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はじめてのお留守番 第38話

「こちらの部屋にいらっしゃいますよ」 「ありがとうございますっ!」  サチコに礼を言って、ドアをノックする。  ん?  返事がない。  ここにいるって言ったよな?  もう一度ノックをして、ドアノブを回すと鍵はかかっていなかった。    あれ?ちょっと待て!  こういうのって、アレだ……ドラマとかでよくあるやつだ!!  ドアを開けると、そこには…… 「由羅~?」  ゆっくりドアを開けて中を覗くと、ベッドの端に由羅の足が見えた。  ほらああああああ!!!!!こういうのってドラマでよく見るんだよぉおおおおおおおおお!!!!んで、あれだろ?これオレが様子見に行ったら由羅が血まみれで、んで、そこにタイミング良く杏里さんかお手伝いさんが来て、オレが犯人にされて……って、んなわけあるかああああああああああ!!!  あまりにもバカらしい自分の考えに、とりあえず自分でツッコんで普通に部屋に踏み込んだ。 「ゅ……由羅ぁ~?」  小声で名前を呼びながらベッドに近づくと、由羅の寝息が聞こえてきたので、ちょっとホッとした。  いや、別にホントに由羅に何かあったとかは思ってねぇけどな!?  と、とりあえず起こすか! 「由羅~!起きろぉ~!」 「ん……」 「お前が仕事の話があるっつったんだろ!?こら、起きろよ!だいたいな、こんな変な恰好で寝るな!寝るならちゃんと布団に入って……あ、起きたか?」  由羅がパチッと目を開けたので小言を言うのを止めて由羅の顔を覗き込んだ。 「なんだ、綾乃か」 「なんだってなんだよ!?莉玖じゃなくて悪かったな!ほら、起きろよっ!」  由羅は寝起きは悪くない方だと思う。  いつも、電話が鳴るとすぐに起きるし、寝起きにボーっとしているところなんか見たことねぇし……  そのはずなんだけど……  わざわざ腕を引っ張って起こしてやったのに、由羅はそのままオレにもたれかかってきた。 「おい、由羅!重いって!」 「眠い……」 「あ~もう!寝てねぇからだろ!?だから無理すんなって言ったのにっ!何のためにオレが……」 「だって、綾乃が……泣くから……」 「だから泣いてねぇっつーの!お前しつこいぞ!って、うわっ!?」  イラッとして由羅の頭を軽く叩いてやろうとした瞬間、由羅がオレごとベッドに倒れこんだ。 「あ~もう!わかった!お前はちょっと寝ろっ!……いや、ちょっと待て。由羅!!寝てもいいけど先にこの腕外せっ!!」  気がつけば由羅にがっしりホールドされて抜け出せなくなっていた。  こいつ柔道でもやってたのかよ!?  あ~くそっ!外れねぇっ!! 「嫌だ」 「嫌だじゃねぇよ!」 「綾乃も寝てないんだろう?一緒に寝ればいい」 「……お前なぁ……ふざけんのもいい加減にしろよ!?それだけ喋れるなら起きて仕事の話ってやつを……」 「綾乃……うるさい。ちょっと黙ってろ」 「ああ゛っ!?……ぅぶっ!?」  由羅がオレの顔を胸元に押し付けて抱き込んだ。    だからこいつは何で……っつーか息できねぇよっ!!  押したり引いたりしながら由羅の胸元でもがくこと数分、何とか横を向いて呼吸を確保した。 「由……」  文句を言ってやろうと思ったが、また由羅の寝息が聞こえてきたので口を閉じた。  え、もしかしてさっきのって寝惚けてたのか?  うっそだろっ!?寝惚けてるやつにオレ負けてんの!?    ヤンキーだ、不良だと言われてきた学生時代、別に本当にグレていたわけじゃないのでケンカがめちゃくちゃ強かったわけじゃない。  柔道とか空手とかボクシングとか……なんかそういうちゃんとした技を身につけてたらちょっとは違ったのかもしれねぇけど、うちにはそんなの習う余裕なんかなかったので、全部自己流だ。  加えて、オレはあんまり身体が大きいわけでもない。  だけど……これでも一応プライドだけはあるっ!  寝惚けてるやつにまで力比べに負けたとあってはオレのプライドがっっ!!  ムカついたので思いきり蹴ってやろうかと思ったが、足には由羅の足が絡みついて自由が利かない。  こいつホント何なんだよっっ!!  あ~もういいっ!!疲れた……  由羅の言う通り、オレも寝不足だ。  杏里の家に来てからも、結局莉玖のことが心配で夜もほとんど寝ていなかった。  その上、たった今オレは“絶対に動かない重し”に対して、全身全力でもがくという人生で最大の無駄な体力を使ってしまった…… 「由羅のぶわぁ~かっ……起きたら……覚えて……ろ」  悔し紛れの悪態をついたところまでは覚えているが、由羅の心音と体温が思ったよりも心地よくて……いつの間にかオレはそのまま力尽きていた――…… ***

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