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はじめてのお留守番 第40話
「先に莉玖寝かせて来る」
「あぁ」
杏里の家で晩飯と風呂を済ませてから、オレたちは由羅の家に帰って来た。
本当は晩飯だけのつもりだったのだが、昨日、杏里の子どもたちに、明日も一緒にお風呂に入ると約束してしまっていたので、晩飯の後、オレと莉玖は一路たちと一緒にお風呂に入ることになったのだ。
いっぱい遊んでもらって疲れたのか、莉玖は帰って来る途中に寝てしまった。
『よく寝てるわね』
「だな……」
ベッドに下ろしてもぐっすり眠っている莉玖の頬を撫でていると、莉奈が顔を覗き込んできた。
『なんか元気ないわね、どうかしたの?』
「ん?いや……今日は何か由羅が急に帰ってきたことに驚いて、由羅とちゃんと話せてなかったからさ……」
『あぁ、莉玖のことなら、綾乃くんが寝てる間に姉さんが話してくれてたわよ?』
「そ……か……」
『ねぇ、やっぱり何か元気がな……』
その時、階段を上がって来る足音がして莉奈が口を閉じた。
そっと扉が開いて、由羅が入って来る。
「莉玖はよく寝てるみたいだな」
「うん。洗濯物全部出したか?」
「あぁ、出して、スイッチも押して来た」
そう言うと、由羅はラグの上に旅行鞄を開けて他の荷物を整理し始めた。
「なぁ……あの……さ」
「なんだ?」
オレは由羅の傍に寄って行くと、床の上に正座をした。
「あの……この度は本当に申し訳ございませんでした!」
「……何がだ?」
由羅が手を止めて、項垂れているオレを見た。
「莉玖の熱のこと……」
「それは、子どもならよくあることなんだろう?」
「そうだけど……あのさ……今回のことで思い知ったんだよな」
「何をだ?」
「オレは一応保育士で、保育についてはいろいろ知ってるけどさ、でも、オレが行ってた保育園は日中保育だけだから……一日中保育するのはやっぱりオレみたいな新米じゃ経験不足なんだ……そんなんで他人様の子どもの命を預かるとかおこがましいっつーか……」
「綾乃、何が言いたい?」
要領を得ないオレの話に由羅の声が少しイラ立つ。
「だからっ!莉玖のベビーシッターはやっぱりそれなりにベテランで育児経験のある人の方がいいと思う……今回だって、正直オレはパニクってて杏里さんに任せきりだったし……由羅が一ヶ月とか出張に行くようになったら、それこそ何が起きるかわかんねぇだろ?そういう時に適切な対応をできる人の方が……いいと思うんだ」
莉玖が熱を出した日から、ずっと考えていた。
由羅にクビを切られるならそれでいいとか強がってみたけど、本心は……
保育園でも子どもが熱を出すことはよくあったから慣れているはずなのに、今回はオレしかいないんだと思った瞬間、変に焦ってしまって、ちゃんと対処できなくて、パニクってしまったことが、保育士としてショックだった。
不甲斐ない自分自身に腹が立って……
そんな自分をベビーシッターとして雇ってもらうのは、由羅にも莉玖にも申し訳なくて……
だから……
『綾乃くん!?なにいってるの!?そんなこと気にしなくていいって言ったでしょ!?』
「綾乃、確かに、綾乃はまだ保育士経験は浅い。でも、私よりは知識も経験もあるだろう?」
「そりゃまぁ……」
「私なんて、ミルクの作り方もオムツの替え方もわからない状態でこの子を引き取ったんだ。姉には無謀だと言われたけれど、まぁ、教えて貰って今では何とかオムツも替えられるようになった。綾乃だってそうだろう?保育士になる前は、近所の子供の面倒は見ていても、正しい保育の知識など知らなかったはずだ」
「それはそうだけど……」
我が子の育児と、保育士として保育をするのは違うぞ?
「綾乃、失敗してもいいんだ。綾乃が自分で言っただろう?経験が足りないって。なら、経験していけばいい。経験っていうのは、失敗や成功を繰り返して、身につけていくことだ」
「……え?」
「だいたい、私が綾乃を選んだんだ。綾乃が経験が浅いことくらい最初からわかっている。私は綾乃に完璧を求めているわけじゃない。だから、何かあれば姉に頼れと言っただろう?」
ん?それって、最初からオレには何も期待してなかったってこと?
自分が経験不足っていうのはわかってるんだけど……でもなんか……由羅の言葉がちょっとショックなのは何でなんだ……
***
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