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大晦日 第79話
風呂から上がったオレは、由羅と交替して莉玖とリビングに行くと、ソファーに座って莉玖の頭を乾かした。
「――なぁ、莉玖。お風呂はパパと入ってやらないか?パパと入るの好きだっただろ?」
「パッパやっ!」
「パパは嫌なのか~?」
「い~やっ!」
「綾乃は?」
「あ~の!」
「ハハハ……」
莉玖がニコニコしながら抱きついてくれるのは嬉しいが、オレはちょっと複雑ぅ~……
子どもに好かれるのは保育士冥利に尽きる。
……が、親よりも好きになられてしまうのはちょっと困る。
だって、オレはどんなに好かれても、親にはなれない。
所詮は、他人だからな……うん……このままだとダメだ。
ちょっとやり方変えねぇとな……
「ん~~……可愛いっ!綾乃も莉玖のこと大好きだぞ!でもさ、綾乃はパパのことも好きなんだよな~。だから、莉玖がパパイヤ~って言うのは、ちょっと淋しいな。莉玖も本当はパパのこと好きだろ?」
莉玖に頬をスリスリしながら、話しかけていると……
「それは初耳だな」
「ぅえっ!?由羅っ!!いつの間に……!」
急に背後から声がしたので思わず手に持っていたドライヤーを放り投げた。
由羅が器用にそれをキャッチする。
「おい、ドライヤーが壊れるぞ」
「ご、ごめん!って、お前が驚かすからだろっ!!」
「別に驚かせたつもりはないぞ?普通に風呂からあがってきただけだ」
「……どこから聞いてたんだよっ!!」
気まずくてちょっと怒り気味に聞いた。
「……パパはイヤで、綾乃がいいってあたりだな」
「あ……そぅですか……あの、莉玖が寝たらちゃんと説明するけど、これはパパイヤ期の対策の一つでだな!?さっきの言葉に深い意味はねぇからっ!!」
「さっきの言葉?どの言葉だ?」
「あ~……えっと……その……」
こいつの前で口に出すのイヤだああああああああ!!!
由羅には、クリスマスに「好きだ」と言われた。
だけど、別に付き合いたいわけじゃないとも言われたし、態度的にはどっちかと言うとオレのことは嫌っているようにしか見えない。
由羅的には嫌っているわけじゃなくて心配してくれているだけらしいが、由羅の本心はよくわからない。
そもそも……オレは彼女がいたことねぇから、恋愛的な意味での「好き」がどういうものかもよくわかんねぇし……
だから、ずっとその話題は避けてきたのだ。
でも、これは莉玖のためっ!!
「んん゛、えっと……パパのことも好きってとこ……」
「ちなみに、そのパパって誰だ?」
「お前しかいねぇだろうがっ!!」
「そうか」
由羅がにっこり笑った。
お前、絶対わかってたよなっ!?
ちょっと眉間に皺を寄せたオレを横目に、機嫌良く隣に座った由羅は、フッと父親の顔をして莉玖の頭を撫でた。
「莉玖、パパも莉玖と綾乃のことが大好きだぞ」
「いいいいいいいい言わなくていいからっ!!!いや、言ってもいいけどオレの前で言うなっっっ!!」
「息子に好きだと伝えて何が悪い?」
「それはいいけど!!いくらでも言ってくれていいけどっ!!オレを入れるなっ!」
「なぜだ?」
「全身むず痒くなるから!!」
「綾乃、莉玖が驚いているぞ?」
莉玖がキョトンとした顔でオレと由羅のやり取りを見ていた。
「あ、ごめんな莉玖!急に大きな声出しちゃったからびっくりしたよな」
あ~もう!そうだよな……莉玖の前でこうやって言い合いするからダメなんだよな……
「いや、あの、だから……違うぞ、莉玖。ホントに綾乃はパパのことも好きだぞ!?これは別にケンカしてるわけじゃないからな!」
「そうだな、ケンカではないな。ただちょっと綾乃が照れているだけだ」
「うん、もういいから由羅はちょっと黙ってっ!」
オレは笑顔のまま頬を引きつらせて由羅の両頬をムニッと掴んだ。
それを見た莉玖がキャッキャッ!と喜び、莉玖も由羅の顔を掴もうと手を伸ばす。
由羅は、莉玖に目を突かれないように避 けながらも、莉玖から寄って来てくれるのが嬉しかったのか表情は柔らかかった。
とりあえず……結果オーライ……かな?
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