93 / 358

Let's travel!! 第93話

 どうもオレです。  おつりを受け取るだけのつもりだったのに、気がつくとなぜかオレは縛られていました。  どういうことっ!? ***  あれは数分前―― 「あ、僕の部屋ここだよ」 「え?あ、そか。それじゃオレはここで待ってる」  オレは、フルーツ牛乳を譲ってくれた親切な男、麻生(あそう)の部屋の前で止まった。 「部屋の前で待たれると、僕がきみを締め出しているみたいに見られるじゃないか。中で待ってて」 「え?いやでも……ちょちょちょっと!?」  麻生に腕を掴まれて、部屋に引っ張り込まれた。  別におつりを取って来るだけなんだし、不審に思う人なんていねぇだろ!? 「あれ?奥さんは?」  ここまでの道中、麻生は結婚していることや、ここには夫婦で泊っていることなどを話してくれた。  奥さんはまだお風呂に入ってるのかな? 「あぁ、彼女は自分の恋人と別の部屋にいるはずだよ」 「……はい?」 「この部屋は僕だけだよ」 「え、あの……夫婦で旅行に来てるんじゃ……?」  ぅ~わ、何かドロドロの予感!?  保育園でも結構いろいろな夫婦関係を見て来たが……ここも何だか闇が深そうな…… 「あぁ、うちは仮面なんだ。お互いの利害が一致したから結婚しただけで、恋愛感情はない。だから、互いに干渉しないのがルール」 「……でも旅行には一緒に来てるんだよな?」 「まぁ、仲のいい友人と部屋をシェアしてるのと同じだよ。感覚としてはね。彼女とは飲み友達みたいな感じかな。ここにも、たまたま行きたい場所が被ったから、予約を取る際に一緒のホテルを取っただけで、基本的に別行動だよ」  うん、意味がわからん!! 「そか、え~と、それでおつりは?」  夫婦関係は十人十色。  他人がとやかく言うものじゃない。  そんなことより、おつり!! 「だからね、僕ひとりでヒマなんだよね~。ちょっと相手してよ、綾乃くん?」 「いや、オレは忙しいから。それにもうこんな時間だし……早く部屋に戻らねぇと……」  一応、これでもオレは由羅家の家政夫兼ベビーシッターだ。  今回の旅行も、由羅がひとりで莉玖を連れて旅行に行くのは大変だから、オレがついて来ているわけで……だから、この旅行はオレにとっては仕事だ。  まぁ、オレも楽しんでいるので全然仕事って感じはしねぇけど…… 「え~?もう夜なんだから自由時間でしょ。赤ちゃんも寝てるだろうし……」 「甘い!!夜泣きってもんがあるんだよっ!!それに、夜こそついていてやらないと、急に熱が出ることも……」 「父親が一緒にいるんでしょ?なら大丈夫だよ。だいたい、住み込みで一日中子どもをみるとか、ブラックじゃんか~。労基に怒られちゃうよ~?」 「りょーき?」  どなたさん? 「労働基準監督署とか聞いたことない?」 「あ~!その労基か!!うん、それは全然大丈夫だぞ?うちの雇い主はちゃんと休暇もくれてるからな」 「そうなの?次の休みいつ?会おうよ」 「は?なんで?」 「綾乃くん、僕の好みだから」 「……え?」  麻生はにっこり笑うと、どこから出したのか縄を見せて来た。 「え、ちょ、おい!?」  命の危機を感じて逃げようとしたオレは、あっさりと麻生に捕まってベッドに押し倒されていた。 「僕ね、これが仕事なの」 「はあ!?」  仕事って……もしかしてヤバい系!?  こここ殺し屋的な!?  いや、待て待て!なんでオレが殺されなきゃいけねぇんだよ!?  オレそんなに誰かに恨み買うようなことなんて…… 「縄で縛るのがお仕事」 「縄で……?」  ん?殺し屋じゃねぇの?  ちょっとホッとしたが……  いや、でも縄で縛るのが仕事って一体どんな仕事だよっ!? 「お風呂で見た時から、綾乃くんの身体縛ってみたいと思っててさ~」 「は?オレの身体!?」 「そう。小柄なんだけど、まぁまぁ引き締まってるでしょ?僕は普段は男性専門で縛ってるんだけど、今度女性を縛って欲しいって言われてさ~、でも女性はあんまり経験ないから、困ってたんだよね。綾乃くんの体型なら、ちょうど次のモデルの子と同じくらいだし、ちょっと助けると思って縛られてくれない?」  麻生は、さも困っているかのようにため息を吐く。 「いやいやいや、っつーか、もうすでに縛ってるよな!?」  先ほどから、説明をしながらも麻生は手を止めずにオレの両腕を縛っていた。 「何言ってるの?こんなのまだまだ序の口だよ。ここから全身に行くからね~。きつかったり痛かったら言ってね~」 「ちょ、そもそもオレ、縛っていいとか言ってねぇしっ!!おいっ!?話を聞けぇえええ!!――」  麻生は本職だと言うだけあって、暴れるオレを物ともせずにテキパキと縛って行く。  あっという間に、オレは自分では動けない状態になっていた。 「どう?痛いところある?これは『諸手上げ縛り』って言うんだけど」 「痛いっ!背中!つるっ!!」 「あ~それは、身体が硬すぎなんだよ。これでもだいぶ緩めてるんだよ~?」    両手を頭の後ろで縛られているのだが、ずっと肘を上にあげた状態なので肩こりに効きそうだ……じゃなくてっ!! 「足の方は、『一本縛り』。う~ん、まぁM字にしても良かったんだけど……そうだな、M字の方がいいかな~……でも、脇もいいんだよな~……」  麻生はオレの話しなど聞こうともせず、ひたすら縛り方についてあーだこーだと言いながら縛り方を変えていく。  本人は大真面目……なのかな?  ヘラヘラしていてどこか軽いイメージがあったが、縛っている時の麻生の目は、真剣で、どちらかと言うと職人の目をしている。  縄が緩んだら逃げようと思うのに、何をどうしているのか緩んだと思ったらもう次の縛り方に入っているので、逃げる隙がない。  めちゃくちゃ縛られているのに、縄が食い込んで痛いということもないし……  ひとまず、命の危機はなさそうなので、オレは抵抗するのを止めた。  どうでもいいから、早く終われ~…… ***  

ともだちにシェアしよう!