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Let's travel!! 第89話
オレたちは昼過ぎまで動物園ではしゃぎまくった後、海沿いのホテルに入った。
オレは旅行慣れしていないので、今回の旅行先の詳細は由羅に任せてあった。
だから、今夜泊まるホテルも今初めて見たわけだが……
部屋に入るなりオレは茫然と立ち尽くした。
「え、ちょ……由羅……この部屋広すぎじゃね?……由羅?」
話しかけても返事がないので振り向くと、由羅は部屋まで案内してくれたホテルのスタッフと何やら話し込んでいた。
やだ~!オレ今独りでブツブツ言ってる人になってんじゃんか~!
恥ずっっ!!
っつーか、由羅とあのホテルの人、なんだかやけに親しそうだけど……知り合いなのかな……?
『やだ~!綾乃くんったら独り言~!』
莉奈が追い打ちをかけてきた。
まぁ、オレも莉奈が言いそうだなって思ったんだけどな。
それにしても、マジ何なんだこの部屋……
「どうしてそんなところで突っ立っているんだ?」
オレが間抜けな顔で室内を見渡していると由羅が戻って来て、何食わぬ顔でオレの横を通り過ぎようとしたので、慌てて由羅の腕を引っ張った。
「ちょ、由羅!この部屋なに!?」
ホテルというものは、扉を開けるとすぐにトイレとお風呂の扉が横にあって、その奥にベッドとちょっとした机があるくらいの広さ……って言うのが普通だと思っていたのだが……
なぜかこの部屋は、扉を開けるとどこかの家のリビングのような光景が見えたのだ。
なんでホテルの部屋の中にこんな立派なソファーセットがあるんだ?
「そうか?ホテルは大抵こんなものだろう?」
由羅は戸惑うオレに軽く眉を上げ、平然とした顔でソファーに荷物を置いた。
え、ちょ、由羅さん!?そんな高そうなソファーに……そんな無造作に……!?
「いや……だって、オレがこの間泊まった部屋は……」
うん、もうさすがにオレもこの部屋と比べるのはおかしいとわかってるよ!?
オレが風邪を引いた時に泊った部屋はベッドがあるだけのシンプルな部屋だった。
それでもオレにしてみれば、たった一泊の料金が高くて予約するのにめちゃくちゃ勇気がいったのに……
「この間……?あぁ、綾乃はあの時熱があったから記憶があやふやなんじゃないか?あの部屋もここと大差なかったぞ?」
「あ~……そっかぁ~……って、んなわけあるか~~い!さすがにそれくらいは覚えてるっつーの!!」
「そうか?」
由羅が笑いを噛み殺した顔でオレを見た。
熱で朦朧としていたとはいえ、こんな部屋に泊ってたら覚えてるし!っつーか、熱も吹っ飛ぶわっ!
……だいたい、この部屋って……いわゆる、スイートとか言うめちゃくちゃ高い部屋じゃねぇか!!
「予約をした時はスイートが埋まっていたから、デラックスにしたんだがな。チェックインした時にちょうどスイートにキャンセルが出たと言っていたので変更してもらった」
デラックスがどれくらいの広さか知らねぇけど、たぶん、きっと、オレが前に泊った部屋よりは広いはずだ。
「大人二人に子ども一人ならベッドが二つあれば十分だろ!何もこんな広い部屋じゃなくても……」
だって、ここ一体何人部屋なんだよ!?
たった三人でこの広さはおかしいだろっ!?
「綾乃、落ち着け。この部屋もベッドは二つだぞ?」
「え!?うそっ!?」
奥のベッドルームを覗くと、由羅のベッドみたいなバカでかいベッドが二つ並んでいた。
うん、たしかに二つだけれども……オレが思ってたのと違うっ!!
「それに私は普段から一人でもスイートを利用しているぞ?だから別に三人でもおかしくはない」
「いや、ちょっと待て……もっとおかしいだろっ!!お前普段は一人でこのクソ高くてだだっ広いスイートに泊まってんの!?一人ならシングルで十分じゃんか!」
「……まぁ、そうなんだが……昔から祖父に連れられて出かける時はスイートに泊まることが多かったから、そのクセで……」
「へぇ~……」
ちょっと奥さん聞いた!?この男、スイートに泊まるのがクセなんですってよ!
んまぁっ!私も一生に一回くらいはそんな風に言ってみたいものですわ!
オレが頭の中でどこかの奥さんと会話していると、由羅がオレの前で手を振った。
「え、な、なに?」
「そんなことより……そろそろ莉玖をベッドに寝かせてお前もゆっくりしろ。今日はずっと抱っこしていたから疲れただろう?」
「あ、うん。そうだな!」
動物園で興奮したせいでお昼寝が出来ていなかった莉玖は、オレがこの部屋に困惑して騒いでいる間に眠ってしまったらしい。
莉玖もだいぶ神経が図太くなったな~……まぁその方が助かるけど。
「……なぁ、由羅ぁ~!莉玖はどこに寝かせたらいいんだ?」
莉玖は普段ベビーベッドに寝かせているので、オレは思わずベビーベッドを探してキョロキョロしてしまった。
いやいや、こんなところにベビーベッドなんてあるわけないだろ!!
「あぁ、ベッドが広いから真ん中に寝かせておけば転げ落ちることはないんじゃないか?」
「そか」
「なんなら、ベビーベッドを用意してもらってもいいが……?」
「え、そんなの用意できるの!?すげぇな……あ~でも……う~ん……まぁ、この硬さなら大丈夫かな……一応窒息しないようにちょこちょこ見てやらないとだけど……」
オレはマットレスの硬さを確認してそっと莉玖をおろすと、大きく伸びをした。
「晩飯までにはまだ時間がある。ここは大浴場もあるから、行きたいなら先に行ってこい」
「マジで!?やった!ちょっと行って来る!!」
「綾乃、風呂では走るなよ?」
「子どもじゃねぇんだから、風呂のマナーくらいは知ってますぅ~!!」
オレは由羅に莉玖を任せて、ウキウキしながら大浴場に向かった。
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