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クリスマス 第72話
「莉玖ぅううう!!メリークリスマス!!」
「あーの!」
オレは杏里の家に着くと、杏里に抱っこされて出て来た莉玖を一番に抱きしめた。
「オレのこと覚えてくれてたか~!良かった~!」
「……私が昨日抱っこしたら号泣してたのに……」
莉玖と頬をスリスリしているオレの隣で、由羅がボソッと呟いた。
「ぶっ!え、マジで?」
「そうよ?昨日、響一に子どもたちをしばらくみてもらっていたのだけど、響一が莉玖を抱っこしたら嫌がって泣いてたわ」
杏里がさもおかしそうに笑った。
「どうしたんだ~?莉玖~。パパのこと忘れちゃってたのか~?パパイヤ期か~?」
「綾乃、それは一体どういう意味だ?」
「いや、ちょうど年齢的にもそろそろパパイヤ期かなって」
「パパイヤ?」
「由羅、その発音だと果物になるぞ?」
「まぁとりあえず、中に入りなさいよ。いつまで玄関で話してるつもり?」
「はーい!」
そういえば、ここ玄関だった……
由羅の家も、杏里の家も、広すぎてなんか玄関って感じがしねぇんだよな……
***
一年間でほんの数日しか登場しないくせに存在感ありまくりなそいつは、リビングの角っこを広々と占拠していた。
「うわ~!すげぇな!ホントに大きいツリーだ~!」
てっぺんの星が天井につきそうな程大きなツリーを見上げて、オレは子どもみたいにはしゃいでいた。
街中で見るツリーはもちろんもっと大きかったけど、家の中でこんな大きいツリーを置いているなんて、想像もしていなかったからだ。
「由羅!由羅!写真撮って!!」
「え?あぁ、わかった」
「ほら、莉玖!パパの方見てみな?」
莉玖と一緒にツリーの前に立って、由羅に写真を撮ってもらう。
「撮れたか?」
「ちょっと待て。もう一回」
そう言うと、由羅が隣にいた杏里に自分の携帯を手渡した。
「はい、姉さん。お願いします」
「え?私が撮るの?」
由羅は杏里の声を無視してツリーの前に来ると、オレと莉玖の横に並んだ。
「なんだ、由羅は昨日莉玖と撮らなかったのか?じゃあ、お前が莉玖を抱っこすれば……」
「いや、綾乃が抱っこしていてくれ。私が抱っこすると嫌がるから」
「え~?大丈夫なんじゃねぇの?今日は機嫌良さそうだし」
そう言って、由羅の腕に莉玖を渡した瞬間……
「やぁあああああ!あ~~の~~~~!!パッパやああ!!」
さっきまでご機嫌だった莉玖が、全力で由羅を拒否って泣き叫んだ。
「……な?……はいはい、わかった!莉玖は綾乃がいいんだよな?ほら、綾乃だぞ~!!」
莉玖に蹴られながら由羅が急いでオレの腕に莉玖を戻して来る。
「あ~……うん。なんかごめん」
オレが抱き取るとすぐに落ち着いた莉玖の様子に、何というか……由羅に申し訳なくて、ひとまず謝った。
「別にお前が抱っこしてこっちに来ればいいだけだろう?」
そう言うと、由羅は莉玖を抱っこしたオレの肩を抱き寄せた。
「でも、これだとオレまで写真に入っちまうぞ?」
「わかっている……だから撮っているんだ」
「……は?」
「いいから、早くしろ。見てみろ、姉さんが飽きて来ているじゃないか」
「え?」
由羅に言われて杏里を見ると、杏里は椅子に座って優雅にお茶を飲んでいた。
「ん?もう撮ってもいいかしら~?」
「あ、はい。お願いしま~す!」
「はーい、それじゃこっち見て~!莉玖~!ニコニコして~!――……」
4人の子どもを育てている杏里は、子どもの写真を撮るのも上手い。
由羅に抱っこされたせいでグズグズになっていた莉玖をうまく笑わせてくれて、めちゃくちゃ可愛い瞬間が撮れていた。
オレも職業柄、子どもの写真を撮るのは得意だけど、杏里さんは構図とかもいろいろ変えてきて、スタジオで撮ったのかと思うような写真が多い。
「すげぇよな、いろいろ勉強になるな~……」
帰りの車内でオレがそう呟くと、由羅が、
「まぁ、姉はもともと服飾関係のデザイン系の仕事をしていたからな。センスは良いと思うぞ」
と教えてくれた。
なるほど、センスか……オレにはないものだな。
オレは自分の服を見下ろして、納得した。
***
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