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大晦日 第77話
「由羅~、今日何食いたい?」
「ん?」
「一応、大晦日だから蕎麦はするけど……あ、莉玖はおうどん食おうな~!うどんうど~ん!」
「ど~!ど~!」
オレはベビーサークルの中で莉玖の相手をしながら、窓掃除をしてくれている由羅に話しかけた。
***
――酔っ払ってオレに散々絡んで来たウザ由羅は、翌日には二日酔いの様子もなく、むしろ昨日の朝よりも元気になっていた。
そんな由羅は、莉玖がパパイヤ期で近寄らせてくれないため、オレの代わりに洗濯物を干したり、窓掃除をしたりしてくれている。
助かるっちゃ助かるけど……それ、オレの仕事なんすけどね……
まぁ、由羅の気がまぎれるなら別にいいか!
本当は大掃除したいところは他にもあったのだが、莉玖がこの調子では莉玖を由羅に預けてその間に……ということが出来ない。
オレがおんぶして掃除しようとしていると、「普段から掃除してくれているしそんなに汚れてないから無理に大掃除しなくてもいいだろう」と由羅に言われ、とりあえず今日は由羅が出来るところを掃除するということになったのだ。
「う~ん……和食がいいな……」
「やっぱりな」
「……なんだ?」
「いや、最近胃がもたれるようなものばかり食ってただろ?だから、そろそろ和食って言い出すかな~と思ってたんだけど、やっぱり当たった!」
「そうか、スゴイな」
得意気なオレを見て、由羅が口の端を少し持ち上げ、フッと鼻で笑った。
「あ!今おまえバカにしただろ!?」
「バカにはしてない」
「じゃあなんだよ?」
「……言うと綾乃が怒るからやめておく」
由羅がオレの視線から逃れるように、窓の上の方を拭き始めた。
おい、そこさっきも拭いてたぞ?
「オレが怒るようなことって、やっぱバカにしてんじゃんか!」
「してない」
「じゃあ、なんだよ?」
「……可愛いなと思っただけだ」
由羅が軽くため息を吐きつつ窓ふきの手を止め、オレの顔を見ながらボソリと呟いた。
はあ!?それをバカにしてるって言うんだよっ!!
「あっそ!ふんっ!あ~あ、もう由羅に飯のリクエスト聞いてやるの止めようかな~……なぁ莉玖~?」
「別に私は綾乃が作るものなら何でもいいぞ?」
え~……
ったく、せっかく好きなもん作ってやるっつってんのに!
まぁ、正月休みは長いし、今日は適当に作るか!
ん?正月休み……って、そういえば……
「そういや……正月休みって由羅はどうするんだ?」
「どうするとは?」
「喪中だから、正月らしいことはしないだろうけど、一応親戚の集まりとか、友達と会うとか、初詣とか?なんか出かける予定とかあんのかなって……」
由羅家は、莉奈が亡くなっているので、今年は喪中ということで正月らしいことは出来ない。
ずっと視えているどころか、普通に会話もしているのでオレ的にはあまり莉奈が亡くなっているという気がしないが……
でも、いくら視えていても亡くなっているのは紛れもない現実だ。
オレは毎日莉奈本人と一緒に、莉奈の仏壇に線香をあげて、莉玖と手を合わせているのだから……
「私たちには予定はないぞ?親戚連中への顔見せも昨日の忘年会でしてあるし、喪中だから新年の挨拶も行かないと伝えてある」
「そうなのか」
「綾乃は予定があるのか?」
「え?予定はねぇよ?だいたい正月はいつも寝正月だしな」
「なら……どこか旅行でも行くか?」
「はい?」
今、旅行っつった?
「あ~……でも三が日は人が多いし今からだと宿はもう埋まっているだろうから、三が日過ぎてからだな」
「えっと、あの、それってオレも行くのか?」
「当たり前だろう?」
なんで当たり前なんだよっ!!
そりゃ、ついこの間そんな話してたけど……え、あれって冗談じゃなかったのか!?
「オレは行かねぇぞ!?」
「なぜだ?」
「だって、オレ、旅行に行けるほど金に余裕ねぇし!!」
「私が払うんだから問題ないだろう?」
「え、なんでお前が払うんだよ!?」
行くなら自分の分は自分で払うべきだろう?
「考えてもみろ……私と莉玖だけでどうやって旅行しろと?今の莉玖はパパイヤ期だぞ?ぐずる莉玖を私が連れていて誘拐犯に間違えられたらどうするんだ!?」
「ぶはっ!……あ~……いや、さすがにそれはないと思うけど……」
由羅が真剣な顔で言っているのが面白くて、思わず吹き出してしまった。
「笑い事じゃない!私にしてみれば切実なんだ!」
「はいはい、そうだな!」
というか、たぶん、オレがいなくても何とかなると思うんだけどな……
オレがいるから、パパより綾乃がいい!ってなってるだけで、パパしかいなけりゃ莉玖もそんなにぐずらないとは思うけど……でもまぁ、パパイヤ期じゃなかったとしても、旅行となるとまだ由羅だけで莉玖を連れて行くのは大変だよな。
「私の都合なんだから、綾乃の分は私が出す。なんなら、と……」
「あ~もう、わかったよ!そういうことなら一緒に行くよ!」
このままだと由羅が特別手当も出すとか言い出しかねない雰囲気だったので、慌てて承諾した。
旅行か~……修学旅行以来だな~……
「綾乃、行きたいところ考えておけ」
「あ、うん」
ん?行きたいところっていうのは、場所?それとも、ホテル?
旅行ってどこから考えるんだ!?
あまりに旅行のスキルがなさすぎて、とりあえず『旅行とは』で検索をかけたオレを、莉奈が呆れ顔で眺めていた。
***
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