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クリスマス 第63話
「あの~……由羅……さん?」
オレは、仏頂面でスプーンを差し出してくる由羅に、恐る恐る話しかけた。
「なんだ?」
「お粥くらい自分で食えますけど……?」
「うるさい。つい数時間前まで高熱が出て唸っていたのはどこの誰だ?いいから口を開けろ!」
由羅が眉間の皺を更に深くした。
有無を言わせないオーラを出しながら、スプーンを口に近付けてくる。
「だったら、もうちょっと冷ましてくれよ!!それ絶対熱いっ!!」
「……まだ熱いのか!?まったく……どれだけ猫舌なんだ……」
ブツブツと文句を言いながら、フーフーと冷ます。
だって、湯気がスゴイし……
お粥は冷めにくいから熱いのが苦手なオレはお粥のような冷めにくい食べ物は苦手だ。
「だから自分で食うって……」
お粥を冷ましていた由羅が手を止めてピクリと頬を動かした。
あ、やべっ!
「……自分で食うだと?お前は自分で食べさせたら、ろくに食わないじゃないか!!これからはちゃんと食べているか私が監視するからな!?」
「あ~もう!!だからそれに関しては悪かったって!別に由羅のせいじゃねぇから!!オレの自業自得です!!――」
***
久々に風邪をひいたせいで若干パニクったオレは、由羅家のみんなにうつさないようホテルに避難していたのだが、目を覚ますとなぜか由羅家の自分の部屋にいた。
一瞬、杏里に連絡を入れたのも、ホテルに行ったのも、夢だったのか!?と思ったが、ベッドサイドにいた由羅が、
「具合が悪い時は安静にするものだろう!?なぜ家を出た!?私や莉玖にうつさないようにと思ったのかもしれないが、ホテルに泊まるくらいなら自分の部屋にこもっていればいいだけだろう!?」
と、大変ご立腹だったので、やはりオレはホテルに行っていたらしい。
オレだっていろいろ考えた結果だし!!
だいたい、お前が……オレといるとイライラするって言うから……迷惑かけないようにと思って……っ
人間、体調の悪い時は気も弱くなるらしい。
熱で朦朧としていたオレは、由羅が怒っている理由がわからず、なぜか無性に悲しくて泣きながら「ごめんなさい」と謝っていた。
そんなオレを見て、由羅はため息を吐くと「あれは別に……お前に出ていけという意味じゃない!」とまた怒鳴った。
ちなみに、病人に向かって怒鳴りつけた由羅は、驚いて様子を見に来た杏里さんに思いっきり叱られていた。
***
一晩で熱を下げてやる!と思っていたオレだが、結局、2日間高熱で寝ていたらしい。
由羅に回収されたオレは、そのまま由羅の知り合いの病院に連れて行かれた。
幸い、普通の風邪だったのだが、その時に医師から、オレの栄養状態が悪いと言われて、雇い主ならケチケチせずにちゃんと食わせろと説教を食らったらしく、その結果……
仏頂面で飯を食わせて来る由羅が出来上がったというわけだ。
「――だから、ちゃんと食えと言っているのに……!!」
「ごめんって!!別に我慢してるわけでも遠慮してるわけでもなくて……自分ではお腹いっぱいになってたから……」
「莉玖と私の食事バランスはちゃんと考えて作ってくれるのに、どうして自分の栄養管理が出来ないんだ!?私と同じものを同じ量だけちゃんと食べていればいいだけのことだろう?」
「だから、だいたい同じもの食ってたし!?」
「大体じゃダメだ!」
「……ふぁ~い……」
あ~もう……なんかここ数日ずっと由羅に怒られてる気がする。
「由羅、そういやなんでオレの居場所がわかったんだ?あ、携帯か?」
前に携帯のGPSで居場所がわかるアプリを入れておくと言われた気がする。
「いや?あれは、お前に預けていた私のカード情報を調べただけだ。ホテルの代金をカードで支払っただろう?」
「あれ、そうだっけ……ごめん、オレの給料から天引きしといて」
手持ちの現金がなかったから、咄嗟に使ってしまったのかもしれない。
「あれくらい別に構わない。むしろ綾乃がカードを使わなければ見つけられなかったかもしれないしな……あ、それよりお前携帯の充電切れていたぞ?どうしてホテルで充電しなかったんだ?」
「え?あ~……ホテルに入ってからのことはほとんど覚えてねぇんだよな。とりあえず薬飲まなきゃと思って、薬は飲んだ記憶があるけど……携帯のことなんて忘れてた……」
「だから暖房もつけてなかったのか……」
「暖房?」
「入った時に寒いと思わなかったのか?あんな寒い部屋にいたら余計に悪化するぞ」
「自分の身体が熱いからよくわかんなかったな……そっか、あの部屋暖房ついてなかったのか……っていうか、ホテルって自分で暖房つけるんだ?オレほとんど利用したことがないから、そんなこと知らねぇし……」
オレの言葉を聞いて、由羅がポカンと口を開けた。
「……わかった、元気になったら莉玖も連れてどこか旅行に行くか。ホテルでも旅館でも連れて行ってやる」
「え!?いや、なんでそうなるんだ!?」
「社会人だろう?一般常識くらい知っておけ。他に知らないことは?テーブルマナーか?――」
「テーブルマナーくらい知っ……てるしっ!!」
「ほほ~?じゃあ、今度フランス料理でも食いに行くか」
「だから、なんでそうなるんだよ!?」
由羅の眉間から皺が消えたのは良かったが、由羅の発言はどこまで本気なのかがわからない。
病み上がりにこの由羅の相手すんの、正直キツイんですけど……
こいつ一体なに考えてんだ……?
***
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