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Let's travel!! 第87話

「莉玖が食べ終わったら、次の所に行くか!」 「次はどんな動物がいるんだ?」 「えっと……」  マップを広げて由羅と見ていると、ちょっと離れた場所で誰かを呼んでいる声が聞こえた。  こういう場所ではあちらこちらで親が我が子を呼ぶ声がするのが当たり前だ。  だから最初は気にしていなかったのだが、なんとなく気になって顔をあげた。 「綾乃、どうした?」 「ん~?……あのさぁ……由羅って英語出来るよな?」 「そりゃまぁ、一応は」 「あそこの夫婦らしき二人組、たぶん子ども探してるっぽい。話聞いてやってくれねぇ?迷子かも」 「え?」 「オレが行ってもいいんだけど、たぶん、日本人ではないと思う。オレ英語できねぇから……」  遠目なので顔ははっきり見えないが、仕草が日本人っぽくないし、なんとなくイントネーションが違う。 「あぁ、あれか。わかった、ちょっと行って来る」  由羅は二人に近付き二言三言話すと、二人を引き連れて戻って来た。  髪の色は日本人と似ているが、顔はやっぱり外国人っぽい。  っていうか……どこの国の人なんだろう? 「綾乃、やっぱり迷子らしい。インフォメーションの場所わかるか?」 「あ、それなら、え~と……」  オレは近くにいたスタッフに事情を話して二人と引き合わせた。  インフォメーションを探してウロウロするより、スタッフに任せるのが一番確実だ。  これで一件落着だな!  と、思ったが甘かった……  どうやらスタッフも夫婦も英語があまり得意ではないらしい。  双方にハテナマークが飛んでいるのを見かねて、結局由羅が通訳することになり、オレたちも一緒について行くことになった。  インフォメーションに着くと、中から子どもの泣き声とスタッフの困り果てた声が聞こえて来た。  子どもはちょうどつい先ほど連れて来られたばかりで、スタッフが名前を聞こうと話しかけると泣き出してしまったのだとか。  中に入った夫婦が子どもの名前を呼んで抱きしめると、安心したのか泣き声が更に大きくなった。  由羅が二人に話しかけ、スタッフに彼らの息子で間違いないらしいと説明する。  すぐに見つかって何よりだ。  夫婦がスタッフにカタコトの日本語で「アリガト~」とお礼を言って握手をし、由羅には抱きついて肩を叩きながら何やら話していた。 ***  インフォメーションを出たオレたちは、なぜか彼らと同じ方向に歩いていた。  由羅によると、どうやらお礼に何か奢らせてくれということらしい。  でも、奢ると言われてもな~……ここ動物園内だし……  自販機でジュースでも買ってもらうか?  っていうか…… 「なぁ、由羅……この人たちが喋ってるのって何語?」 「え?あぁ、スペイン語だ。彼らはメキシコから来たらしい」  2か月前にメキシコから仕事の都合で日本に来たばかりなのだとか。 「メキシコ!?っていうか、由羅って何か国語喋れんの?」 「仕事に必要なレベルなら日本語、英語、韓国語、中国語で、後は日常会話レベルならスペイン語、ポルトガル語、イタリア語だな……残念ながらスワヒリ語やタガログ語はまだだ」    まだってことは、勉強中ってこと!?  アメリカに出張に行ってたくらいだから、英語が喋れるのは知ってたけど……由羅って……   「すげぇな!!」 「そうか?まぁ、大抵は英語でどうにかなるから、あまり使わないがな」 「あんまり使ってねぇのに覚えてるのがスゴイ!!」 「そこか……」  由羅がフッと苦笑した。 「いや、話せること自体すごいけどな!?オレなんて、日本語さえ怪しいし……」 「そうだな」 「ぅお~い!!そこは嘘でも、そんなことないぞって言うのが優しさだろ!?」 「……そんなことないぞ?」 「遅いっ!!」  オレが手放しでスゴイスゴイと褒めまくるせいか、由羅の機嫌がいい。  気がつくとまた前のようにポンポン言い合っていた。  オレも楽しくてついつい調子に乗ってしまう。  オレと由羅の掛け合いを聞きながら、莉玖もぶんぶんと手を振ってご機嫌だった。  その様子を見ていた夫婦が、由羅に何やら話しかけてきた。 「なんだって?」 「ん?あぁ……二人は仲が良いんだな、と」 「オレたちが?」  傍からはそう見えるのか……  あ~……まぁ……険悪なムードよりこっちの方がいいよな、莉玖のためにも。 「あ、そういえば、名前は?」 「夫がリカルドで妻がマリアナ、子どもの方は夫の名前と同じだからリカルドジュニアだな」 「ジュニアか~。お父さんと同じ名前いいな!オレはアヤノだ!よろしくな、ジュニア!」  4歳になると言うジュニアは、身体の大きな父親に抱っこされてもう泣き止んでいた。  オレが笑いかけると、にっこり笑い返してくれて、握手をしてくれた。 「この子はリクって言うんだ。ほら、莉玖。お兄ちゃんにこんにちは~!して?」 「ん~たっ!」  莉玖がにっこり笑うと、マリアナがニコニコしながら莉玖に話しかけた。  うん、何言ってんのか全然わかんねぇ!!  英語だったらちょっとは……何となくわかるけど……スペイン語は「オラ!」と「グラシアス!」しか知らねぇ~!!  スペイン料理はわかるけど、メキシコはまた違うよなぁ~……メキシコ料理って何があったっけ?  え~と、タコスとか……あ、腹減って来た……  オレが現実逃避している間に、由羅がリカルドたちと話をして、自販機でミネラルウォーターとコーヒーを奢ってもらって別れた。  時間的には短かったが、なんだか……いろんな意味で濃厚な時間だったな~…… ***

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