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クリスマス 第55話

「由羅、莉玖に食事用のエプロンつけておいてくれ」 「わかった。莉玖、エプロンつけようか」  由羅に莉玖の食事用のエプロンを渡して、オレは二人の前に晩飯を並べていった。  今日の晩飯は、余り物の野菜をぶち込んだ野菜スープと、マヨネーズ味の白身魚とキノコのホイル焼きと、かぼちゃのサラダだ。 「……綾乃?」 「ん?あ、もう食べていいぞ?はい、莉玖も!今日はパパと一緒にいただきますだぞ」 「あちゅ!」  莉玖がさっそく手を合わせてペコリとおじぎをした。 「上手に出来たな~!ほら、由羅もいただきますは?」 「パッパッ!あちゅ!あちゅ!」  莉玖が由羅に、手を合わせてペコペコと頭を下げてみせた。 「お?莉玖が手本見せてくれてんじゃねぇか。上手だな~莉玖~!パパに教えてあげたのか~!」 「え、あぁ、いただきます……って、綾乃ちょっと待て!」 「なんだよ?」  オレは莉玖に食べさせようとしていた手を止めて由羅の顔を見た。  なんだ?何か莉玖に食べさせちゃだめなものでもあったか?  莉玖はアレルギーもないし、どれも食べたことのあるものばかりだけど……  莉玖のメニューは、ちょっと味付けを薄味にしてある。   「綾乃の分は?」 「へ?」 「どうして私と莉玖の分しかないんだ?」 「あぁ……オレはあとで適当に食べようと……」 「あとで?今一緒に食べればいいだろう?」 「え……あ~……わかった。あ、莉玖ごめんな、お待たせ。あーん!……ちゃんとモグモグしろよ?」  口を開けて待っている莉玖の口にかぼちゃのサラダを放り込むと、自分の分を取りに戻った。  オレは由羅と莉玖が出かけたらゆっくりと食べるつもりだったのに……  だってまだ5時だし!?そんなに早く食べると後でお腹空いちゃうだろ!?    だが、由羅の迫力に負けて、仕方なく自分の分も用意する。  げ……ヤバい……っ!!  これ見たら由羅怒りそうだな…… *** 「……綾乃……?私は以前から言っているはずだが……」  案の定、オレが自分用として持ってきた晩飯を見た由羅が、ため息交じりに顔をしかめた。 「わぁ~かってます!!由羅の言いたいことはわかってるし、普段はちゃんと食ってるよ!でも今日は……っていうか、今週は由羅がずっと遅かっただろう!?だから、オレの分は作るのサボってたんだよ!莉玖の分はちゃんと作ってたんだから、文句はないだろ?」  由羅が怒っているのは、オレが晩飯として持ってきたのが由羅たちに出したものとは違うかったからだ。  オレの前にあるのは、ホイル焼きで余った野菜を適当に炒めたものと、漬物と、鰹節かけごはん……    だって、白身魚はもうねぇし、野菜スープは明日莉玖が食べるかもしれねぇし……あ、明日何時に帰って来るんだろ? 「魚はもうないのか?」 「ない」 「それならそうと言えば買い物を止めたりしなかったのに。あるものでいいとは言ったが、お前に違う物を食えとは言ってないぞ?」  いや、別に魚を買いに行きたかったわけじゃないけど……最初からオレは余り物を食うつもりだったし。  でもそう言うとまた由羅に怒られそうで、ひとまず曖昧な返事をした。 「まぁ、とりあえず、早く食えよ。出かけるんだろ?」 「あぁ……いただきます」  由羅はまだ納得がいっていない様子だったが、出掛けることを思い出したのかようやく食べ始めた。 「はい、どうぞ。莉玖、お汁飲むか?」  だいたい、莉玖の面倒を見ながら自分も食べようとすると、手の込んだものなんて食べてる余裕ねぇんだよな…… 「莉玖、次どれ食べる?お汁?わかった、じゃあスプーンは置いて、両方のおててでちゃんと持とうな」 「やっ!」 「スプーン持ったままだとお椀が持てないぞ?あ、そう、何がなんでも持つんだな?わかった、じゃあ、こっちのお椀にしようか。どうぞ」  自分で食べたい時期の莉玖には、落としても割れにくいメラミン製のスプーンを持たせている。  スプーンを使って口に運ぶのは難しいので、ほとんどは口にたどり着く前に下に落ちてしまう。  まぁ、なんでも練習あるのみなので、手を添えて使い方を教えながら、間でオレがさりげなく口に放り込んで行く。  汁物を食べる時は、特に大変だ。  傾ける加減がわからないので、大抵…… 「莉玖!?」  お椀に入ったお汁を勢いよく顔面に被った莉玖を見て、由羅が慌てる。  その由羅を手で止めて、オレは笑いながら莉玖の顔からお椀を除けた。   「あ~あ、やっちまったな。うまいか~?そうかそうか。ちょっとお顔拭こうな」 「んまっ!」 「今度はもうちょっとお口を狙って傾けてくれよ~?」 「まっ!まっ!」 「もう一回?わかった、ちょっと待ってな、先にご飯モグモグしててくれ」  お汁を食べるとほとんどこぼすのはわかっているので、お椀を二つ用意して自分で食べると言えばお汁だけを少し入れて渡したり、具だけを入れて渡したりして工夫する。 「はい、莉玖。お汁どうぞ~」 「綾乃」 「ん~?」  莉玖に食べさせていると、由羅に呼ばれた。 「綾乃、こっち向け」 「何だよ!?」  今オレ忙しいんですけど!?説教ならあとにして…… 「口開けろ」 「あ~?……」  言われるまま口を開けると、由羅が魚とキノコを放り込んで来た。 「ん~……うま」  うん、我ながらいい味付け。 「莉玖、お魚美味しいぞ~?次はコレ食べてみるか?」 「あい!」 「はい、あーん」  ……って、ちょっと待て!? 「なんでオレが由羅に食わして貰ってんだよ!?」 「お前がさっきから全然食ってないからだ」 「え?あぁ……莉玖に食べさせながらだし……だからオレは後でいいって……」 「そうだな、私が悪かった。お前が言っていたスプーンの使い方を教えるというのがそんなに大変なことになっているとは思わなかったからな……」  由羅はそう言うと、またオレの口に飯を突っ込んで来た。  いや、オレに食わせるんじゃなくて、莉玖に食わせろよ!! 「交替してやりたいが、私は一方的に食わせることは出来るが、綾乃みたいに教えながらは無理だ」  なので、由羅はオレに食わせることにしたらしい。  どういう理屈!?  結局、莉玖にはオレが食わせて、両手の塞がっているオレには由羅が食わせるという、よくわからない流れが出来てしまった。  因みに、それを真横で見ていた莉奈は、文字通り腹を抱えて爆笑していた。 ***

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