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クリスマス 第58話
エンジンが止まった感覚で、目が覚めた。
はしゃぎすぎたオレは、車に乗るなり莉玖と一緒に眠っていたらしい。
「んあ?……もう家?」
「あぁ、起きたのか。先に莉玖連れて入るぞ」
「ふぁ~い」
オレは、由羅が眠っている莉玖をチャイルドシートから下ろしているのを横目に、伸びをしながら答えた。
そんなに遠出したわけじゃねぇのに、爆睡しちまったな~……
ボーっとしたままお出かけセットを持って家に入った。
***
「由羅、ごめん、代わる。着替えさせないとその服だと寝苦しいだろうから」
「え、あぁそうか。じゃあ頼む」
オレは由羅の寝室に入ると、ベビーベッドで眠っている莉玖のオムツを替えて服を着替えさせた。
こういうお洒落な服は着脱が面倒なんだよな~。
起きている時でも面倒だが、眠っているのを起こさないように着替えさせるのは結構気を使う。
だが、莉玖もはしゃぎ疲れたのかぐっすり眠っていたので、スムーズに着替えさせることができた。
「んじゃ、オレは風呂入って寝る」
「あぁ……」
自分も出かけるとは思ってなかったので、莉玖を風呂に入れただけでオレはまだ入っていなかった。
出かけるってわかってたらオレも先にシャワー浴びたのに……
オレは半分寝惚けながら風呂に向かった。
***
『――綾乃くん!!起きなさい!!こんなところで寝ちゃだめよ!!こら~!……あ!』
莉奈か?何言ってんだ、オレは寝てなんか……
「――……い、おい!綾乃!?」
パンッといい音がした瞬間、頬に鋭い痛みを感じて目を開けた。
「……ってぇな!!なんだよ!?」
ガバッと起き上がると、ホッとした顔の由羅と目が合った。
ん?由羅?え、叩いた!?
由羅が手を伸ばしてきて、混乱しているオレの頬に触れた。
「良かった、大丈夫そうだな」
はい?すっげぇ痛いんですけど!?全然大丈夫じゃねぇよ!?
主に由羅が触れている左頬がジンジンと熱を持っているような気がする。
「っていうか、何なんだよ?どうしたんだ?」
「どうしたはこっちのセリフだ。なかなか風呂から出てこないから様子を見に来たら、お前が湯舟に沈みかけていたから驚いたぞ!?」
由羅が少し大きめの声で怒鳴った。
「へ……?あ……そうなの?」
「まったく……子どもでもあるまいし、風呂で寝るな!死にたいのか!?」
「いや……寝るつもりはなかったんだけど……なんかスミマセン」
自分では全然記憶にないが、風呂に入ったまま眠ってしまったらしい。
「まぁ、無事ならいいが……」
「はい……」
「それよりも早く服を着ろ。風邪引くぞ」
「え?あっ!!」
由羅に言われてよく見ると、オレは素っ裸のままバスタオルを巻いてソファーに寝かされていた。
げ、ソファーがびちょびちょじゃねぇか!!
急いで起き上がってソファーを拭いていると、頭の上からオレの服が降って来た。
「綾乃!!先に服を着ろと言っただろう!?ソファーなんて後でいいから!」
「はぁ~……い?」
振り返ると、上半身裸の由羅が立っていた。
「ん?なんでお前まで脱いでんの?」
「……浴槽からお前を抱いてここまで来たのは誰だと思う?」
「あ……オレのせいか。スミマセン……」
オレが頭を下げると、由羅が大きなため息を吐きながらリビングを出て行った。
たしかに、風呂の中で寝てたオレが悪いんだけどさ~……
そんなに怒らなくてもいいじゃねぇか……
ひとまず服を着て、またソファーを拭いた。
汚れがつきにくい素材らしく、手入れしやすいのが助かる。
そういやソファーはたまに汚れたとこだけ拭くくらいでちゃんと掃除してなかったな~……とか考えているうちに、いつの間にかソファーの掃除に夢中になっていた。
「よし、これでいいか。げ!もうこんな時間だ!」
時計を見ると、もうすぐ夜中の12時。
『綾乃く~ん?早く部屋に戻った方がいいわよ』
うわ、びっくりした。
「……え?なんでだ?」
急に現れた莉奈に驚きつつ聞き返すが、莉奈は意味深な含み笑いをするだけで教えてくれなかった。
『まぁいいから、早く行きなさい』
あ~もう!何なんだよこの兄妹は!!
勿体ぶらずに教えてくれればいいじゃねぇか。
オレはちょっとむくれながらタオルを洗濯機に放り込んで一階の電気を消し、二階に上がった。
***
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