91 / 358

Let's travel!! 第91話

「ほら、莉玖!大きいお風呂だぞ~!」 「お~!」  夕食は部屋に運んできてくれたので、莉玖も周りに気を取られることなく美味しそうに食べてくれた。  っていうか、三人で食べると、莉玖に食べさせているオレに由羅が食べさせてくる、謎の流れが定番になってしまったので、人前では食べられやしねぇ……(昼は動物園のお弁当スペースで食べたからあんまり目立たなかったから良かったけど)  そりゃまぁ、由羅が口に放り込んでくれるとオレも二人と同じスピードで食えるからいいんだけどさ……?  食後、ちょっと休憩してから大浴場に向かった。    莉玖は初めての大浴場だったので、脱衣所からビックリしてキョロキョロしていたが、かけ湯をしてもぐずることもなく、お湯にも気持ち良さそうに浸かっていた。 「気持ちいいな~!」 「あい!」 「莉玖、ちっちゃい泡いっぱいついたな~」 「お~……」  内風呂は熱めの湯と、ぬるま湯とがあったので、オレは莉玖とぬるま湯のシルキーバスに浸かっていた。  シルキーバスで小さな泡が身体にいっぱいつくのが不思議なのか、真剣に自分の腕をじっと見つめる莉玖に、周囲のおじさんたちからも笑いが起きて、何人もに「可愛いねぇ」と声をかけられ、莉玖もニコニコと愛想を振りまいていた。 「――じゃあ、オレ莉玖の身体洗ってくる」 「ん?あぁ。私も水を浴びたらすぐ行く」 「オレ一人で大丈夫だよ。ゆっくり入ってろ」  熱めの湯に浸かっている由羅に一声かけてから洗い場に行くと、洗面器やバスチェアの予備の横に、一つポツンと赤ちゃん用のバスチェアが置いてあった。 「お、用意してくれてる!さすが~!」  オレは先に入浴した際、女湯の方から莉玖と同じくらいの子を抱っこした人が出て来ていたのを見ていたので、部屋に戻る前にフロントに確認して、男湯の方にも赤ちゃん用のバスチェアを一つ置いておいて欲しいとお願いしてあったのだ。  莉玖を片腕に抱っこして、バスチェアに手を伸ばそうとしたオレの頭に誰かがポンと手を乗せて来た。 「由……え?」  だ、誰だ!?  てっきり由羅だと思ったのに、振り向くと全然知らない男が立っていたのでちょっと戸惑う。 「これ洗い場に持って行くんでしょ?赤ちゃん抱っこしながらは大変でしょ、手伝うよ?」 「え、あの……」  年齢的に……由羅と同じくらいか?っつーか、近ぇな……!?  初めて会うはずなのに、やけに距離が近い。   「ありがとうございます。気持ちだけで十分ですので」  オレが戸惑っていると、後ろから由羅が来て営業スマイルで男からバスチェアを奪い取った。 「由羅!」  オレがホッとした顔で由羅を呼んだのを見て、男がオレと由羅を交互に見た。 「ん?あぁ、なんだ。がいたのか。なら大丈夫だね。また何か困ったら気軽に声かけてね~」 「え、あ、あの、ありがとうございました!」 「いえいえ~」  男が爽やかに笑いながら去って行くのを見送りながら、由羅を見ると、由羅の眉間に皺が増えていた。 「なに?」 「気を付けろよ」 「え、何を?」 「今のやつ、たぶんお前のこと狙ってたぞ」 「はぁ?狙うってなんで?オレ別にガン飛ばしたりしてねぇぞ?」  学生時代は目つきが悪いとかで、知らないやつにいちゃもんをつけられることは多かったけど、さすがに大人になってからはそういうことはなかった。  だいたい、今は赤ん坊を抱いているんだし、こんなところでケンカ売ったりしねぇだろ……? 「そういう意味じゃないんだが……」  ハテナマークを飛ばすオレに、由羅がちょっと呆れた顔でため息を吐いた。 「……まぁ、この話は後にするか。こんなところにいると莉玖が風邪をひく」 「あ、そうだよな。じゃあ、洗い場行くか!」  オレは先に入った時に身体も髪も洗っているので、今回は莉玖を洗うことに集中できるから精神的にかなりラクだ。  自分も一緒に洗うとなると、どうしても(せわ)しないからな~…… 「ほら、莉玖~。でっかい泡だぞ~!美味しそうなソフトクリーム!」 「きゃあっ!」  オレが莉玖の頭を洗いながら、頭の上にでっかい泡を乗っけると、莉玖が鏡を見ながら自分の頭に手を伸ばして泡をぺちゃんと潰した。 「あ~潰れた~!あははは!」 「綾乃、あんまり遊んでいると風邪ひくぞ?」 「はーい、よし、莉玖お目目つぶって~!お湯かけるぞ~?」 「あい!」  莉玖はシルキーバスが気に入ったらしく、身体を洗った後も自分から入りたがった。 「由羅、オレと莉玖はちょっと温まったら出るから、由羅はゆっくりして……」 「私も一緒に出る」  オレが気を使ってやったのに、由羅はまた被せ気味に返事をした。 「でも、お前露天風呂行ってねぇだろ?露天風呂からの景色良かったぞ?」 「今は暗いから海なんて見えないだろう?それに、お前たちがいないのに行っても面白くない」 「そか……なんつーか、由羅って意外と淋しがり屋だよな~」 「そうか?」  オレがちょっと苦笑すると、由羅が首を傾げた。  え、無自覚!?  だって、オレと莉玖がどこか行こうとしたら、大抵「一緒に行く」って着いてくるし……  「莉玖がいないと面白くない」とか、「一人で行っても楽しくない」とか……  そういう言葉が出て来る時点でかなり淋しがり屋だろ~!?  え、それとも、莉玖をオレに任せっきりにするのが心配ってこと?  オレそんなに信用ないか~?   「まぁ、いいけどな」   ***

ともだちにシェアしよう!