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クリスマス 第71話

「綾乃、まだか?着替えるのにやけに時間がかかって……どうした?」  ベッドに腰かけて体温を測っていると、由羅が入って来た。 「まだ具合が悪いのか?」  由羅がオレの額に手を伸ばして来たので、その手を思わず(はた)いた。 「触んなっ!!……もう大丈夫だったのに……お前が笑ったりするからっ!!」 「私がなんだって?」  オレに(はた)かれた手を軽く振りながら、由羅がちょっと首を傾げた。 「お前が珍しく急に笑ったりするから……熱が上がった……」 「……は?」 「なんか心臓がドキドキするし、顔熱いし……せっかく治ったと思ったのに!!」  せっかく莉玖を迎えに行けると思ったのにぃいいいい!!!  ちょっと半泣きで由羅を睨みつけた。   「……んん?……え~と……綾乃?それは……」  由羅がこめかみを押さえながら、何やら唸った。 「ん?あれ?熱はないや。おっかしいなぁ~顔熱かったのに……」  体温計を見ると、意外にも熱は上がっていなかった。   「あ~……うん、そうか……まぁそうだろうな。ふ、くくっ……」  首を傾げてハテナマークを飛ばしているオレを見て、由羅が顔を横に向けて小さく肩を震わせた。  この笑い方はいつものバカにしたやつだな!? 「ぁん?何だよ!?」 「いや、熱がないなら大丈夫だな」 「でも、動悸も激しかったし……」  さっきよりは落ち着いたけど…… 「動悸、息切れに効く生薬でも飲んでおけ」 「……それって風邪薬と一緒に飲んでも大丈夫なのか?」 「知らん。服用の注意点でも読んでみろ。ほら、さっさと着替えて行くぞ」 「え、ちょ、ぅぷっ!」  由羅がおざなりに返事をして、オレのパーカーをズボッと頭から被せてきた。  なんなんだよ!誰のせいだと思って…… 「っ!?」  オレがブツブツ言いながら腕を通していると、ダウンジャケットとマフラーをオレの顔に投げつけてきた。  ぅおおおい!?普通に手渡せよ!!  さっき手叩いたから怒ってんのか!?   「車で行くとは言っても、病み上がりなんだから温かくしておけ」 「おまっ……」  怒鳴りかけて、ちょっと考える。  一応これも心配してくれてんの? 「……わ、わかってるよ!!」  お前の心配、わかりにくぃいいいいい!  これでオレのことが好きとか絶対嘘だろ!? *** 「――なぁ、由羅ってオレのこといつから好きだったんだ?」  助手席に座ると、何となく黙ってるのは居心地が悪くて、何か話題をと口から出たのがこの言葉だった。  だって……どう考えてもオレのこと好きって態度じゃねぇのに、なんでいきなり好きとか言い出したのか気にはなるし? 「なぜそんなことを聞く?」 「え?いや、何となく……」  っつーか、聞かない方がおかしくね? 「……自分でもわからん」 「へ?」 「まぁ、好きかどうかは別として気に入ったからベビーシッターとして雇いたいと思ったのは確かだな。嫌いな人間を雇うような趣味はない」 「それはそうだろうけど……」 「ただ……」  由羅が少し考えるように言葉を切った。 「ん?」 「帰宅してお前の顔を見ると……ホッとする」 「あ~……そりゃまぁそうだよな。オレがいねぇと莉玖に何かあったってことだし?」 「……そういう意味じゃないんだが……」  由羅が小さくため息を吐くと、苦笑いをした。 「ん?」  違うのか?じゃあ、何だよ。  由羅が帰宅した時にオレと莉玖がいるのは当たり前じゃんか。  オレは住み込みの家政夫なんだし……  え、オレなんか変なこと言った?  杏里さんの家に着くまで助手席で首を傾げていたが、結局わからなかった。 ***

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