85 / 358

Let's travel!! 第85話

 三が日が過ぎて、仕事始めの人たちが動き出す朝、オレたちも出かける準備をしていた。 「綾乃、残りの荷物はこれだけか?」 「ん~?うん、あとはオレらだけ~。お~、莉玖いっぱい出たな~!」  オレは莉玖のオムツを替えながら生返事をした。   ***  微妙な寝正月を過ごした三が日、オレの態度と話し方に耐えきれなくなった由羅が、昨日の就寝前にとうとう頭を下げて来た。 「綾乃が私のことが嫌いなのはわかったから、せめて莉玖の前では今まで通りにしてくれ。言い合いをしている時よりも、今のお前の態度の方が莉玖は戸惑ってるぞ?」 「……嫌い……ってわけじゃ……」  改めて由羅に言われると、ちょっとモヤッとする。  別に由羅のことが嫌いなわけじゃ……そりゃ急にキスしてきたり好きだとか言ってきたり……なんか本気なのか、からかってんのか、よくわかんなくて、そういうところはイラっとするけど…… 「わかった。それじゃあ……もう私からは極力触らない。綾乃に好きだとも言わないしキスもしない。これでいいか?」 「……え……あ、うん……」 「じゃあ、喋り方も今まで通りに戻してくれよ?」 「……わかった」  オレの望む結果になったはずなのに、なんだか……何なんだろう……  由羅が触れて来ないのは、それはそれでちょっと淋しいとか……  あ~もう!自分がどうしたいのかホントわかんねぇっ!!   ***  ともあれ、一晩寝て気持ちを切り替えたオレは、話し方と態度を戻した。  由羅はもうオレにセクハラしてこないって約束してくれたし、ってことは、言い合いをすることもないんだから、今日は旅行を楽しむだけだ。 「綾乃、莉玖の毛布は?」 「え、なかったか?莉玖のバッグの上に置いたはずなんだけど……」 「バッグの上?なかったぞ?」 「あっ!悪ぃ、こっちにあった!」  由羅に毛布を投げる。  由羅は毛布をキャッチすると、由羅とオレの着替えが入ったスーツケースを持って玄関を出た。  オレは一泊用にちょうどいいサイズのバッグを持っていないので、由羅に一緒に入れてもらったのだ。  まぁ、一泊なら着替えもそんなにいらないしな。  自分の荷物はめちゃくちゃ少ないのに、その反面、莉玖の荷物は、莉玖の分だけで大きめのバッグ一個と少し小さめのバッグ二個の計三個になった。  これでも減った方だ。  杏里の家にはよく出かけるので、莉玖のお出かけセットやお泊りセットを用意するのは慣れているのに、となると何だか不安で、着替えやオムツを余分に入れていくうちにすごい量になっていたのだ。 「綾乃、一体何泊するつもりなんだ?別に何泊しても私は構わないが、とりあえずは一泊の予定なんだが?」 「え、だって、何があるかわかんないし……」 「もし足りなくなったら現地で買えばいい。正月と違ってもう店は開いているし、無人島に行くわけじゃないんだぞ?」  呆れ顔の由羅に言われて、オレはちょっと口唇を尖らせた。  おっしゃる通りで……いや、オレだってこんなにもは必要ないだろうなと思うんだけどさ……  今回の目的地は、無人島ではなく、動物園とお寺だ。 「ほら、綾乃。どちらも、目的地自体は少し町から離れているが、車で走ればすぐ近くに大きなショッピングモールがあるから大丈夫だ」  あれこれ心配するオレのために、由羅が目的地の近くの店も調べてくれたので、オレは渋々荷物を三個に減らしたのだった。 ***  多少準備に手間取ったが無事に荷物を積み終え、オレは莉玖に上着を着せた。 「――よし、準備完了~!戸締りもオッケ~!莉玖、行こうか!」 「おー!」 『おー!』  オレはいつものように莉玖と莉奈と一緒に家中の戸締り確認、火元確認をして家を出た。   ***

ともだちにシェアしよう!