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クリスマス 第48話
翌朝、由羅は何も変わらずいつも通りだった。
一瞬、昨夜のことは夢だったのかな?と思ったが、由羅がオレの身体を拭いてくれたタオルが洗濯機に入っていたので、夢ではなかったらしい。
夢ではなかったけど……
もう、あいつの行動を深く読むのは止めよう!
キスしてきたり、人のモノ触ってきたり……なんかあれだ……うん……あいつはちょっと人との距離感というかそういうのがわかんねぇんだな、たぶん!
ほら、子どもの時から同年代の子と遊ぶってこともなかったみたいだし?
常識がちょっとズレてんだよ!なっ!?
あいつの言動は気にするだけ無駄!
ということで、オレは昨夜のことも全てなかったことにして忘れることにした。
***
「莉玖~、今日はクリスマスの制作しような~!」
「な~!」
由羅を送り出した後、洗濯物を干して家事が一段落ついたオレは、昨夜作ったクリスマスの制作を莉玖に見せた。
「サンタさんとトナカイさん作るぞ!」
「たんた!」
莉玖が、サンタを指差して笑った。
ここのところ、クリスマスの絵本を読み聞かせしてやっていたので、サンタを覚えていたらしい。
「うん、サンタさんだぞ!可愛いだろ~?」
『あら、可愛いわね。紙皿で作ってるの?』
莉奈の問いかけに頷きながら、莉玖に話しかける。
「これ紙皿で作ってるんだぞ~!じゃあ、莉玖はこのサンタさんのお顔描いてみるか!ペン持って~……ぐるぐる~」
昨日画用紙で作っておいたサンタの顔に、莉玖と一緒に目と口を描き込んだ。
裏に貼っておいた両面テープを取って、莉玖と一緒に紙皿の身体にサンタの顔を貼り付ける。
「そうそう、ここにペッタンするんだぞ~。ぺったん!」
「ったん!」
「上手に出来たな~!ほら、莉玖のサンタさんだ!」
「たんた~!」
「トナカイさんもペッタンしようか」
「とっと?」
「ん~?と、な、か、い。ちょっと発音難しいな」
「とぉーちー!」
「うん、そうだな。トナカイさんも早く言えるようになるといいな~!」
莉玖は最近とくに話しかけてやるとよく言葉を真似するようになった。
たぶん、近いうちにペラペラしゃべり出すはずだ。
今のたどたどしい時期も可愛いけれど、言葉が出始めると会話が出来るようになるので由羅ともコミュニケーションが取りやすくなるだろう。
成長を感じられて嬉しいが、どんどんオレが必要なくなる日が近付いているように思えて少し淋しくもある。
「よし、じゃあ、お昼ご飯にするかっ!手洗いに行くぞ~!」
「お~!」
「ゴシゴシ~♪アワアワ~♪」
「ごちご~あばば~!」
「うん、上手だぞ!莉玖は賢いなぁ」
「あい!」
返事をする時のクセで、泡だらけの手を勢いよく上にあげたので、鏡に泡が飛んだ。
「おっと~?鏡が泡だらけになったな、あははは」
「キャハハハッ!」
「よし、莉玖、もうそのついでに鏡も洗ってくれ」
莉玖を抱き上げて泡だらけの手で鏡をぐるぐると撫でさせる。
「お、いいぞ!莉玖うまいな~!鏡磨き名人になれるぞ!?」
『鏡磨き名人って何なの……?でも二人とも楽しそうね~!いいな~、私もアワアワした~い!』
ちょっと呆れつつも、羨ましそうに莉奈が頬を膨らませた。
うん、楽しい。
莉玖と過ごす時間は楽しくて、一日があっという間に過ぎていく。
そう、昨夜のことなんて一瞬で忘れるくらいに……
***
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