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クリスマス 第65話

「ぅ~~~~~~~ん……」 「いつまで唸ってるつもりだ?」  由羅に駅ビルの大きい本屋に連れて来てもらったオレは、かれこれ20分程絵本コーナーで唸っていた。 「だって、どれがいいかなぁ~って……由羅どう思う?」 「私に聞くな。姉がお前に任せると言ったんだろう?お前がいいと思ったものを選べばいい」 「うん、そうだけどさぁ……」  以前、杏里に由羅家のクリスマスの過ごし方などを聞いた時に、杏里の子どもたちへのプレゼントについても、何がいいのか聞いていた。  その時に杏里に、 「絵本って種類がいっぱいあるから何がいいのかわからなくて困るのよね。全部に目を通す時間はないし、子どもたちの年齢にあった絵本もよくわからないし……だから、綾乃ちゃんがいいと思う絵本をあの子たちに一冊ずつ選んであげてくれないかしら?」  と頼まれたのだ。   「一応、前に遊びに行った時に一路(いちろ)たちが持ってる絵本はチェックしたから、これは持ってないはずなんだけど……でも、一路はもうひらがな上手に読めるし、あいつの性格だとこっちの方が……」 「綾乃、まだ一人目だぞ?一路のが決まらないなら朱羽(しゅう)や双子たちのを先に探せばいい」 「そっちもだいたいは決まってんだけどさぁ……双子って、それぞれに同じものをあげたほうがいいのか、それとも別々のをあげて……」 「あ~もう、わかった。好きに悩んでくれ。私はあっちで雑誌でも読んでくる」  オレの絵本選びに付き合うのに疲れたのか、由羅は雑誌コーナーに逃げて行った。 「だから、ひとりで来るって言ったのに……」  オレは自分のものを選ぶ時は、ほとんど迷わない。  基本的に、迷った時は安い方を選ぶからだ。  でも、誰かのために選ぶ時は、自分でも驚くほどに優柔不断になる。  一体どんなものが喜んでくれるのか、相手のことを考えれば考えるほどにわからなくなるし、相手がすでに持っていたらどうしよう?とか、趣味じゃないものだったらどうしよう?とか……だんだんと不安になってきて、なかなか決まらないのだ。 *** 「よし、これに決めた!」  何とか絵本を選び終わって、クリスマスプレゼント用にラッピングをしてもらった。 「さてと、由羅はどこだ?雑誌のところって言ったっけ?」  本屋の中を探し回ったが、由羅はどこにも見当たらない。 「あいつどこ行ったんだ!?」  もしかして、あまりにも時間かかりすぎだから呆れて家に帰ったとか!?  なんてことを冗談交じりに考えながら時計を見ると、オレは2時間近く本屋で悩んでいたらしい。  あちゃ~……これは由羅に怒られても仕方ねぇな……  だが、いくら怒っていても由羅が黙ってオレを置いて行くとは考えられない。  ひとまず連絡を取ろうと携帯を取り出した瞬間、由羅から電話がかかってきた。 「ぅわっ!?え、あ、はい!由羅?」 「本屋の前のベンチだ」 「へ?」 「もう絵本は買えたんだろう?」 「あ、うん」 「早く出て来い」 「あ、はい!」  すごいタイミングだな……と思って外に視線を移すと、ガラス越しにベンチに腰かけている由羅が見えた。  どうやら、ベンチから由羅を探して店内をウロウロしているオレの姿が見えたらしい。   「お待たせして大変申し訳ございませんでした!」 「私も自分の買い物を済ませてきたから別に構わない。で、いいのはあったのか?」  怒鳴られるのを覚悟して由羅に謝ると、意外にも由羅は穏やかだった。 「あ、そうなのか。うん!……あ~まぁ、オレがいいと思っただけだから、わかんねぇけど……あいつらが喜んでくれるといいんだけどな」 「そうだな。あとは、食料品か?」 「あ、食料品はここよりいつものスーパーの方が安くていいのがあるから……」 「それじゃ、いつものスーパーに行くか――」  その後、いつものスーパーに寄ってクリスマス用の食材などを大量に買い込んで、ついでに普段はかさばるので少しずつしか買わない日用品なども買った。  帰宅後は、また少し熱が出ていたので、オレは由羅に叱られる前に、自分から大人しくベッドに戻った。  まぁ、なんだかんだで買いたかったものは買えたし、これでひとまずは安心だ。    病み上がりだったせいか、やけに身体と瞼が重い。  ベッドに横になった瞬間、オレは爆睡していた。 ***

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