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クリスマス 第73話
「着替えは杏里さんが洗ってくれてるから、そのまま片づけてくれていいぞ。え~と、これとこれは洗濯機に放り込んでおいてくれ。んで、これは……」
帰宅後、オレは由羅を使って莉玖のお泊りセットの片づけを始めた。
いつもはオレがさっさと片づけるのだが、今回は由羅に莉玖をみていてもらおうとすると、莉玖が『パパイヤ』を発動するので、オレが莉玖をみながら由羅に指示をして、由羅が片づけてくれている。
「綾乃、これは?」
「あぁ、それは鞄に入れたままでいいよ。そのサイドポケットのところに入れておいてくれ。あ、そっちじゃなくてその横!」
「わかった」
いちいち口で説明していくのは面倒臭いが、まぁ仕方ない……
本当は、次に使う時のために、中身を確認して足りないものを足して、服を入れ替えて……といろいろすることはあるのだが、それは莉玖が寝てからすることにしよう。
由羅はさっき杏里さんの家で莉玖に拒否られたせいで、もうすでにだいぶダメージを受けているようだし……これ以上莉玖に拒否られるといじけちゃいそうだしな。
「莉玖~?あんまりイヤイヤ言ってたらパパいじけちゃうぞ~?」
「あ~の!たんた!」
オレの言葉を華麗にスルーして、莉玖が窓際を指差した。
「ん~?あぁ、莉玖が作ったサンタさんな。杏里さんの家にもサンタさん来たか?昨日はパーティーだったんだろ?楽しかったか?」
「たんた!」
「はいはい、莉玖のサンタさんだぞ~」
窓際に飾っていた莉玖の手作り紙皿サンタを渡すと、嬉しそうにぶんぶん振り回した。
ハハハ、まぁもうクリスマス終わるし、写真には残してあるからぶっ壊れてもいいか……
『やっぱり自分が作ったサンタさんが一番お気に入りなのね~』
「よぅ、莉奈久しぶり」
そろそろ姿を現すだろうと思っていたので、とくに驚くこともなく小声で話しかけた。
『久しぶり~!もう体調は良さそうね。まったく、だから兄さんが帰って来るまで待ってなさいって言ったのに……』
「あぁ、うん。そうだな。ごめん……」
風邪をひいて家を出て行こうとした時、莉奈はかなりオレのことを心配してくれていた。
それを振り切って出て行って、結局悪化してみんなに迷惑をかけたのだから、さすがに情けなくて何も言えない……
『あらやだ。そんなにしょげなくてもいいじゃないの。まぁ、あんなに慌ててる兄さんを見ることなんて滅多にないから、私は面白かったわよ?』
うん、お前はそういう奴だったよな。
「ところで莉奈さんや?」
『なぁに?』
「お前、由羅になんか変な念でも送った?」
『念?どういうこと?』
「……由羅が急に……オレのこと……す、好きとか変なこと言い出したから……」
『ふむふむ……へ?……ぇえええええええええ!?何それちょっと詳しく!!!』
「近いっつーの!!詳しくも何も、それだけだよ!!」
莉奈が急に目の前に来たので、さすがにちょっとのけ反った。
「どうせ、お前が何か変な念でも送って言わせたんだろ!?」
『何言ってるの?そんなことしてないわよ。私が念を送ったのは先日の不審者扱いして木刀で殴りかかった時くらいよ?』
「へ?」
『それに、莉玖が姉さんの家にいる間は私も向こうにいたから、こっちの家のことは知らないわよ?』
言われてみれば、莉玖の守護霊なんだから莉玖と一緒にずっと向こうにいたと言うのは当たり前だ。
あれ?じゃあ、由羅はどうしてあんなこと言ったんだ?
『どうして私が兄さんに言わせたって思ったの?』
「だって、あいつ……オレのこといつから好きなんだって聞いたら、わからんって……それにどう見てもオレのこと好きって態度じゃねぇし……だから、お前が何かしたのかなって……」
『私は何もしてないわよ。それに、もし私が何かしたとして、そんな面白そうなことを自分がいない時にさせるはずないでしょ!?』
「あ、そうですね……」
莉奈が言うと説得力がある。
『だから、兄が言ったのはきっと……』
その時、足音が聞こえてきて莉奈が姿を消した。
それと同時にリビングの扉が開く。
「ん?今誰かと話していたか?」
洗濯物を取り込んで戻って来た由羅が、ちょっと不思議そうな顔をした。
「今?あ~、莉玖と話してたけど?莉玖は自分が作ったサンタさんが一番お気に入りだよな~って」
「あぁ、そうだな。上手に作れているからな」
サンタを振り回している莉玖を見て、由羅が納得した。
「あ、洗濯物はオレがたたむよ。お疲れ。ありがとな」
「たたむのも私がしておく。綾乃は晩飯の支度があるだろう?」
由羅がチラッと時計を見た。
いつもならもう晩飯を作り始めている時間だ。
でも……
「あ~えっと……うん、由羅さん。わかってると思うけど、今日の晩飯は……昨日と全く同じものになります!!」
「……ん?あぁ、そうか。そうだったな」
昨日のことを思い出したのか、由羅が苦笑いをした。
「下手をすれば明日もまだ残ります!!あ、莉玖の分だけちょっと別に用意しないとだな。莉玖~、ご飯作るから、その間だけパパといてくれるか~?」
「やぁああああああ!!」
「おおぅ……」
「莉玖、ご飯作ってる間だけだから、パパで我慢してくれ」
「パッパやああああああのおおおおお!!」
莉玖は、由羅に抱っこされると、両手両足を振り回して全力でもがいて泣き叫んだ。
こりゃ本格的にパパイヤ期か~?
まだちょっと早い気がするんだけどなぁ~……
「莉玖っ!」
「あ~いいよ、由羅。オレがおんぶして作るし」
いくらご近所には聞こえないと言っても、あんなに泣き叫ばれるとちょっとな~……
「だが……」
「大丈夫だ。おんぶして作るのは慣れてるしな」
話しながらオレはおんぶ紐を取り出して、手早く莉玖を背負った。
オレが背負ってちょっと身体を揺すると、莉玖はすぐに泣き止んだ。
「すまない……」
由羅が肩を落として、ため息を吐きながら洗濯物をたたみ始めた。
「謝るなよ。由羅が悪いわけじゃねぇから。こういう時期なんだよ!」
「そういえば、さっきも言っていたな。パパイヤ?とか……」
だから、その発音はフルーツの方なんだって……まぁいいけどさ。
「うん、まぁパパイヤ期はある意味最初の反抗期みたいな感じかな~……」
「そうなのか?イヤイヤ期みたいなものか?」
「そうそう。まぁ、イヤイヤ期は2~3歳あたりかな。パパイヤ期はもうちょっと範囲が広くて……あ、イヤとは言うけど、別にパパが嫌いってわけじゃねぇからな――……」
オレは必死にパパイヤ期について説明をし、由羅のフォローをしつつ晩飯の用意をした。
パパイヤ期も大事な子どもの成長のひとつなんだけどさ……
父子家庭でもパパイヤ期ってあるのか!?
っつーか、もしかして、莉玖にとってはオレがママ代わりみたいになってるせいで、パパイヤ期が来たんだとしたら……うわ……なんだかマジで由羅に申し訳ない……
どうかなるべく早くパパイヤ期が終わりますように!!
***
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