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大晦日 第80話
「――つまり、私たちが仲良くしていれば、莉玖も私を嫌がらないと?」
莉玖が寝た後、オレは由羅に先ほどの突然の「パパ好き」発言の理由を話した。
「いや、かもしれないってだけだぞ?」
パパイヤ期のはっきりとした原因はわからない。
個人差が大きく、パパイヤになる時期も期間も違うからだ。
莉玖の場合は、由羅が引き取ってからしばらくはほとんど由羅がひとりで面倒をみていたし、オレが来てからも休日は二人っきりで過ごしていたし、普段も帰宅してからは由羅がみてくれていたので、莉玖も由羅に懐いていた。
そんな莉玖の中で変化があったとすれば、ちょうど莉玖に自我が芽生えて来た頃に由羅が一週間の海外出張に行ってしまったことや、仕事が忙しくなって帰りが遅くなる日が続いたことで、あまり一緒にいる時間が取れなくなったこと。
そこにオレが風邪を引いてしばらく杏里の家に預けられてしまったので、莉玖にしてみればほぼ母親代わりのオレと離れたくない!=パパより綾乃がいい!になってしまった可能性はある。
あとは、オレが由羅と話す時にどうしても言い合いのような感じになってしまうので、それも影響しているのかもしれない。
だから……
「なるべく莉玖の前で言い合いをしないように気を付ける。で、オレは莉玖と同じくらいパパのことが好きだって伝えてたら、ちょっとはお前のイメージも回復するかなって……」
「ちょっと待て。私のイメージはそんなに悪いのか?」
由羅がちょっとショックを受けたように顔を軽く撫でた。
「う~ん、オレらが言い合いしてたら、莉玖にしてみれば、パパはぼくの大好きな綾乃をいじめてる悪い奴!って感じになってるかもしれねぇだろ?別にオレらは本気でケンカしてるわけじゃないけど、莉玖にはそう見えてるかもしれないってことで……」
そもそも、子どもの前で言い合いをするなんて保育士としては最低だ。
オレも気を付けてはいたんだけど……ただ、由羅と話してるといつの間にか言い合いっぽくなっちゃうんだよな~……
「だから、これからオレは事あるごとに莉玖には“オレはパパのことも好き”って伝えるし、お前のことをいろいろ褒めたり、仲良しアピールしたりするけど、それは莉玖のためであって、別に深い意味はねぇから!!」
「なるほど。わかった」
「……ホントに?」
あまりにもあっさりと納得した由羅に、一抹の不安が過ぎった。
「あぁ。これからは仲良くしていくと言うことだな。楽しみだなぁ綾乃?」
由羅がやけに嬉しそうにオレを見た。
ほらあああああ!!わかってねぇじゃんかあああああ!!
「いや、だからそれはただのフェイクであって……」
「綾乃?子どもは人の内面を見ると言ったのはお前だぞ?見せかけの仲良しなんてすぐに見破られてしまうぞ?」
「ぅ……」
たしかに……子どもは敏感に雰囲気を感じ取るので、その場限りの誤魔化しなんて結局バレてしまう。
「普段から仲良くしていないと雰囲気でわかるだろう?」
「そうだけど……」
「綾乃は私と仲良くするのはイヤなのか?」
「イヤってわけじゃねぇけど……だって、お前しょっちゅう変なこと言ってオレのことからかってくるし、バカにするし……」
「からかうことはあるが、バカにしているつもりはないぞ?」
無意識なら余計に質悪いわっ!!
「でもまぁ、由羅と言い合いすんのは何だかんだでストレス発散になるから楽しいんだけどさ。莉玖の前ではなるべく気を付ける」
「そうか。私も綾乃を怒らせないようになるべく気を付けよう。ところで、綾乃が観たいと言っていた番組、もう始まっているぞ?」
「え!?あっ忘れてた!!リモコンリモコン!!」
「ほら」
「あんがと!」
ひとまず由羅も合意してくれたので、話を終了してオレは急いでテレビをつけると、楽しみにしていたお笑い特番を観ることに集中した。
***
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