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寝正月とは!? 第84話

 三が日、オレは正月休みの名目でストライキに入った。  と言っても、別に賃金を上げて欲しいわけでも、条件を改善して欲しいわけでもない。  改善して欲しいのは、由羅の態度だ!!  正月休みはいらねぇって言ってた奴は誰だよって?  オレですけど、なにかっ!?  オレは、クリスマスに風邪で休みまくったから、正月休みはいらないと由羅に言っていたのだ。  でも、新年早々に莉玖の前でやらかしてしまったせいで落ち込みまくったオレは、ちょっとひとりになって、いろいろと反省しつつ、保育士とはなんぞやと言うことを今一度考えてみたかった。  ……っつってんだよっっ!!このバカっ!! 「あ~の!てって!」  ベッドに寝転んだオレの腹の上に莉玖がよじ登って来た。 「ん~?手遊びするか~?」  枕を背中に挟んでちょっと起き上がり、莉玖と手遊びをする。 「楽しそうだな、莉玖」 「パッパ~!てって!」 「うん、上手だ。もう一回やってみせてくれ」  オレの隣で寝転び、莉玖が手遊びをしている様子を動画で録っているのは、莉玖の父親です。  あ、一応オレの雇い主です。  そして、“反省”や“人の話を聞く”という言葉を知らないセクハラ親父です!!  もぉ~!!オレは正月休みだっつってんのに、何で由羅と莉玖までオレの部屋にいるんだよっ!! 「仕方がないだろう?莉玖が綾乃に会いたいと言ってぐずるんだから」 「三日間くらいひとりで頑張るからゆっくり休め。とか言ってたのは誰だろうな~……」  オレは遠くを見ながら呟いた。  ハハハ、三日間どころか、一日だってひとりにさせてくれやしねぇっ!! 「だから、洗濯とお風呂は私がしているじゃないか。綾乃は料理以外は寝て過ごしているだろう?」  たしかに、洗濯と、莉玖をお風呂に入れるのはなんとか由羅が頑張ってしてくれている。  料理に関しては、三日間も由羅に任せていると莉玖の栄養状態が心配なのでやむを得ずオレが作っているが、それ以外はオレは自分の部屋のベッドに寝転がっている。  だから寝正月状態だと言われればそうだけど……  莉玖と由羅も一緒に寝転がってるから、全然ゆっくり出来ねぇよ!! 「そうですね、莉玖くんパパのおかげでとっても助かります~」  オレは作り笑顔で由羅に答えた。  新年の目標は、スルースキルを上げて、なるべく由羅に怒鳴らない!!  保育園に行っていた頃、モンペの相手をしていた時の自分の対応を思い出してみると、もっと冷静に、ていねいに対応していた。  どれだけ理不尽なことを言われても、ぐっと堪えて、笑顔で対応出来ていたあの頃を思い出せ!!  頑張るんだオレ!! 「綾乃、その喋り方気持ち悪いからやめてくれ」 「すみません、だったらパパは極力オレに話しかけないで下さいね」 「……いつもの喋り方に戻してくれ」 「いつもって何のことでしょう?」 「……わかった、そのままでいい。莉玖、オムツ替えに行こうか」  (かたく)ななオレの態度にため息を吐くと、由羅が莉玖を抱き上げた。 「あ~の!」 「綾乃はお休み中だから、パパが替えるぞ」 「パッパやあああ~!!あ~の!!」 「莉玖~、いってらっしゃ~い」  オレに手を伸ばして来る莉玖に笑顔で手を振る。    少しだけ遠ざかった莉玖の泣き声を聞きながら、オレはまたベッドに寝転んだ。  疲れる……由羅にあんな話し方をするのはオレも疲れる。  いつもの方が楽だ。  でも、いつもの話し方にすると、また言い合いみたいになっちまうし、怒鳴ってしまいそうになるから……  出来るだけ由羅とは会話をしない。  うん、それが一番いい……  あいつは何を言っても無駄だし……ツッコむのも疲れるし怒鳴るのも疲れるし、オレひとりだけギャーギャー言って、オレばっかりテンパってて……なんか虚しい…… 「あ~ぅのぉ~~!」 「……ぉぉぅ……」  息をつく暇もなく莉玖が帰って来て、突っ伏して寝転ぶオレの背中に涙と鼻水混じりの顔を、擦りつけてきた。  ぅお~~い!!由羅っ!!せめて莉玖の顔拭いてからベッドにおろしてくれよ!! 「あっ!莉玖、こら、綾乃の服が……」 「……背中が冷たい……」 「綾乃、そのまま起き上がって服脱げ。背中凄いことになってるぞ」  でしょうねぇ!?  のっそり起き上がると、パーカーを脱いだ。  あ、待って、オレこれ脱いだら服がない……  正月からあいにくの雨続きだ。  洗濯をしてくれている由羅には、莉玖と由羅の服を優先的に乾燥機に入れるように指示し、オレの服は暖房で乾かしてやろうと部屋干ししている。  だが、残念ながらまだ湿っている。  そしてオレは、冬物の上着はパーカー数枚しか持っていない。  まぁ、これでいいか……  とりあえず、長Tシャツを着た。 「パーカーはもうないのか?トレーナーも?それ一枚は寒いだろう?」 「ないです」 「……ちょっと待ってろ」  由羅はため息を吐くと、オレの部屋に干してあるパーカーを持って出て行き、別の服を持って帰って来た。 「お前の服は乾燥機に入れてきたから、乾くまで私の服を着ておけ」 「え、ちょっとの間くらいこれで大丈夫ですよ」 「……風邪引いたら旅行に行けないだろう?いいから着ろ!それとも私が着せようか?」 「いやいや、自分で着ます!!」  由羅がちょっとイラっとしながら服を手に取ったので、オレは慌てて服を奪って自分で頭を入れた。  由羅の服デカいな……  サイズが全然違うので、オレが着るとダボダボだ。  くそっ!!腕の長さが全然違うっ!!   「ちょっと待て」 「え?」 「袖はそのままにしとけ」 「え、(まく)っちゃダメってことか?あ……ですか?」  オレが袖を捲ろうとすると、由羅が止めて来た。  止められると思わなかったので、思わず素で返してしまった。 「ダメじゃないが……そのままの方がいい」  どういうこと?  こんなダボダボだと家事ができねぇじゃん。  まぁ、晩飯までには乾くかな。 「わかりました」  オレは結局、ダボダボの袖でしばらく過ごすことになった。 「ほら、莉玖~、オバケだぞ~」  長い袖をプラプラさせて莉玖に近寄ると、莉玖がキャッキャッと喜んだ。  ふむ、これはこれでなかなか面白い遊びができるな!! ***

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