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クリスマス 第54話

「あ、由羅……さん。あの、晩ご飯はどうしましょうか?」  オレは風呂から上がって来た由羅に、愛想笑いと揉み手をしながら聞いた。   「あぁ、晩飯は少し早めに食べる」 「あ、はい……」  ひぃ~ん……由羅の視線が冷たい……  いや、それはいつもだけど……  ……気まずい…… 「あの、由羅……さん。オレ晩飯の買い物に行って来るから、その間莉玖をお願いしてもよろしいでしょうか……?」 「買い物?晩飯の材料が足りないのか?」 「えっと、あるもので作ろうと思えば作れるけど……」  適当にあるもので作れないこともない。  ただ、今はちょっと由羅から離れていたいというか…… 「じゃあ、別にあるものでいい。というか、さっきから何なんだその喋り方は……?」 「え?」 「普段通り喋れ。綾乃に『~さん』付けされると気持ち悪い」 「はあ!?オレだって一応ちゃんと喋れますよっ!?」  お前にタメ口なのは、そもそもお前のせいだし!!  ちゃんと敬語も使おうと思えば使えますけど!? 「それはわかっている。でも、私にはいつも通りでいい。そもそも何で急に……あぁ、もしかしてさっきのことを気にしているのか?」 「……ぅ……」 「別に、私は怒ってないぞ?さすがにちょっと驚いたがな」 「ホントに?」 「わざとじゃないんだから、怒るわけがないだろう?」 「そか……」  それを聞いてちょっとほっとした。 ***  莉玖の午睡中、由羅とは久々にゆっくりと話しをした。  今週莉玖と作った制作を見せたり、制作をする時の莉玖の様子を伝えたり……  普段寝る前に報告していることが今週は出来ていなかったので、話すことが多すぎて、気がつくと莉玖が起きる時間になっていた。 「あ、やべ!洗濯物!晩飯もそろそろ準備した方がいいかな……」  いつもは莉玖が寝ている間に洗濯物を取り込んでいるのだが、今日は話に夢中になっていて忘れていた。 「あぁ、洗濯物は私が取り込んでくる。綾乃は莉玖を起こしてくれ」 「あ、うん。ありがと」  由羅が洗濯物を?  まぁ、取り込むくらいできるか。 「莉玖~!おはよ~、もうそろそろ起きるか?今夜はお出かけだってさ」  あれ、待てよ?お出かけ?……  オレが寝惚け眼の莉玖のオムツを替えて、午睡布団を畳んでいると由羅が洗濯物をカゴに入れて戻って来た。 「あ、ありがと」 「まだ乾いてないのもあるぞ?」 「あ~、冬はなかなか乾かないんだ。乾いてないのは後で乾燥機に放り込んでくるから除けておいてくれればいいぞ」 「わかった」  由羅がチマチマと莉玖の服を畳んでいる姿は何となく微笑ましい。  まぁ、オレが来るまでは由羅が面倒見てたんだから、これくらい不思議でもなんでもないんだけど……  あ、そうだ! 「なぁ、由羅?」 「なんだ?」 「晩飯だけどさ、せっかく早く帰って来たのに、どっかに食べに行ったりしねぇの?」 「……え?」  だって、由羅の帰りが遅かったなら仕方ないけど、せっかく早いんだから、その……彼女?と晩飯食いに行けばいいんじゃね? 「綾乃は……外で食べたいのか?」  オレに聞くなよ!! 「いや、デート……?だったら、外で食うもんじゃねぇの?知らねぇけど……」  どうせオレはデートとかしたことないからわかんないけど!? 「デート……ふむ……綾乃はその方がいいか?綾乃が作るのが面倒なら……」 「は?いや……オレは別にどっちでもいいけど?家で食うなら作るし……」 「……そうか。今週は帰りが遅くて綾乃の晩飯をゆっくり食べられなかったからな……今日は綾乃の飯が食べたいんだが……」 「あ~……」  由羅の帰りが遅い日は、夜食程度の物しか用意していない。  今週はずっと帰りが午前様だったので、たしかにまともなものを作ってやってないけど……  オレがすぐに返事をしなかったせいか、由羅が「ダメか?」と、ちょっと捨てられた子犬みたいな目でオレの顔を覗き込んで来た。  やめろっ!なんだその目は!?何かオレがイジメてるみたいじゃねぇか!? 「ぅ~~……わかった……」  まぁ……外食よりも、彼女?と食べる食事よりも、オレの料理の方が食べたいと言われるのは何となく……優越感っていうか、嬉しい。 「すまない。明日はどこかに食べに行くようにする」  は?いや、今晩泊まりだろ!?お前帰って来て食うつもりだったの!?  むしろそっちにビックリだけど!? 「え?あ……そう」  何となくモヤっとしながらも、とりあえず晩飯の支度に取り掛かった。   ***

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