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クリスマス 第61話

『ねぇ、待って!?綾乃くん、どこに行くつもり!?』  玄関を出たオレを莉奈が追いかけてきた。 『あなたの家は……』 「心配しなくても、オレにだって泊めてくれる友達くらいはいるから大丈夫だ。それより、莉玖についててやってくれ。ごめんな、オレの風邪、うつってなきゃいいけど……」 『そんなの、一緒にいれば子どもからうつされることだってあるんだし、気にしなくていいわよ。それより、せめて兄が帰って来るまで待てないの?その荷物抱えてどうやって……』 「由羅にはあとで連絡しておく。それじゃな」  オレは莉奈に手を振って、折り畳み自転車を漕ぎ出した。 ***  とりあえず、風邪薬買わなきゃ……  なんとか駅前まで辿り着くと、駅前のドラッグストアに入って風邪薬、痛み止め、熱さましのシート、栄養ドリンク、スポーツ飲料などをカゴに放り込んで行く。  こんだけありゃ何とかなるか?  あ~えっと……あとはゼリーも買っておくか。  ドラッグストアから出ると、駅前のベンチに座った。  莉奈にはああ言ったが、泊めてくれる友人などいない。  というか、友人はいるが、こんな風邪をひいている状態で泊めてもらうなんて、友人にうつしてしまうから絶対にイヤだ。  どこで一夜過ごすか……夏なら野宿出来るけど、今は12月。  暖冬とは言え、さすがに今のこの体調で野宿はキツイ。  個室のあるインターネットカフェに行こうかと思ったが、この近くにあるのは上が空いているタイプの個室しかない。  それだと、もし流行性の風邪なら、他の人たちにうつすかもだし……――  しばらく考えていたが、熱がある時の脳は本当に使えない。  自分では一生懸命頭を動かして考えているつもりでも、何も考えずにボーっとしている時間の方が圧倒的に長く、同じことをぐるぐると繰り返しているだけで結局何も決まらない。  あ~どうしよう……  そうこうしているうちに、体調はどんどん悪化していく。 「大丈夫ですか?具合でも悪いんですか?」  休憩していたらしいタクシーの運転手が声をかけてくれた。  ずっとここにいたので気になったらしい。 「……へ?あ~……いや、ちょっと頭が痛くて……あ、でも迎えが来るので大丈夫です」 「そうですか。お大事に」 「はい、ありがとうございます……」  時計を見て自分が無駄な時間を過ごしていたことに気付いて驚いた。  自分ではまだここに座って10分程しか経っていない感覚だったが、実際はもう数時間経っていたのだ。    ホテルに泊まるか……  座っていても何も進まないし、他に選択肢もないので、近隣の格安ホテルを探すことにした。  ホテルに泊まるなんて、学生時代の修学旅行以来だ。  素泊まりなら、わりと安いところもある。  でも、格安ホテルは見事に埋まっていて、結局部屋が空いていたのは、オレにしては少しだけ高めのビジネスホテルだった。  由羅家で働き始めてから給料も上がったし、ちょっとは貯金も出来てるから、一泊くらいは……  こんな贅沢したことないので予約のボタンを押すのにだいぶ勇気が言ったが、一泊だけ!と言い聞かせてポチった。  ぅ~~……絶対に一晩で熱下げてやる!!  熱さえ下がってしまえば、あとはネカフェでも何とかなるだろ!! ***  ――チェックイン時間まで何とか外で時間を潰したオレは、ホテルの部屋に入ると、荷物をドサリと落として、ベッドに倒れこんだ。  あ……薬……飲まなきゃ……  そう思って、何とか起き上がりドラッグストアで買ったものをサイドテーブルに出していく。  とりあえず、ゼリー飲料を飲んで、風邪薬を飲むと熱さましシートを頭に貼って、布団に入った。  だが、眠ろうとしても、具合が悪すぎて眠れず、ひたすら唸っていた。  久々の発熱のせいか、余計にキツく感じる……  熱が出るのってこんなにダルかったっけ……?  何か、関節が痛い……  頭も喉も痛い……  吐き気はするし寒いし熱いし……  莉玖たちにうつしてたらどうしよう……大丈夫かなぁ……  あ、そういえばオレ……由羅に連絡……したっけ……?  一瞬眠って目が覚めてを繰り返し、少し薬が効いてきて眠気が襲って来た頃、部屋に誰か入って来た気配がした。    あ゛……そうだ忘れてた……  オレがホテルを利用しない理由は、金額的にキツイっていうのもあるけど、もう一つ……  ネカフェのようにいろんな人がすぐ近くにいて、誰かが常に起きているような状態だとあまり寄ってこないが、こういう宿だと、喜んで出て来る(やつら)がいるのだ……  マズイな……今こられたらオレ……無理だ……  普段は気合を入れれば弾けるが、身体が弱っている時は力が弱まるらしく、子どもの頃は何回か身体を乗っ取られかけたこともある。  以前、莉奈に身体を貸してくれと言われて断固拒否したのは、昔乗っ取られかけて散々な目にあったことがあるからだ。    いくつもの黒い手が伸びてきて、オレの身体の中に入ろうとする。  これだけ弱っていても、力の弱いやつはオレの中には入って来れないらしく、また一度に数人分の霊体が入って来ることも出来ないので、誰が乗っ取るかせめぎ合いをしているのが見えた。  うわ~、オレ、モテモテじゃん。  なんてちょっと余裕をかましているけれど、身体の上に大量に乗っているので、金縛り状態で動けない。  しかも、こいつらのせいで、余計に吐き気と悪寒と頭痛が酷くなった。  つーか、重いっ!!重くて息苦しいっ!!  あ~、いつも通り、ちゃんと御守り握って寝れば良かった……  ん?いや、ちょっと待て、オレの御守りって……あ、そうだ……由羅が出張に行ってた時に、莉玖に持たせて……そのまま返してもらってない……はい、オレ終了~……もうどうでもいい……や……――――……このバカがっ!!」    どんどん身体が重くなって、オレの意識がズブズブと暗い闇に引きずり込まれていこうとしていた時、何やら人の話し声がして、急に怒鳴りつけられた。  ……え?  怒鳴られたと同時に身体がスッと軽くなって息苦しさが楽になった。  何がなんだかわからないが、身体の上にいたやつらの気配も一瞬で消えていた。  助かった……のか?  ホッと息を吐くと、そこで意識が途切れた――…… ***

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