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はじめてのお留守番 第41話

 あぁ、そっか……由羅がオレに求めてたのは、莉玖の実父側からの悪意に対して咄嗟に莉玖を守って逃げられる人材ってことであって、ベビーシッターとしてのオレじゃないんだ。  ベビーシッターや家政夫はだったのか。  そりゃそうだよな……  そうじゃなきゃ、オレみたいな経験不足なやつに莉玖を預けていったりしねぇか…… 「ちょっと待て、綾乃。なんでそうなるんだ?私は、そんなことは言ってないぞ?」 「今言ったじゃねぇかよ!経験が足りないのはわかってるから、最初からオレには完璧を求めてなかったって!」 「あぁ、確かに完璧を求めてないとは言ったが、私は最初に言っただろう?綾乃は子供たちに慕われる良い保育士だって。そうじゃなきゃ莉玖を任せたりしない。ちゃんと保育士としても綾乃になら安心して預けられると思ったから頼んだんだ」  そんなこと……言ったっけ?  正直、雇われた日のことは、いろんなことに驚き過ぎて契約云々の話についてはあやふやだ。 「いや、まぁそれはどうでもいいんだけどな。ベビーシッターはオレには無理だっていうのはよくわかったし。うん、むしろスッキリした!ありがとな!」 「綾乃、ちょっと落ち着け。雇い主の私が辞めなくていいと言っているのに、どうしてそんなに辞めたがる?」  辞めたがる?オレは別に……   「別に辞めたいわけじゃねぇけど……莉玖は可愛いし、給料はいいし、条件もいいし、住み込みだし……でも……そんな長期出張があるっつーのは予想外だったし、心構えも準備も全然出来てなくて……その……」 「そうだな、それについては、私の説明不足だし、いろいろと考えが甘かったと思う。姉からも綾乃に甘えすぎだと叱られたよ。私も子どもをひとりで育児する大変さは経験したはずなのに、綾乃なら一週間程度ひとりでも大丈夫だろうと勝手に思い込んでしまって……いろいろと負担が大きかったよな。すまなかった」  そういうと、由羅が頭を下げてきた。   「由羅が謝ることねぇよ……」 「……少し、昔話をしてもいいか?」  オレが、自分の中のモヤっとした感情を持て余して黙り込むと、由羅が唐突に話題を変えてきた。 「へ?あ、うん……」 「……私にとって親というのは、戸籍上だけの存在で……――」  杏里からも聞いてはいたが、子ども時代の由羅は随分冷めた子どもだったようだ。  由羅は祖父と父親のせいで物心つく前から、母親からも杏里たちからも引き離されていたらしいので、ひとりだけ家族団らんとか親の愛情とか、そんなものとはほとんど無縁の状態で育ったらしい……ただ、完全に独りだったわけではなく、祖父や父親の目を盗んで祖母や母親、杏里が気にかけてくれていたから少しでも人間らしい部分を持てたのだとか。  というか、そんな環境でよくグレなかったものだと感心する。 「グレる?あぁ……反抗することは考えなかったな。そんなことをすれば祖父に海外に送られるのはわかっていたからな」 「海外って……留学?」 「あぁ、そうなれば姉たちともなかなか会えなくなってしまう。だから、反抗しようとは思わなかったな。それに、学生時代に反抗したところで、未成年ではどうにもならないこともある。それなら、吸収できるものは全て吸収して、祖父たちに対抗できるだけの力を身につけてから反抗してやろうと思ってな」  あれ?由羅って意外と性格してる? 「それじゃあ、社会人になってから反抗したのか?」 「いや、社会人になったら、わざわざ反抗するのも億劫でな」  あ、ダメなやつだこれ。 「まぁ、反抗すると言えば、後継者争いからは手を引くと宣言してあることくらいかな……」 「ん?後継者争いから手を引くって……つまり、お前の父ちゃんと同じことをしたってこと?」 「そうなるな」  あれ?そういえば父親は……あぁ、亡くなったんだっけ? 「由羅の父ちゃんってもういないんだよな?祖父ちゃんは父ちゃんへの当てつけで由羅を厳しく育ててたんだったら、今は……?」 「父が亡くなったのは私が大学を卒業する少し前だ。その頃にはもう祖父は後継者の一人に私をあげていたので、別に何も変わらなかったぞ?まぁ……少し張り合いがなくなって淋しいのか、余計に私に構ってくるようになって、今はちょっと面倒なんだが……」 「へぇ……」  祖父は由羅の父親を一番気に入っており、後継者にと押していたのに、由羅の父親はそれを断ったのだそうだ。  可愛さ余って何とやら……いや、むしろそれでもやっぱり可愛いから、父親がダメならその子どもで……と由羅を連れて行ったのかもしれない。  結局は、由羅にも断られているわけだが……    親子の仲を引き裂くようなことをしてまで、由羅を後継者に育てようとしていたのに、それでも由羅に父と同じ選択をさせた人物って……一体どんなじいちゃんなんだ……? ***

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