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クリスマス 第57話

 1時間程走ったところで、由羅がどこかの駐車場に車を停めた。 「ここから歩いて10分くらいのところらしい」 「え?あ、歩くのか。莉玖~、お外寒いからあったかくしておこうな」  らしい?どういう事?  とりあえず由羅についていくしかない。  オレは莉玖に手袋と耳当てをつけてチャイルドシートから下ろした。 「あぁ、綾乃、鞄はいらないぞ?」 「え、そうなのか?」 「ちょっと見に行くだけだからな」 「んん?……あ、そ」  お出かけセットの鞄を持って行こうとしていたオレは、また元に戻した。  え、ちょっと見に行くだけ?何を!?  っていうか、こんなところになんの用があるんだ?  この辺りに彼女の家でもあるのか?  由羅が車を停めたのは、どう見ても住宅街だ。  でも、もう夜なのに住宅街にしてはなんだか外を歩いている人が多いような……  由羅が莉玖を抱っこして、先に立って歩いて行く。  駐車場から一本隣の通りに入った途端、景色が一気に変わった。  夜のはずなのに、明るい…… 「ぅわ……すげぇな!!莉玖!見て、ほら、スゴイよ!?」  オレは、思わず由羅の腕を引っ張って、由羅が抱っこしている莉玖に話しかけた。 「きゃー!」  莉玖がパチパチと手を叩いて喜ぶ。  人が多いはずだ。  住宅街の中にある公園全体が、クリスマスイルミネーションで飾り付けされていた。 *** 「ピカピカしてキレイだなぁ!」 「ったったっ!ね~!」 「あっちの方にも行ってみるか」  一通り見た後、由羅が指差したのは公園の外だった。    ここが目的じゃないってことか。 「あ、うん。ごめん、引き止めて」 「いや?まだ見たいならもう少しここにいてもいいが、あっちの方にも飾り付けしてあるらしい」 「へ?そうなのか?」 「あぁ、この公園の周辺は個人で庭に飾りつけをしている家が多いらしくてな。そのわりに車を置く場所があまりないから、結構穴場らしいんだ。まぁ、想像よりは人が多かったがな」 「へぇ~……なんかお前がそんなの知ってるって意外だな」 「実は、部下に教えて貰った。この近くに住んでいるらしくて、さっき車を置いたのも、その部下が使っている駐車場らしい。今夜は出かけるから置いてもいいと言ってくれてな」  なるほど。  そんな話をしながら歩いて行くと、また人が大勢集まっている道に出た。  子ども連れの家族や、カップルだらけだ。 「ぅわぁ~……これ、マジで個人でやってんのか!?え、あの動いてるやつも!?」  確かに普通の住宅街なのだが、通りの両側の家が数件に渡って庭中にクリスマスの飾りつけをしているのだ。  カラフルなライトにサンタやトナカイの立体的なイルミネーションだけではなく、庭にレールを敷いて汽車を走らせているところもある。  もう何だか、ごちゃごちゃしすぎて一体何がしたいのかわからないような家もある。 「全部個人だそうだ。飾りつけは年々派手になっているらしいぞ」 「ひぇ~!すっげぇ~!莉玖!ほら、あそこ見て!サンタさんが屋根に上ってるぞ!」 「たんたっ!」 「あ、こっち小人さんがいるぞ!」 「とっと?」 「いや、鳥じゃなくて小人だ。あ~、小人はまだわかんねぇかな。今度小人が出て来る絵本読んでやるからな――」  いろんな家の飾りを見て歩きながら、莉玖と一緒にオレもはしゃいでいた。  だって、オレ、クリスマスのイルミネーションっつっても、商店街とかにあるクリスマスツリーや、街路樹にしてあるライトだけのやつを見たことがあるくらいで、こんなサンタやトナカイが動いて見えるようなアニメーション的なイルミネーションなんて初めて見たし! *** 「あ、ここまでか」  その先の家も飾りつけをしているところはあったが、ごく簡単なものばかりだった。 「そうだな。派手なのはここまでらしいな。それじゃ戻るか」 「だな!」  ……あれ?なんかオレ忘れてねぇか!?  あっ!! 「由羅!ごめん、オレずっと莉玖抱っこしてもらってた!」  一応住宅街なので声を抑えめにして由羅に話しかけた。 「ん?別にそれは構わないが?」  急に耳元で喋ったせいか由羅が驚いた顔をする。 「いや、だってお前用事があるんじゃ……?」 「何の用事だ?」 「え?だから、その……彼女に会いに……」 「……彼女?何を言ってるんだ。私は今付き合っている女性はいないぞ?」 「へ?じゃあ……今日は何でここに……?」  由羅がちょっと絶句した後、呆れた顔でオレを見て、ため息を吐いた。 「……綾乃が言ったんだろう?イルミネーションでも見に連れて行けって!」 「……え?」  あ~……そういや、ちょっと前にそんな話を…… 「いや、言ったけど、それは莉玖をってことであって、オレは別に……」 「綾乃は楽しくなかったのか?」 「めちゃくちゃ楽しかったですけど!?」 「なら良かった」  由羅がふっと笑ってオレの頭を撫でてきた。 「ちょっと待て!じゃあ、デートって何だったんだよ!?」 「何の話だ?」  由羅が夜出かけるとか意味深なことだけ言ってちゃんと説明してくれなかったから…… 「だからオレは、デートにでも行くのかと思って……それに、お前も否定してなかったし」 「あぁ、それでデートだなんて言っていたのか。まぁ、否定はしない。綾乃と莉玖と三人でデートに来ているようなものだしな」 「はぁ~!?なんだよそれ……」  ややこしいわっ!!  何だよっ!!じゃあ今日一日ヤキモキしてたオレってバカみたいじゃん……  ……ん?ヤキモキ?ヤキモチ?  いやいや、どっちもしてねぇし!!    でも、なぜかちょっとホッとしていた。 「ほら、行くぞ。どうせ同じ道を通るんだから、さっきとは反対側を見ていくか」 「当たり前だろ!?」  オレは来た道を戻りながら、また莉玖と一緒にイルミネーションを楽しんだ。  何か無駄に疲れた一日だったけど、まぁ、このイルミネーションを見に連れて来てくれた点においては……由羅に感謝だな! ***

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