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お前はちょっと反省しろ! 第83話

「あ~のぉ~!!」 「んぶっ!?」  顔面にいきなりボスッと重しが落ちてきて目が覚めた。 「あ、こら莉玖!お顔はダメだよ。綾乃が苦しいだろう?」 「……苦しいっつーか……鼻が痛い……」 「すまん、起こしたか?」  顔面に子どもが腹から降って来て起きないやつはいないだろ…… 「ん~……りぃ~くぅ~!顔に乗ってくんなよ~!綾乃鼻血ブーになっちゃうだろ~?」 「きゃぁっ!」  寝転んだまま由羅から莉玖を受け取って、膝に乗せて飛行機ごっこをしてやると、莉玖は笑いながら自分でうまくバランスを取っていた。 「そんなことが出来るのか」 「まぁな。由羅、今何時?」 「もうすぐ昼だな」 「マジか……莉玖の朝飯は?」 「食べさせた」 「大丈夫だった?」 「最初は泣いていたが、おにぎりを食べると泣き止んだ」 「そかそか。莉玖ぅ~パパとおにぎり食ったのか!えらいな~!」 「り~!んっま!」  莉玖はおにぎりが好きなので、毎朝おにぎりは必ず食べる。 「何味?」 「おかかとゆかり」 「お、すげぇじゃん。二種類も作ってくれたんだ?莉玖おいしかったか~?」 「最初のおかかは全部床の上だがな」  由羅が遠い目をしながら呟いた。   「あらら……莉玖~?床はご飯食べられないんだぞ?ちゃんと莉玖が食べないと~。ポイするくらいなら綾乃にくれよ~」 「まんまっ!」  パパイヤ期の莉玖が由羅(パパ)のおにぎりを半分でも食べてくれたなら上等だ。  莉玖に嫌われたわけじゃないとわかれば、由羅も少しは気が楽になるだろうしな。 「さてと……昼飯食べる人~!?」 「あ~い!」 「はい!」 「ぶはっ!なんで由羅まで手挙げてんだよ!」 「私も食べたいからだ。朝食は食いそびれたからな」  ぐずった莉玖がことごとく朝食を床に落としていったので、その後始末に追われて自分は食べる余裕がなかったらしい。  ははは、ザマァ!!! *** 「由羅、昼飯が食いたいなら、お前はオレに言うべきことがあるだろう?」  莉玖の前なので笑顔は崩さずに、由羅の脇に肘鉄を入れた。  由羅が脇を押さえて小さく呻きながら、首を傾げる。 「言うべきこと?」 「数時間前のこと忘れたとは言わせねぇぞ!?」 「……あぁ、キスしてくれるなら、せめてあれくらいはしてくれ。お前がしてきたのは子どもレベルだぞ。いくら慣れてないからってあれはない……」 「ちっが~~~うっ!!」  思わず由羅の頭を叩いた。  オレのキスの評価なんて聞いてねぇよっ!!  っつーか、あれくらいって……舌入れるかどうかってこと!? 「舌入れないやつはただの挨拶だって言うなら、お、お前はああいうの誰にでもすんのかよ!?」 「バカ言うな。するわけないだろう」 「じゃあなんでオレにするんだよ!?」 「好きだからに決まっているだろう?」 「ああ゛?」 「もう忘れたのか?私は綾乃が好きだと言ったはずだぞ?」  忘れてませんけどおお!?  でも、だってお前は…… 「別にオレと付き合いたいわけじゃないって言ってたじゃんか」 「言ったな」 「じゃあ、ああいう事すんなよ!!」 「それは無理だな」 「はあ!?」  ねぇもうこいつホント何考えてんの!?  好きだと言いながら、付き合いたいわけじゃないとか言うし、そのくせキスはしてくるし…… 「恋人にならなくてもいいと言ったのは、今はまだお前はベビーシッターとしてここに居てくれるから、無理に関係性を変える必要はないと思ったからだ」 「……はい?」 「だが、お前が恋人にこだわるなら、ちゃんと付き合うか?」 「オコトワリシマス!!」 「なぜだ?」 「オレにも相手を選ぶ権利はあんだよ!!」 「私では不満か?」  由羅が心外だと言う顔で見て来る。 「どこから来るの?その自信……」  むしろ、不満しかねぇよ!? 「何が不満だ?」 「全部!!」 「全部じゃわからない。例えば?」 「え?えっと……急にキスしてくるのとか……」  詳しく聞かれると困るんだが!? 「急じゃなきゃいいのか?」 「そういう問題じゃねぇよ!!あ~もう!とりあえず、まずお前はオレに謝れ!」 「何について?」 「オレが寝てる間に勝手にキスしてたこととか!!」 「あぁ……悪かったな」 「……もうしてくんなよ!?」 「今度から一声かけてからするように気を付ける」  ……ん?……今度から? 「今度なんてねぇよ!もうしてくんなっつってんだよ!」 「綾乃?」 「なんだよっ!?」 「落ち着け。莉玖の前だぞ?」 「あ゛……」  またやっちまったああああああああ!!!!!  莉玖の前で言い合いしないって決めたのにぃいいいいい!!!!! 「ぅあ~~~……もうダメだぁ~……オレは保育士失格だぁ~~~……」 「あ~の~?」  ベッドに突っ伏して泣き崩れるオレの頭を、莉玖がよしよしと撫でて……いや、叩いてきた。 「こらこら、莉玖。ペチペチしない!お~い、綾乃、そんなに落ち込むな」  いや、誰のせいだと!?    言い返すとまた言い合い(と言うか一方的にオレがギャーギャー言ってるだけだけど……)になりそうだったので、グッと我慢した。  【オレの新年の目標:スルースキルを上げて由羅に怒鳴らない!!】 ***

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