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お前はちょっと反省しろ! 第82話
由羅家で迎える初めての元旦。
オレは絶賛寝不足だった。
新年早々、由羅にまた……また!!キスをされて……!?
混乱したオレは思いっきり由羅の腹に蹴りを入れて、自分の部屋に逃げて来たのだ。
一応ベッドには入ったが、眠れるわけがない!!
何なの!?ホントあいつ何なの!?
一回目はオレがキス待ち顔?してたからだとか言われたけど、昨日は……オレ目見開いてたぞ!?
全然キスなんて待ってませんでしたけど!?
***
『お~い、綾乃く~ん?まだ寝てるの?』
オレが頭から布団を被って閉じこもっていると、莉奈の声がした。
「寝てねぇよ……」
『あら、起きてるんじゃないの。あけおめ~!』
……お前があけおめ言っちゃうの?本人だからいいのか?
「あけおめ……」
『やぁね~、新年早々暗いわよ~!?何かあったの?』
よく言うよ!!お前……どうせ全部見てたんだろ!?
『あ、もしかして……兄にちゅ~されたから?』
「……わかってんなら聞くなっ!」
『やだわ、あんなの今更じゃないの~』
莉奈がアハハと笑った。
「は?」
布団から顔を出して莉奈を視る。
今更……?
『だって、もう何回も……あっ!……』
莉奈がしまった!という顔で口を押さえた。
「おい、莉奈?もう何回もって……なんだそれ?……オレ、由羅には昨日のが二回目で……え、もしかして違うのか!?」
『え?いや、うん、二回目だよね!ほら、前にもされたんだから今更じゃないのってことよ!』
慌てて取り繕うが、莉奈の目が泳ぎまくっている。
「莉奈?怒らねぇから言ってみな?じゃねぇとオレ、ここ出て行くぞ!?」
『え!?ダメダメダメ!!莉玖のベビーシッターは綾乃くんじゃなきゃダメよ!!』
「だったらちゃんと言え!」
『え~と……ほら、兄の帰宅が遅くて綾乃くんが先に寝ちゃってる時があるでしょ?そういう時に、よく兄が“ちゅっ!”って……』
「ふぇ?」
オレが寝てる時になんだって!?
え、でも……そういえば……
『あの、でもあれは別に……え、ちょっと綾乃くん?どこ行くの!?』
オレはのっそりと起き上がり部屋を出た。
由羅の部屋の扉を開けると、莉玖の泣き声と由羅の困り果てた声が聞こえて来た。
「莉玖~、綾乃がいいのはわかったから!せめてオムツは替えさせてくれ!きれいにしないと莉玖も気持ち悪いだろう!?」
「あぁああのぉぉおおお!!」
「だから、綾乃はまだ寝て……綾乃!」
由羅がオレに気付いて若干ホッとした顔をする。
オレはそんなのお構いなしに由羅に近付くと、由羅の顔を両手で挟んでぐいっと引き寄せ、軽く口唇を重ねた。
「っ!?」
そして、由羅から離れると、自分の口唇を指でなぞった。
「……ぅ~~~ん……」
「……え……と……綾乃?」
ハトが豆鉄砲を食ったような顔をしている由羅を横目に、オレは首を傾げた。
やっぱり……
「なぁ由羅?お前オレにキスすんの何回目だ?」
「は?」
「オレは昨日のが二回目だと思ってたんだけど……違うよな?」
昨日はテンパっててわからなかったが、改めてキスをしてみるとやっぱり……なんかこの感触覚えがあるぞ?
「お前が言うキスが今したようなのを言うなら……そうだな……数えきれないな」
「か、数えきれないっ!?」
「おやすみのキスならほぼ毎日しているが?」
「偉そうに言うなっ!!オレは知らねぇぞ!?」
「お前が寝ている時にしているからな」
「おまっ……~~~~~っ!!!」
平然と言い放つ由羅に、怒りを通り越してもう呆れというか諦めというか……よくわからない感情が渦巻いて言葉を失った。
「だいたい、以前も言ったと思うが、こんなの挨拶代わりだぞ?」
「オレは日本人なんだよっ!!」
「綾乃……キスって言うのは……」
「へ?ちょ、待て待てっ!」
ドンと壁に背中がついた。
オレが由羅を問い詰めていたはずが、実は由羅にジリジリと壁際に追いつめられていたことに気付いた時にはもう遅かった。
「由羅、違っ……んんっ!?……っ!」
ちっが~~~うっ!!オレはキスして欲しいわけじゃねぇんだよおおおおおおおおおおおおお!!!
由羅の胸を押しのけようとするのに、ビクともしない。
昨日はすぐに逃げられたのにっ!!
「……は……ぁっ……っ!?」
息が苦しくなって口を開けた瞬間、ぬるりと舌を絡め取られて身体がビクついた。
うっそ……舌入れて来た!?
なにこれ!?昨日と全然違うっ!
待っ……ぅわ……
由羅の舌、熱っ……――
気持ち悪くてイヤなはずなのに、思ったよりもイヤじゃない自分に戸惑う。
キスをしながら由羅が耳や首筋を撫でてくるのもなんだかくすぐったいっていうか……ぞくぞくして……身体が熱くなる。
わけがわからないまま気持ち良くなってきて由羅の胸を押す手から力が抜けた。
立っていられなくて身体がずり落ちていくオレに合わせて、由羅も徐々に身体を下げていく。
っつーか、お前にキスを止めるという選択肢はねぇのかよっ!!
いい加減、息が……っ……
「んん゛っ!~~~っ!苦しっ……ゲホッゲホッ!」
酸欠になりかけていたオレにようやく気付いた由羅が口を離した。
「大丈夫か?」
だいじょばねぇよっ!!
言い返したかったが、咳き込んでそれどころではなかった。
「落ち着いて深呼吸しろ」
「無茶言う……ゲホッ!……なっ!!」
「別に無茶は言っていないと思うが?」
「おまっ……ゲホゲホッ!……のせい……っ!!」
「あ~はいはい、私のせいだな。わかったから、落ち着くまで黙ってろ」
咳き込みながら喋るオレを由羅が抱き寄せた。
背中を擦ってくれる手が温かくて気持ちいい……
呼吸を整えたら由羅には言いたいことがたくさんあったのに、昨夜眠れなかったせいか由羅の心音とトントンするリズムが心地よくてそのまま寝落ちしてしまいそうになる。
「あ!綾乃、寝るな!せめて莉玖のオムツを替えるまで待って――……」
意識が遠くなる瞬間、由羅の焦った声と莉玖のぐずる声が聞こえた気がした。
莉玖……ごめん。オレの代わりにパパのこと思いっきり蹴っといてくれ……!
そんでもって、由羅はちょっと反省しろっ!!
***
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