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クリスマス 第68話
「――五月 ちゃ~ん!メリークリスマス!それで、一体何がどうなってんのよ?」
「はいはい、メリクリ。何が?」
「だから、いきなり『そんなこんなでメリークリスマスイブ』とかメールが来ても、どんなこんななのかわからないでしょ!?」
「そんなこんなは、そんなこんなだろ!?」
「め~い?もう!ちゃんと話してくれなきゃわからないでしょ?あんたにクリスマスプレゼント送ろうとしたらそんなアパートないですよって戻ってくるし、ようやく連絡取れたと思ったら変なメッセージ送って来るし……一体何があったのよ?」
クリスマスの朝。
オレは、数か月ぶりに母からのお小言を食らっていた。
「ん~……話せば長くなるから……」
「いいから話しなさい!!」
「ぅ……だから――」
観念して、ベッドの上に起き上がると、この数か月のことを話した。
実は、保育所をクビになったことや由羅の家に住み込みで働いていることなどは、母にはまだ話していなかったのだ。
せっかく新しい旦那と楽しく海外生活を送っている母に心配をかけたくなかったというのもあるし、もう大人なんだから自分でどうにかしないと、という気持ちもあった。
「――あんたって子は……ほんっとバカね!!」
「な、なんだよ!?んな、改めて言われなくても、バカなのは自分が一番わかってるよ!!」
「あのね……あんたが短大を卒業した時に、これからは自分で生きて行きなさいとは言ったけど、本当に困った時と結婚する時には連絡しなさいとも言ったわよね?」
あ~……家を出る時に、そんなことを言われた気がするけど……自分で生きて行くってことの方に必死で忘れてたな……
「あんたは昔から何でもひとりで解決しようとするクセがあるから……まぁ、それは私のせいでもあるんだけど……でもね、あんたからすりゃ私は頼りないかもしれないけど、何歳になっても、私があんたの母親であることは変わらないのよ!困った時には頼りなさい!」
「でも、母さんだって、もうこの歳にはひとりでオレを育てて……」
「そうよ?ひとりであんたを抱えて、大変だった。だけど、勘違いしないで?私は自分独りであんたを育てたわけじゃないわ。近所の仲間で支え合ってたし、当時の彼氏にもいろいろ助けて貰ってたし……頼れるものは頼る!使えるものは使う!甘える時には甘える!私が独りじゃ生きて行けないのはあんたが一番よく知ってるでしょ?」
電話の向こうから、何度目かの母のため息が聞こえた。
「それはわかってるよ。オレもどうしてもダメなら、母さんに頼るつもりだったけど、出来るところまではひとりでやってみようって……え?あ、ちょ、由羅!?」
耳に当てていた携帯がフッと消えた。
振り向くと、いつのまに入って来たのか、由羅が立っていた。
「もしもし?初めまして。――」
オレが茫然としている間に、なぜか由羅はオレの母親と話し始めた。
「え、ちょっと何で勝手に……」
携帯を取り返そうと手を伸ばすが、由羅も手を伸ばしてきてオレの額に指を当てた。
人さし指一本なのに、なぜか前に進めない。
横に避けようとすると、グッと後ろに押されてベッドに押し付けられた。
くっそぉ!リーチの差!!
っつーか、何でオレの母親と和やかに話してんだよ!?
おいこら!?笑ってんじゃねぇぞ!?
「返せってばっ!!由羅っ!!」
「はい、そうですね、わかりました。それではまた……はい、失礼します――」
由羅が通話を切ってオレに携帯を返して来た。
「ぅおおおおいっ!?なんで勝手に切ってんだよ!?」
「なんだ、まだ話したかったのか?お母さんの方はもう聞きたいことは聞いたからいいわ、ってあっさり切ってたぞ?」
聞きたいことは聞いたって何だよ!?何聞いたんだよ!?
「今度から私が定期連絡を入れることになった」
「何で!?」
「お前がちゃんと連絡しないからだろう?ここで働くことになったのも、家がなくなったのも、何も話していなかったらしいじゃないか……」
「ぅ……だから、それは……でも、別にオレももう子どもじゃねぇし、全部親に報告する必要はねぇじゃんか」
「……まぁ確かにな。だが……せめてうちで働いてることや、うちに住んでいることくらいは知らせておけ」
「それは……だから正月にでも連絡するつもりで……」
嘘ではない。正月には一応現状をちゃんと話すつもりではあった。
でも、莉玖のことがあるから、母にここの住所を知らせていいものかどうか迷っていたのもある。
「そういうことは、私に一言聞けばすむことだろう?お前の両親にここの住所を知らせることくらい別に構わない」
「そか……」
「あぁ、あと、お前は子どもの頃から喉が弱くて、風邪を引くとよく高熱を出していたと教えてもらった」
「え!?」
確かによく熱は出してた気がするけど……喉が弱いっていうのは知らなかったぞ!?
「お前は人のことばかりですぐにムチャをするから、くれぐれもよろしくと頼まれた。お前の健康管理は私がちゃんとすると約束したから、しっかりと管理させて貰う」
「いや、逆だろ!?オレがお前の……」
「じゃあ、お前は私の健康管理をしてくれ。お互いに自分のことは疎かにしてしまいがちだからな」
「え?……あ、うん……んん?」
どういうこと!?
「まぁ、それはいいとして、そろそろ起きて来い」
「へ?」
由羅に言われて時計を見ると、もうすぐ朝の9時。
起きようとした時に母から電話がかかってきたので、そのままベッドの中で母のお小言を聞いていたのだった。
「珍しくお前がなかなか起きて来ないから様子を見に来たんだ」
「あぁ……」
オレは急いでベッドから出ると服を着替えた。
あれ?そういやオレ、何か忘れてるような……
***
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