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クリスマス 第50話
「今週末……何か予定はあるか?」
由羅は帰って来るなり、オレにそう聞いてきた。
「その前に言うことがあんだろ!?」
「あ、タダイマ」
「……はい、おかえり。んで?今週末がどうしたって?」
本当は、昨夜のことを謝れよ!と言いたかったが、わざわざ自分から蒸し返すのもイヤだったのでグッと堪えた。
晩飯の準備をしながら聞き返す。
「今週の土日は何か予定があるか?」
「別にねぇよ?」
「そうか。それじゃ、予定空けておいてくれ」
急な仕事が入るかもしれねぇってことかな?
オレは住み込みになってからも基本的に土日は休みだ。
別に土日にこだわりはないし、何なら休みは一日でも全然いいのだが、最初の契約時、オレが適当に“週休二日”と口走ったせいで、由羅は何とか週に二日休めるように調整してくれている。
前もって土日に由羅が仕事だとわかっている時は杏里に預けているが、急な仕事が入った時などは、オレが莉玖をみて、別の日に改めて休みをくれるのだ。
因みに、由羅が海外出張だった時の分は、特別手当を出してくれている。
「わかった」
「あと、明日から帰りがちょっと遅くなる。何かあれば私か姉に連絡をくれ」
「仕事が忙しいのか?」
「ん?あぁ、まぁな」
「そっか」
まぁ、年末だしな。
いろいろと忙しいんだろう。
ん?年末?
「そういや、お前、忘年会とかねぇの?」
「忘年会?まぁ、あることにはあるが……どうした?」
「いや、年末だから忘年会とか、飲み会とか多いだろ?そういうのは先に言ってくれ。晩飯を作る都合もあるし」
「あぁ、そうだな。じゃあ、メモしてくれ」
「え?あ、ちょっと待って!」
オレは慌ててペンを取った。
「年末の飲み会は、仕事納めの日に会社の忘年会に少し顔を出すのと、あと、取引先との飲み会が――……」
「えっと、〇〇日と、〇〇日と……」
由羅が予定を空 でスラスラと言っていくのを聞きながらカレンダーに書き込んでいく。
こいつ、自分の予定全部暗記してんの!?
「――今わかってるのはそれくらいだな」
「……なぁ、同じ日に被ってるのは何なんだ?」
言われるまま書き込んでいくと、カレンダーが文字で埋め尽くされた。
「あぁ、被っているのは少し顔を出すだけのところだ。日中のパーティーもあるし……まぁ、どれも基本的にはそんなに長居はしないがな」
パーティー?クリスマスパーティー的な?
っていうか、別に日中のはどうでもいいんだけど……
「ゆっくり飲んでくればいいのに」
「……私に飲んで帰って来て欲しいのか?」
「そうは言ってない!ただ、せっかくの飲み会なんだから、楽しんでくればいいのにと思っただけだよ」
オレは職業柄、同僚もみんな家庭のあるママさんたちが多かったから、飲み会というよりは食事会って感じで、みんなノンアルで……男はオレ一人だったから、肩身が狭くて職場の忘年会とかは苦手だったけど……
「気遣いは嬉しいが、仕事関係の飲み会なんて楽しいわけがないだろう?それに、会社の飲み会は、私がいない方がみんなも楽しめるだろうしな」
まぁたしかに……飲み会で上の人がいるとウザいな……
「綾乃は行かないのか?」
「忘年会?……ここで働いてるのオレ一人なんですけど?」
今は一人で気楽と言えば気楽だけど、仕事仲間はいない。
だから、もちろん忘年会も飲み会もない。
「……綾乃は友人がいないのか?」
「ハァ!?友達くらいいるっつーのっ!?」
失礼なヤツ!!オレにだって友達くらいは……
昔近所だった奴らとは、未だに連絡を取り合っている。
ただ、それぞれに仕事が忙しいし、オレは大学の関係で地元から離れたから……あんまり会う事はない。
「そういう由羅こそ、友達いんのか?」
由羅だって、友達の話は全然しない。
この家に誰かを招くことだってないし……
由羅がちょっと考え込んだ。
「そうだな……知り合いは多いが、友人と呼べるほどのはあまりいないかな」
「じゃあ、お前もオレと同じじゃねぇか」
「そういうことだな。じゃあ、今度忘年会するか?」
「だから他に人いねぇだろ!」
「私と綾乃で」
「ほぇ?」
由羅とオレで?
それって忘年会っていうか……ただの飲み会っていうか……え、待って?雇い主と二人で酒飲むのか?
こういう住み込みの仕事してる人の忘年会ってどんななんだ…?
いや、そもそも、莉玖どうすんだよ!!
家飲みってこと?
「……オ、オキモチダケデ、ケッコーデス!」
「ふ、ははっ……何だそれは」
何がウケたのか、由羅が吹き出した。
こいつのツボがわかんねぇ……
っつーか、急に笑うんじゃねぇよ!!びっくりするじゃねぇかっ!!
「んん゛、あ~、えっと……食ったら食器シンクに持って行けよ。オレは莉玖の様子見て来る!」
由羅の笑顔に動揺して思わず廊下に飛び出したオレは、その場で頭を抱えた。
あああ!莉玖が作ったサンタ見せたかったのに、忘れてたああああ!
莉玖のサンタとトナカイはリビングに飾ってある。
でも、今もう一度入るのは何だかマヌケだ。
後でいいか……
あ~もう!何やってんだよオレ……
オレは自分に舌打ちしながら莉玖の様子を見に行った。
***
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