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クリスマス 第69話
――朝食後、コーヒーを入れていると、由羅が大きめの紙袋を持ってきた。
「何だそれ?」
「クリスマスプレゼントだ」
「あぁ」
莉玖のクリスマスプレゼントか。
そういや……
「あ、オレもう熱下がったから、昼にでも莉玖を迎えに行っ……なんだよ?」
なぜか由羅がオレの目の前に紙袋をズズイと突き出した。
前が見えねぇっつーの!
「クリスマスプレゼントだと言っているだろう?」
「それはわかったって。だから、莉玖を迎えに行こうぜ。帰ってきたら渡してやれば……」
「お前のだ」
「……は?」
「これは綾乃の分だ」
「……オレ?え、何で?」
「……」
「ちょっ!?」
由羅は、オレの質問には答えずに、紙袋を押し付けて来た。
「え?っていうか、これ何が入ってんの?」
「見ればわかる」
「そりゃそうか……」
戸惑いながら中身を取り出す。
紙袋に入っていたのは、服だった。
オレの持っている服とは全然違う、オシャレな感じの……
しかも、インナーからジャケット、スラックス、靴まで一式……!?
なんかやけに袋がデカいと思ったら……っていうか、よく見ると、紙袋のマークが……これブランド品?
「え、多くね!?」
「どこがだ?ただの上下一式だぞ?」
ただのって……いや、上下一式って、靴とかも入ってるからこれ何点セット!?
そもそも服一式とかオレ就職用のリクルートスーツくらいしか買ったことねぇよ!!
普通は上下別々に買うだろ!?……え、そうだよな?
「着替えてこい」
「今!?」
「サイズが合わなきゃ意味ないだろう?」
「あ、そうか」
返品するなら買ってから何日以内とかあったんだっけ?
ひとまず、言われるままに着替えた。
***
「あの……由羅?」
着替え終わったオレは、リビングにいる由羅に見せに行った。
「なんだ?あぁ、よく似合ってるな」
オレの頭のてっぺんからつま先までをじっくりと眺めて、由羅が満足そうに口元を綻ばせた。
「あ~うん、サイズも大丈夫だった……っつーか、なんでオレのサイズ知ってんの!?」
ピッタリ過ぎて怖いんですけど!?
上着はもちろんのこと、スラックスも靴も全部ピッタリだった。
「お前が寝込んでいる間、服を着替えさせて、洗濯していたのは私だぞ?」
「でも、オレ自分の服はいつも大きめのやつ着てるし……」
冬は下に着込めるようにパーカーとかは大きめのサイズを買っている。
「だから、普段来ている服のサイズから少し考えればわかることだろう?」
そういうものなのか?
「……でも、オレ、こんなのもらえないぞ?」
「気に入らなかったか?」
「そういう問題じゃなくて!だってこれ……高いんだろ?」
こんな高いの貰っても……どうすればいいのかわからない。
「別に既製品だからそんなに高価なものじゃないぞ?それに、私がプレゼントしたいと思ったからしているだけだ。値段なんて気にしなくていい」
いやいやいや、普通に気にするだろ!?
「お前にとっちゃ安物でも、オレにしてみりゃ高価なんだよっ!!こんな高いの貰ったら汚すのが怖くて着れねぇじゃねぇか!それに、オレこんなお洒落な服着て出かけることなんて……」
普段オレが出掛ける場所なんて図書館とスーパーが主だし!?
「この間みたいにデートの時にでも着ればいい」
はぁああ゛!?デートする相手のいないオレにそういうこと言う!?
「……あ~、なるほど。嫌がらせか?壮大な嫌がらせだな、おい!?」
「何でそうなるんだ?」
「オレにデートする相手がいねぇって知ってるくせに!!」
「いるだろう」
「どこに!?」
「目の前に」
「……ん?」
「私とデートする時に着てくれればいい。というか、どうしてお前が他の誰かとデートするための服を私がプレゼントするんだ?」
「え?そりゃそうだけど……あ、また三人で出かける時用ってことか」
この間、三人で出かけた時にオレの恰好を見て、何か考えてたけど……もしかして、オレの服装が気に入らなかったから、わざわざ買ってくれたのか?
「まぁ、莉玖を連れてる時でもいいし、二人の時でもいいし……」
「なんでお前と二人でデートしなきゃいけねぇんだ?」
「……綾乃?普通はデートは二人でするものだと思うぞ?」
はい、話が通じない~!!
ん?……いや、違う!!
……思い出した。
オレ、昨日……由羅に好きって言われたんだったああああああ!!
***
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