75 / 358
譲歩 第75話
クリスマスの翌日からは、由羅はオレのせいで休んでいた間の埋め合わせをするように毎日のように朝早く家を出て、夜は忘年会やパーティーに出席して……と、忙しそうだった。
一方、パパイヤ期に突入した莉玖は、オレがトイレに行ったり、ちょっと片付けをしていて姿が隠れたりすると、「あ~の~!!」と泣きながらオレの姿を探すいわゆる“後追い”も激しくなってきた。
莉玖はつかまり立ちでの移動が上手に出来るようになってきたので、後追いもそろそろ出て来るだろうと思っていたため、これに関しては別に驚くことはなかったが……
問題は、やっぱりパパイヤの方だ。
以前から夜はオレが寝かしつけないとぐずっていたが、朝は由羅が莉玖の支度をしてリビングに連れて来ていた。
だが、クリスマス以降、起きた瞬間オレが近くにいないのがわかると「あ~のぉ~~!」の声が響き渡るようになった。
由羅はそれでも一応、「朝は私がみるから綾乃はゆっくりしていろ」と言ってくれたが……
「あ~の~!!」と、オレの名前を呼びながら泣き叫ぶ声を無視してゆっくりなんてできるか~!!
「じゃあ、綾乃もここで眠ればいい」
「え?別にオレが朝早めにこっちに来れば……」
「莉玖はその日によって起きる時間が違う。早ければ4時頃に目を覚ますこともあるぞ?」
「あ~……そっか……」
さすがに、莉玖がいつ起きるかわからないのに毎朝4時に起きて様子を見にくるのはキツイ……
「莉玖は綾乃の姿が目に入っていれば、とりあえず起きてしばらくは落ち着いてベッドでゴロゴロしていてくれるんだから、それならここで一緒に寝ていた方が綾乃もラクだろう?」
「そりゃまぁ……」
というわけで、莉玖のパパイヤ期が終わるまでオレは由羅のベッドで一緒に寝ることになった。
こら莉奈!ニヤニヤしながらこっちを見るなっ!!
これは仕方なくだからな!?莉玖のために譲歩しただけで、他には何もないからな!?
***
「綾乃、今日はいつもより遅くなる。先に寝ていてくれ」
「今日が仕事納めだっけ?」
「あぁ。それに仕事の後に……本社の忘年会がある」
「そっか」
ほとんどの企業は28日が仕事納めだが、由羅のところは海外支社との兼ね合いもあってか仕事納めは30日になっているらしい。
その代わり、正月休みはだいたい10日間あるらしいので、休みの日数的には他の企業とあまり変わらない。
むしろ休みが少しズレているせいで、海外旅行がしやすいと好評なのだとか。
「よ~し、莉玖今日はこの服着ようか!」
「あ~い!」
「はぁ~~……」
オレが莉玖のオムツを替えて服を着せていると、背後から深いため息が聞こえた。
チラッと見ると、いつも淡々としている由羅が、今朝は険しい顔で仕事の用意をしていた。
なにか厄介な仕事でもあんのかな……仕事納めだから忙しいとか?
それか忘年会がイヤなのか?
ここのところ、飲み会続きで帰りも遅かったしな~……そうだ!
「由羅、明日から正月休みだろ?」
「ん?あぁ、そうだが?」
「休みの間は由羅の食いたいもの作ってやっから、とりあえず今日一日乗り切れ!」
「……そうか、それは楽しみだな」
一瞬驚いた顔をしていた由羅が、ふっと相好を崩した。
そんなに喜ぶとは……さてはこいつ……飲み屋の食い物に飽きてきてるな!?
クリスマスからずっと胃にくる重たい料理ばっかりだったし、飲み屋の食い物って揚げ物が多いしな~。
正月休みの間は和食にすっかな!
オレは年末年始のメニューと、今日の買い物リストを頭の中に思い浮かべながら朝食の用意をした。
***
ともだちにシェアしよう!