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大晦日 第81話

「……由羅、オレやっぱり部屋で観て来る」  CMに入ったタイミングで、オレはテレビを消して由羅にリモコンを渡した。 「待て、どうした?」  ベッドからおりようとするオレの手を由羅が慌てて掴む。 「だって、お前観てねぇじゃんか。何か仕事してるみたいだし邪魔だろ?」  由羅は先ほどからテレビは一切観ずにタブレットを弄っていた。 「あぁ、いや、観てはいないが聞いてはいたぞ?それにこれは仕事じゃない。ほら」 「ん?……なんだこれ?」  由羅が見せて来た画面には、近隣の観光スポットの紹介をしているページが出ていた。 「行きたいところを考えておけと言ったが、お前のことだから行き先を決められずにそのまま放置しそうな気がしてな、とりあえず近隣で幼児を連れて行けそうなところを調べていた」  あら、バレてる。  だって旅行ってよくわかんねぇし……   「どこか気になるところはあるか?」  由羅はオレにタブレットを渡すと、隣に座り直そうとしたオレを自分の前に座らせた。  ん?あぁ、後ろからの方が画面が見やすいからか?  あまり深く考えずに由羅にもたれてタブレットを弄る。 「ん~……ちょっと待って……」  正直……全部気になる。  あんまり観光とかしたことねぇし、学生時代も地元から出ることってほとんどなかったし……  あ、でも、今の時季だから…… 「こことか?」 「どれだ?……お寺?……渋いな……」  由羅が何とも言えない微妙な顔をした。  え、ダメなのか?  神社とかお寺とか結構好きなんだけどな……っていうか、観光スポットに入ってるくらいだからみんな行ってるんじゃねぇの?……それに…… 「だ、だって、喪中でも、お寺なら初詣行けるだろ?」 「あぁ、初詣か。そうだな。他には?」 「他~?」  そう言われても……遊園地とかは莉玖がまだ無理だし……  あ! 「由羅っ!動物園!」 「動物園って、小さい子どもを連れて行っても大丈夫なのか?」 「え、ダメ?」 「いや、動物の毛でアレルギーとか……」 「あ~、莉玖は今のところアレルギーないから大丈夫だろ。それに、小さい頃から動物と触れ合う方がアレルギーとか喘息とか発症しにくいっていう説もあるぞ?まぁ動物園に行った程度じゃあんまり効果ないだろうけどな。でも、保育園の遠足でも動物園はよく行くし、動物園とか水族館とかは子どもの五感に刺激を与えてくれるからいいんだぞ!」  前の職場では、年に二回ある親子遠足は、もう行き先がほとんど決まっていた。  春は動物園、秋はアスレチックなどで全身を使って遊べて、簡単な科学体験もできるような子ども向けの施設。  毎年行き先の希望は取るけれど、結局、0~1歳児も連れて行けて、4~5歳児もそれなりに楽しめる場所と言うのは限られてくるのだとか。 「そうか、それじゃ動物園に行ってみるか」 「うん」 「他には?」 「へ?」 「お寺と動物園だけか?」  え、十分じゃね?  行き先が決まってホッとしていたオレは、由羅の言葉にちょっと焦った。 「綾乃、それ二つとも日帰りで行けるぞ」 「え!?マジで!?」  場所を見ると、たしかに車なら近い。  そもそも、親子遠足で行っていたくらいなのだから日帰り出来る場所なのは当たり前だ。 「……もう日帰りでいいんじゃね?」 「せっかくの正月休みだぞ?」 「んなこと言われても……」 「……わかった、だったら……」  軽くため息を吐いた由羅が背後から手を回してきて、タブレットを操作する。  いや、自分の方に持って行けよ!! 「お前がじっとしていればこのままで大丈夫だが?」 「オレが窮屈なんだが!?」  っつーか、耳元で喋るなって!!息がかかる!! 「ちょっと我慢してろ。あ、ほら、こっちは?」 「ああ゛?」  タブレットには、先ほどの観光スポットよりも遠くにある動物園が出ていた。 「ここ?」 「ダメか?」 「別にダメじゃねぇけど、遠くね?」 「一泊すれば大丈夫な距離だ」 「そうまでして泊まりたいか?」 「今回の旅行は綾乃とホテルに泊まるのが目的だからな」  言い方!!お前、その言い方はいろいろアウトな気がするぞ!? 「……あ、そ……」  もうツッコむのが面倒なので軽く流す。 「ところで、綾乃」 「ん?」 「もうすぐ日付が変わるぞ?」 「……えっ!?あ、ちょ、カウントダウンしなきゃ!!」  由羅に言われて時計を見るともう直前だった。 「……10・9・8……」 「あれ?待って、お笑い特番は!?」  テレビを切った後、由羅と旅行の話になったので、そのままテレビをつけることなく話に夢中になってしまっていた。  っていうか、一体何時間話してたんだよ!?  騒ぐオレを横目に、由羅が時計を見ながらカウントダウンをしていく。 「ぅわあああああっ!見逃したぁああああああああああ!!!」 「……明けたな。今年もよろしくな」  そんなこんなで、オレの悲痛な叫びと共に年が明けた。 「ぅぅ……よろしくお願いしますぅ~……」  枕に突っ伏して涙交じりに呟く。 「こらこら、泣くな。録画してあるからまた今度観ればいい」 「え!?いつの間に!?」 「お前が観たいと言っていたから、お前が風呂に入っている間に予約しておいた」  なんですとっ!? 「由羅ぁああああ!!!今だけ大好きぃいいいいい!!」  オレは感極まって思わず由羅に抱きついた。  やったぁ~!さっきの続きが観たかったんだよ~!! 「今だけ、ねぇ……」  由羅が小さくため息を吐いて呟いた。 「じゃあ、お礼を貰おうか」 「はい?……んん!?――」    気がつくとベッドに押し倒されて、由羅の顔が目の前にあった。   「ちょ、待っ……んっ……~~~~っ!?――……」 ***    母さん……あなたの息子は新年早々、雇い主(男)にセカンドキスを奪われました……  でも心配しなくても大丈夫だぞ!  こんなのただの事故だからっ!  ノーカンノーカン!!  オレは今日も元気です!  あけおめ!!今年もよろしくな!!  ……って、こんなメール送れるかああああああ!!!  あ~もう……最低の年明けだよ……っ!! ***

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