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はじめてのお留守番 第42話

 ん?  由羅の過去の話を聞いて、何だかしんみりしかけていたオレはふと我に返った。  いや、オレ今、ベビーシッター辞めるって話をしてたんじゃなかったか? 「あの、由羅?」 「なんだ?」 「えっと……だから、オレ莉玖のベビーシッターは……」 「うん、だから辞める必要ないな」 「なんで!?え?オレ辞めるって流れになってたよな!?」 「だから辞める必要などないと今説明しただろう?」 「今って……お前の過去の話を聞いただけだけど?」 「ん?」 「え?」  話が通じねぇええええっ!!!  ホントお前、オレの話聞いてねぇっつーか……聞く気ねぇよな!? 「オレが辞めるっていうのと、由羅の子どもの頃の話って関係あったか?」 「ある」 「いや、ねぇだろ!?」 「あるだろう!?」 「どこに!?」 「莉玖を引き取ったのは、まだ幼いあの子が私のように大人の勝手な都合で振り回されるのを哀れに思ったからだ。それなのに、私じゃあの子に愛情をかけてやれない。あの子をちゃんと育ててやれない。最初に綾乃が言ったじゃないか、『育児に関する知識と親としての自覚をもっと磨いてこい』と」 「ん?あ~言ったような気がするけど……」  たしかあの時は……こいつに誘拐犯だと決めつけられてムカついて……  っつーか、そんな前のことよく覚えてんなこいつ…… 「知識については、育児書を読めば身につくが、親としての自覚は……正直、私にはわからない」 「何言ってんの?お前が莉玖の親だろう?」 「そうだが、私はまともに親に育てて貰ってないと言っただろう?だから、“親”というものが一体どういうものなのか……わからないんだ」 「あ~……いや、親の自覚か……う~ん……それで言えばオレだって、父親は生まれた時にはいなかったし、母親が一人で育ててくれたけど、夜職だったからまともに育てられたかどうかって言われればわかんねぇよ?」 「じゃあ、二人で育てれば何とか一人前になるんじゃないか」 「ん?……え?あ~……ちょっと待って、お前の思考についていけねぇ……」  つまり、何?“親”っていうのがよくわからねぇからオレにいて欲しいの?   「あのさ、それなら尚更、育児経験のある人の方がいいんじゃねぇの?……まぁ、事情が事情だから探すのが大変なのはわかるけど、次が見つかるまではオレもいるから……」 「私は綾乃がいいと言ったはずだが?」 「いや、オレじゃ無理だって言ってるんだが!?」  いまいち話が噛み合わない上にどちらも引かないので、ちょっとお互いムキになっていた。 『わ~すごい!こういうのを“不毛な論争を繰り返す”って言うのかしらね……で、結局あなたたちは何をどうしたいの?』  莉玖を見守りながらオレたちの様子を見ていた莉奈が、呆れたように呟いた。  そんなこと、こっちが聞きてぇよ!!  もうオレも自分が何を言ってるのかわかんねぇし!!  由羅も何言ってんのかわかんねぇし!!   「とにかく、私は他のベビーシッターを雇うつもりはない」 「でも……」 「……じゃあ、綾乃ともう一人雇って交替しながらならどうだ?」  由羅が少し考えてオレを見た。 「交替?」 「数日交替とか、午前と午後とか……」 「あぁ……えっと、それだと、お前が出張の時にはベテランさんが夜いてくれる方が助かる。今回みたいに熱が出るのは夜とか明け方が多いし……」 「なら、私が出張の時には夜間保育もできるという人を探してみるか……」 「……うん」  あ……その場合、オレはここを出なきゃだよな。  そのベテランさんがオレのいる部屋を使うだろうし。  まぁ、そもそも辞めるなら出なきゃいけねぇから、どっちにしろ一緒か。 「まだ他に何かあるか?」 「え?」 「いま何か考えていただろう?」 「あぁ、いや別に」  明日から荷物まとめて、家も探していかねぇとな。  いつベテランさんが見つかるかわかんねぇし…… ***

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