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大晦日 第78話
晩飯の後、食器を洗いながらオレはチラチラと由羅の様子を窺っていた。
普段なら、莉玖を寝かしつけたあとは由羅の部屋で日誌を書いたり制作の用意をしているが、何と言っても今日は大晦日だ!
年末のお笑い特番が観たい!!
「あの……由羅、莉玖を寝かしつけたらさ……オレちょっと部屋に戻ってもいい?」
「ん?なにかあるのか?」
「いや、なにかっつーか……その……年末だから……お笑い特番が観たいな~って……」
「あぁ……だったら、私の部屋で観ればいい。音は小さめにすれば莉玖も起きないだろうし」
「でも、お前はお前で観たいテレビあるんじゃねぇの?」
だって、年末はいろいろ特番があるだろ?
「私はとくに観たいものはないから何でもいい」
そういえば、あまり由羅がテレビを観ているところを見たことねぇな。
オレもそんなに観る方じゃねぇけど……
以前から、職業柄、幼児向けの教育番組や、流行りの戦隊シリーズとか子どもに人気のアニメとかは一通りチェックしていたが、それ以外のテレビ番組はあまり観ていなかった。
由羅家に来てからは、莉玖と一緒に幼児向けの教育番組を観るくらいで、部屋ではどちらかと言うとゲームをしたりネットで動画を観たりすることの方が多い。
でも、お笑いは好きなので、毎年、年末のお笑い特番は楽しみにしていたのだ。
「だったら、莉玖は部屋で寝かせてくるから、お前が風呂からあがったら代わってくれれば……」
「私が一緒にいると邪魔か?」
「うん。あ、いや、うん」
「おい、重ねて言うな!さすがに傷つくぞ」
由羅がちょっと顔をしかめる。
「ごめんって!冗談だよっ!」
あ~もう面倒くせぇっ!!いちいち不貞腐れるなっつーの!
「別に一緒に観てもいいけど、観たくもねぇのに観ても楽しくねぇだろ?」
「そうでもない」
「ふ~ん?まぁいいか。そんじゃ莉玖を風呂に入れて来る」
「あぁ、莉玖の服出しておこうか?」
「ん?いや、用意してから入……あ~うん、そうだな。んじゃ用意しといてくれ」
風呂に入る前に用意しておけばいいだけなのだが、まぁ、由羅がしたいっつーならしてもらった方がいいかな。
「莉玖~、シャワーするぞ~。お目目つぶって~!」
「ぶぅ~!」
「お、うまいな~。はい、お顔プルプルして?ぷるぷる~!上手だな~」
「ど~じゅ~!」
莉玖はいつの間にかシャワーにも慣れて、顔にお湯がかかっても泣かなくなった。
髪を洗う時には、泡が入らないように自分の両手で顔を隠し、プルプルしてと言うと、顔を上下左右に動かし、手の平にゴシゴシして水分を飛ばす。
普通は手の方を動かすんだけどな……まぁ、これはこれで可愛いからそのうちに自分で気づくまでそっとしておこう。
それよりも……パパイヤ期の対処法……どんなのがあったっけなぁ~……
そもそも、パパイヤ期もイヤイヤ期も個人差があるからこれが正解ってのはねぇしな~……
「よし、出るか。由羅~!バスタオル~!」
脱衣所に由羅の影が映ったので、浴室の扉を開けて莉玖を渡す。
「莉玖、おいで」
「パッパ~」
「拭くだけだから、パパで我慢してくれ」
最初は機嫌よくバスタオルに包まれていた莉玖だったが、オレが浴室の扉を閉めたことに気がつくと……
「パッパ、やああああよおおおおおお!!あぁああのぉおおお!?」
「え~~っ!?今っ!?あ、莉玖、待ちなさい!身体拭かないと風邪引くだろう!?そっちには綾乃はいないぞ!?」
「莉玖~!綾乃はここにいるから、パパにちゃんと拭いてもらえ!」
莉玖を由羅に渡してシャンプーをしたところで莉玖の声が聞こえたので、オレは全身泡だらけのまままた浴室の扉を開けた。
「ほら、莉玖!綾乃はこっち!ちゃんといるだろう?服着るぞ」
「あ~の!」
「は~い。ほら、莉玖、ちゃんと足入れて服着ないと風邪引いちゃうぞ~?」
「綾乃もちゃんと泡流せよ」
「今流したらお前が濡れるだろ」
「私にかからないように流せばいい」
「は?」
「あ~もう、シャワー 貸せ!」
「え、ちょ……ぅぶっ」
莉玖に服を着せ終わった由羅がシャワーを奪うと、オレの頭からシャワーをかけてきた。
「おま、莉玖はっ!?」
「そこで座ってお茶を飲んでいる」
由羅は莉玖のためにマグにお茶を入れて持って来ていたらしい。
用意がいいな。
「由羅、服濡れるぞ?」
「どうせすぐ脱ぐから構わん。ほら、もういいぞ」
「ふぇ~い」
だから、なんでオレが由羅にしてもらってるんだよ……
いくらパパイヤ期で莉玖を風呂に入れられないからって、由羅がオレの世話を焼くわけがわからん。
謎過ぎる……
「あ~の!ど~じゅね~!」
「ん?アハハ……ありがと!」
由羅にシャワーをかけられているオレを見て、莉玖が手をパチパチして褒めてくれた。
あぁ、そうか。
莉玖には、このやり方でやってみるのもいいかもな!
***
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