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はじめてのお留守番 第37話

「綾乃ちゃん、ごめんなさいね!?本当にダメな弟で……」  昼食を持って行くと、杏里がすごい勢いで謝って来た。 「ちゃんと謝って来なさいって言ったのに、響一ったら追い返されたとか言ってすぐに戻ってきて……まったく……」 「いや、別にあれくらい……いつものことだし」 「いつも!?あの子ったら、いつも人前であんなことしてるの!?」 「え?いや、あの……ペット扱いっつーか……犬や猫を撫でるのと同じような感覚で……」 「ペット?……え、付き合ってるんじゃなくて?」 「へ?」 「え?」  杏里と顔を見合わせて固まる。  何だか話が噛み合わない。 「誰と誰が付き合ってるんすか?」 「綾乃ちゃんとうちの弟よ」 「あ~なるほど……って、えええっ!?いやいや、杏里さん、オレもあいつも男!!」 「それがどうかしたの?好きなら性別なんて関係ないと思うけど?」  ちょっと待て!!  杏里さん真面目な顔して何言ってるんだ!? 「いや、だって……そもそもあいつは雇い主でオレは……」 「綾乃ちゃん?愛には性別も身分も関係ないのよ!!いいこと?大昔から人間というものは――」  急に杏里が愛について熱く語り始めた。  あ、これ長くなりそうだな…… 「莉玖~、ご飯食べようか。お腹空いたよな~。お待たせ!」  杏里の邪魔をしないように小声で莉玖に話しかける。 「まんまっ!!」 「はい、いただきます!」 「あちゅ!」  オレが手を合わせて挨拶をすると、莉玖も真似をして手を合わせてちょっとペコッと頭を下げ、オレをチラッ?とみる。  この、チラッ?の時のドヤ顔にいつも笑ってしまう。 「よし、上手に出来たな。じゃあ、食べようか」 「あい!」  あれ、そういや由羅はどこに行ったんだ?  あいつ昼飯食ったのかな……いやいや、あいつのことなんて知らねぇし!   っつーか、杏里さんも一体何をどう見たらオレとあいつがつ……付き合ってるとかいう突飛な発想にたどり着くんだ!? 「――でね?ちょっと、綾乃ちゃん!?私の話聞いてる!?」 「あ~、はい!聞いてるっす!そうっすよね、愛には性別とか関係ないっすよね!」 「そうよ!?だから気にしなくていいのよ!!だいたい、莉玖がいるんだから後継ぎの問題もいらないし、親族が何を言おうがうちは結局実力主義だから、実力さえあれば文句は言わせないし、響一はああ見えて一応実力はあるのよ。ないのはやる気と野心だけ。まぁ、それが一番問題なんだけど……でもそれだって綾乃ちゃんがいればきっと大丈夫よ」  すみません、途中全然聞いてなかったので何の話をしてるのか全くわからないっす…… 「ごちそうさまでした!すみません、お先に頂きました!杏里さんも早く食べて下さいね。ところで、あの由羅は……?」 「あら、さっそく響一に会いたいの?」  杏里が何やらニヤニヤと変な顔で笑う。  何を考えてんのか知らねぇけど…… 「いや、さっき昼飯食べたら仕事の話があるって言われて……」 「へぇ~?仕事の話ねぇ……響一ならゲストルームよ。綾乃ちゃんたちの部屋の隣にいるわ。サチコさん、案内してあげて?あぁ、莉玖は私がみてるから大丈夫よ」 「はい、奥様。綾乃様、どうぞこちらです」  サチコさんは真鍋家のお手伝いさんの中でも古株らしい。  杏里にこの家のことをいろいろと教えてくれたのもサチコさんだとか。  いつもニコニコしていて、温和で可愛らしいおばあちゃんという感じだ。  サチコさんは、オレが子どもの頃、包丁の持ち方や簡単な和食の作り方を教えてもらった近所のおばあちゃんにちょっと似ているので、サチコさんを見ていると何となく懐かしい気持ちになる。   「あ、はい。それじゃあ、お願いします」  杏里に莉玖をお願いして、オレはサチコさんとゲストルームに向かった――…… ***

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