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クリスマス 第60話

 どんなに寝不足でも、朝はやってくるわけで……  寝不足のせいか、気まずさのせいか、頭と身体が重い。  着替えて一階に下りると、すでに由羅と莉玖は起きていた。  そしてなぜか由羅はスーツ姿だった。  あれ?今日休みじゃねぇの? 「オハヨウゴザイマス」  由羅と目を合わせないようにしてキッチンに逃げながら挨拶を投げかける。 「おはよう。すまない、綾乃、ちょっと会社に行って来る」  コーヒーを飲んでいた由羅は普段通りのテンションでオレに話しかけてきた。  ちょっと待てよ!昨日あんなに怒ってたのは!?  オレにイラついてるって言ってたのは!?  お前のせいでオレ全然寝てねぇんだけど!? 「綾乃?聞いているのか?」 「……え?あ、はい。って、仕事?今から?」 「あぁ。昼には帰って来れると思うから。……今日は不審者と間違わないでくれよ?」  由羅がちょっとからかうように言いながらスーツの上着を着た。 「わかってるよ!あ!朝飯……」  今から行くなら早く作らなきゃ!! 「私はもう出るからいい。莉玖に食べさせておいてくれ」 「え、でも……」  なんだよ、昨日言ってくれてたらちゃんと朝飯作ったのに……って、もしかして昨夜ってそのことを伝えるために来てたのか? 「莉玖、いってきます」 「パッパ!」  オレがボーっとしている間に、由羅は慌ただしく仕事に行ってしまった。 *** 『綾乃くん!大丈夫?何だかボーっとしてるみたいだけど』  家事が一段落して、地下室で一息ついていると莉奈が出て来た。 『昨夜、兄と何か揉めてた?』  昨夜はオレに知らせた後は莉玖についていたのだろう。  莉奈が興味津々で聞いてきた。 「いや……揉めてたっつーか、一方的にあいつが怒ってたっつーか……莉奈、あいつが怒ってるって知ってたんだろ!?なんで先に言ってくれねぇんだよ!」 『え?兄が怒ってたの?どうして?』  オレが非難がましい視線を投げかけると、莉奈がキョトンとした顔をした。 「はあ?それはこっちが聞きてぇよ!」 『あら……ごめんなさい、私はまたてっきり……私が見た時は別に怒ってなかったから……』 「そうなのか?」  じゃあ、莉奈のあの意味深な顔は何だったんだよ!? 「何か……あいつオレといるとイライラするんだってさ」 『ええ!?兄がそんなこと言ったの!?』 「言った……」 『あ~もう……兄さんったら……あのね、綾乃くん。それたぶん兄の勘違いっていうか、言葉を間違えただけだから、気にしなくていいわよ!?』 「別にもうどうでもいい……それより莉玖~、今日は何しよっか?由羅が昼に帰って来るって言ってたか……ぁ……れ?」  莉玖を抱っこして立ち上がろうとしたオレは、急に目の前がぐらついて慌ててその場にしゃがみこんだ。  あぶねっ!莉玖を落とすところだった……!!  今のって眩暈か……? 『綾乃くん?どうしたの?』 「莉奈……ちょっとお願いがあるんだけど……」 『なぁに?』 「しばらく莉玖のこと見ててもらっていいか?何かオレ具合が悪い気がするから……熱測る。莉玖、ちょっとママと待っててくれよな」  とは言え、地下室に置いたままには出来ないので、莉玖を抱っこして倒れないように気を付けながらリビングに戻ると、ベビーサークルに莉玖を入れた。 ***  もしかして、風邪?  え、オレ風邪なんて何年もかかったことねぇのに……  保育園では、一年中いろんな病気が流行っている。  子どもとの距離が近い分、どんなに気を付けていても感染は避けられない。  だが、同僚がダウンしていく中、オレだけはずっと元気だった。  だから、ちょっと油断と過信をしていたところはある。 『綾乃くん?もう測れてるんじゃない?音鳴ってたわよ?』 「え?あ……げっ……!」  莉奈に言われて体温計を見ると、オレの体温とは思えない数値が見えた。 「……」 『綾乃くん?何回測り直してもそんなに変わらないわよ!さっさと認めなさい!熱あるじゃないの!!』  ちょっと現実逃避してもう一度測り直そうとしていたオレに、莉奈が眉をしかめて頭を叩く真似をしてきた。 『病院……は日曜だから休日診療か。え~と……とりあえず、姉さんに連絡してみる?それだけ熱が高いと、莉玖をみるのは大変でしょ』 「そうだな……」  オレは自分の部屋に戻ってマスクをすると、荷物をまとめた。 「――もしもし、杏里さん?綾乃です。あの、スミマセン、今から来て貰う事ってできますか?ちょっとオレ風邪ひいたみたいで急に熱が出て……あ、由羅は仕事に行ってます。昼には帰るって言ってたけどわからないし……オレの風邪を莉玖に移しちゃうといけないんで……はい、スミマセン」  杏里への電話が終わると、買い物にも使っているでっかい登山用のリュックを持って一階に下りた。 「莉玖、もうすぐ杏里おばちゃんが来てくれるからな。パパが帰って来るまで、おばちゃんといてくれるか?ごめんな」 『姉さんすぐ来てくれるって?』 「うん」 ***  それから20分程で杏里は来てくれた。  今日は旦那が休みらしく、杏里の子どもたちは旦那がみてくれているらしい。 「すみません、それじゃあ……莉玖のことお願いします」 「いいわよ~。それより、綾乃ちゃんは早くベッドに横になりなさい!顔真っ赤になってるわよ!?」 「あ、オレ、何の風邪かわかんねぇし、杏里さんたちにもうつすといけないから、一旦家に帰ります。病院にも行きたいし。また風邪が治ったら帰って来るんで、しばらくの間、お願いします」  杏里に向かって頭を下げた。 「え!?まぁ、ここにいるよりは綾乃ちゃんもその方が気が楽かしら?わかったわ、でもどうやって帰るの?送って行きましょうか?」 「いや、適当にタクシー拾います」 「そう、それじゃぁ、気を付けてね?ちゃんと病院行くのよ?」 「はい」  精一杯元気に答えると、荷物を背負って由羅の家を後にした―― ***

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