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Let's travel!! 第86話

「ぅわぁ~!ほら、莉玖!ぞうさんだぞ!!」 「おぉ~!」 「でっかいな~!」 「な~!」 「ほら、ぞうさんはお鼻でリンゴを持てるんだってさ!すげぇな~!」 「な~!」  三が日を過ぎてはいたものの、お寺は思っていたよりも人込みが凄かったので、初詣はさっさと済ませて動物園にやってきた。    保育園の遠足では、園内を歩き回り自分のクラスの子どもたちや保護者の様子を確認して困っていないか、ケガをしていないか、迷子になっていないか……と、常に気を配っていたので、ゆっくりと動物を見ることが出来なかった。  だから、ゆっくり動物を眺めるのは……自分が子どもの頃に遠足で来て以来だと思う。  ベビーカーと荷物を由羅に任せて、オレは莉玖と一緒に動物を見て回った。  たぶん……いや、間違いなく、オレは莉玖よりもはしゃいでいた。 「――え~と、次は……あっち行ってみるか!?」  道が分かれていたので園内マップを確認していると、背後で由羅のため息が聞こえた。 「綾乃、そんなに焦らなくても時間ならたっぷりあるから。ちょっと休憩しよう」 「え、あ……ごめん……莉玖、喉渇いたよな、ごめんな」  今日は朝からいい天気だった。  気温も真冬にしては高めで、上着を着ているとちょっと暑く感じるくらいだ。  あ、これはオレがテンション上がってるせいか?  でも、それならオレと同じくらいテンションが上がっている莉玖も、暑いはずだ。  そういえば動物園に入ってからまだ水分補給してなかったっけ!?  由羅に言われて慌てて立ち止まると、近くのベンチに腰かけた。 「謝らなくてもいい。それにどちらかと言うと、喉が渇いてるのはお前の方だろう?」 「オレ?オレは別に……」 「さっきから騒ぎっぱなしだからな。ちゃんと飲んでおけ」 「ぅ……そんなにうるさかったか?」  由羅からお茶を受け取り、ちょっと頭を掻いた。  一応声はおさえてるつもりなんだけどな……  同じくらいの子ども連れが多いので、あっちこっちで似たような反応が聞こえて来るが、その中でもオレのテンションは目立ったらしい。 「ごめん、気を付ける……」 「何をだ?」 「だから!……あんまりはしゃぎ過ぎないようにします……」  保育園ではそれが普通だったが、【保育園の先生】という肩書が外れると、ただのになってしまう……ということを忘れていた。 「綾乃……」  ちょっと俯いたオレの頭を撫でようと手を伸ばして来た由羅が、ピタリと手を止め引っ込めた。  あ……そういや由羅からはオレに触れないって約束したんだっけ……  なんだかんだで由羅に頭を撫でられるのは好きだったので、一瞬残念に思った自分がいた。  由羅は行き場のなくなった手を自分のうなじに持って行くと、小さく息を吐いた。  なんだか気まずい……何でこうなっちゃったんだっけ……?  あぁ……オレのせいか……  もぉ~!せっかく動物園に来たのになんでこんなしんみりしてんだよっ!  気持ちを切り替えようと息を吸い込んだ瞬間、小さな手が頬をぺちぺちと叩いて来た。 「え、な、なに!?」    オレは顔をあげて、困惑しながら由羅を見た。  由羅が莉玖の手を持って、オレの頬を叩いていたのだ。  えっと……由羅、何してんの?   「私は直接触れていないからセーフだろう?」 「おま……ぶはっ!なんだよそれ~っ……っははは」  由羅がドヤ顔で言ってきたのを見て、思わず吹き出してしまった。  そうだな、直接は触れてないよな!!  笑い転げるオレを見て、由羅がフッと笑った。 「お前はそうやって笑っていろ。お前が楽しそうだと莉玖も楽しそうだからな。はしゃぎ過ぎだなんて気にしなくてもいい。私があまりこういうことに共感してやれない分、お前が一緒に楽しんでやってくれ」 「……由羅は楽しくないのか?」 「お前たちを見てるのは楽しいぞ?」  どういう意味だ!?たしかに人間も動物だけども!? 「そか……まぁ、なるべく大きい声は出さないように気を付ける。迷惑になるし、動物もびっくりさせちゃうしな」 「別にそんなに大きな声を出していたとは思わないが……」  由羅がちょっと首を傾げる。  さっきオレが騒いでたって言ったのお前ですけど~!?   「あ~の!」 「ん?お、飲めたか?おやつ食うか?」 「あい!」 「ちゃんと持ってないと落としたら鳥に食われるぞ~?」 「あい!」  ちょっと茶化しながら莉玖に赤ちゃん用のお菓子を渡す。  おこぼれを狙ってか、園内のあちこちにハトがいた。  莉玖は、ハトになんかあげません!というように、ハトにガンを飛ばしながら、しっかりと自分のお菓子を握りしめて食べていた。  こらこら莉玖、ハトにケンカを売っちゃいけません! ***

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