもあれか?じいさんから叩きこまれたとか?  いや、そもそもオレは…… 「んな顔してねぇ……」 「すまなかったな。一人で大変だっただろう?」 「あれくらい別に……子どもならよくあることだし……」  そう、子どもなら急に熱を出すことはよくあることだ。  夜中や睡眠時に体調が急変することも……  だから、オレは……別に…… 「そうか」 「だから別に大丈夫だっつってんだろっ!?」  いくら振り払っても、由羅がオレの顔を撫でまわしてくる。   「何だよもうっ!やめろって!」 「お前が泣くからだ」 「泣いてねぇしっ!」 「わかった。そういうことにしておいてやる」 「っんだよそれっ……」  由羅が小さくため息を吐くと、オレの顔を胸に押し付けて抱きしめた。 「……っ……」  泣いてなんかねぇよっ!!  これはお前が急に帰ってきたからびっくりしたのと……安心したのと……  いや待て!安心ってなんだよっ!!何でお前が帰って来たくらいで安心してんだよっ!!  あ~もう!わけわかんねぇっ!!  クソだせぇっ…… ***

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